鷲は舞いおりた(1976年イギリス・アメリカ合作)

The Eagle Has Landed

うーーーーーーん...これは面白そうな映画だと、期待していたのですが・・・
残念ながら、僕はあんまり楽しめなかったなぁ。チャーチル暗殺を画策するという題材は面白かったけど、
いかんせんジャック・ヒギンズの同名小説の原作に話題性があったのか、チョット生真面目過ぎたという感が残る。

監督はアクション映画で定評があるジョン・スタージェスで、本作で引退したので、遺作となりました。

最初は冗談から始まったとされる、ヒトラー独裁を止めようとチャーチルが立ち上がり、
第二次世界大戦に於いてナチス率いるドイツの劣勢が伝えられ、劣勢を跳ね返すためにと
チャーチルを誘拐して暗殺してしまおうと軍部が計画し、半信半疑だったラドル大佐が作戦の指揮を任され、
数々の勲章を得ながらも反逆行為で懲役を喰らっていたシュタイナーを作戦のリーダーに任命することにする。

先遣隊としてイギリスを倒すためにアイルランドからやって来た、謎の男デブリンが加わって、
着々とチャーチルを誘拐する準備を進め、後から町にやって来たシュタイナーの部隊も加わるものの、
用水路に流された女の子を助けるためにと、一人の兵士が水車に挟まれて事故死したことをキッカケに
思わぬ落とし穴が待っていて、彼らが用意周到に計画していたチャーチル誘拐作戦は狂っていきます・・・。

このタイトルは乗り込んで来るシュタイナーの部隊が落下傘部隊だったので、
大きなパラシュートを開いて次々と海辺に降りてくる姿を、鷲に例えて表現したものなのでしょうね。

確かにジョン・スタージェスなりに工夫した痕跡はうかがえる作品になっているのですが、
どうにも映画は盛り上がりに欠ける。これはジャック・ヒギンズのフィクションであって、冒険小説の映画化なわけで
正直言って、もっと胸躍るようなワクワクさせるものが欲しい。ところがどこかモッタリし感じで、一向に盛り上がらない。
オマケに主要キャストも、核となるのはマイケル・ケイン、ドナルド・サザーランド、ロバート・デュバルですからね。
ほとんどがバイプレイヤーの役割を果たす名優たちですので、いかんせん映画として“華”が感じられない。

それでいて、職人気質な魅力を感じさせる映画かと聞かれると、そんな感じでもないので中途半端に映る。
物語のオチはともかくとして、チャーチルを誘拐してドイツへ連行し、暗殺してしまおうとするという奇想天外な計画は
ヒトラーのことだから、あながち絵空事とも言えないような計画に思え、なかなか魅力的なコンセプトだったと思う。
(まぁ・・・よくよく考えると、敵対する国の首相のスケジュールが容易く分かるわけがないんですけどね・・・)

だからこそ、もっとエキサイティングに撮って欲しかったし、一つ一つのシーンに緊張感が欲しかった。
しかし、本作のジョン・スタージェスが描いたことって、まったくそんな感じではなかったし、あまりにストレートで
無理に史実に忠実に描こうとしたように見えてしまった。もっとも、ラドルもシュタイナーもデブリンも任務には忠実だが、
狂信的なヒトラーの崇拝者という感じではなく、どこか懐疑的というか、中道な思想の持主にも見えなくはない。

しかし、結果として彼らは自ら進んで作戦に加わって、それぞれが役割を果たそうとするわけです。
僕はもっと大胆に脚色しても良かったと思うし、どうせなら内輪もめのような裏切りが描かれるとか、
権力闘争のようなニュアンスが加わるとか、何か大きなドラマが一つでも描かれていれば映画は変わったと思うし、
この地味一辺倒の映画という印象だけで終わってしまうことはなかったと思う。カルトな内容でもないし、中途半端だ。

ナチスのヒムラー役としてドナルド・プレザンスも出演しているのですが、彼にいたっては出演時間が短過ぎる。
もっと見せ場を作れば、しっかりと出来る役者なだけあって、このチョイ役のような扱いは無駄遣いに見えてしまった。

一方で、この映画でマイケル・ケインが演じたシュタイナーのキャラクターは複雑で面白かったですね。
彼はドイツ軍に従軍して数々の戦績を残して表彰されていたせいか、部隊の部下たちからの信頼も厚い。
ユダヤ人が理不尽にも迫害される現場に居合わせると、思わず黙っていられず親衛隊の迫害を妨害する。
これが結果的に目を付けられ、反逆行為ととらえられて懲役させられてしまう。ところがチャーチル誘拐作戦に誘われ、
いざ部隊を率いる役割を担うと、ヒトラーの指令に忠実に行動する。そして、あくまで任務を忠実に遂行しようとします。

人道的な部分を見せたかと思いきや、あくまで非情な軍人であることを思い出させるような表情を見せる。
この辺のキャラクターの使い分けは実に見事で、若い頃のマイケル・ケインはあまり評価されていなかったのですが、
この頃も前年に『王になろうとした男』をはじめとして、なかなか良いですね。どちらかと言えば、遅咲きの役者ですが。

ドナルド・サザーランド演じるデブリンは、調子のいい男で飲み屋で挑発的行為をとったために、
荒くれの男たちに殴られて窓から放り投げられるなんてシーンがありますが、先遣隊として先に現地に乗り込んで、
沼地の管理人として潜伏して人妻とのロマンスがあったりとか、随分と目立つ行動をしているのが妙に気になった。
そもそも彼らがチャーチルの誘拐を試みるのはイギリスの保養地なわけで、ドイツ人だとバレちゃマズいのですから。
そう思うと、シュタイナーの部隊もそうなのですが、ドイツ軍だとバレるようなことがあっては作戦は失敗ですからねぇ。

ジョン・スタージェスにあんまり細かな描写を求める方が酷なのかもしれませんが、
どこかドイツ軍の作戦と中身が、粗雑に見えてしまうところが本作の致命的なウィーク・ポイントなのかもしれない。

この映画を観終わって、僕なりにそもそも本作の何がいけなかったのかを考えたのですが...
チャーチルを誘拐するという奇想天外な作戦は魅力的だとしても、緻密さが希薄過ぎるのがいけないですね。
この作戦は、国防長官のカナリスが勝手に思いついた誘拐作戦を一方的にラドル大佐に話して本気にさせて、
それでもカナリスは勝手にこの作戦はダメだと自己完結したくせに、動き始めてしまった無謀な誘拐作戦を
責任を持って止めようとしなかったカナリスが一番悪い(笑)。彼がしっかりしていれば、こんな破滅は無かったでしょう。

本作はあくまでフィクションなのですが、現実にこんな無謀な作戦があったのかもしれませんね。
終戦近くなった頃のドイツ軍はかなり追い詰められていたので、現実には考えられないこともあったのでしょうね。

そういう意味では、本作は思い切ってコメディ映画にしてしまった方が良かったかもしれない。
アクション・シーンは悪くはないのですが、マジメに描けば描くほど映画として噛み合っていない感じが増長する。
主演のマイケル・ケインは喜劇も上手くこなせる役者ですので、十分にコメディにできる土台はあったと思います。
ただ、そうなってくるとほぼアクションが専門だったジョン・スタージェスが監督というのがミスマッチということになる。

だからなぁ・・・やっぱりこういう出来になってしまうのは、ディレクターを人選ミスしたと思うんだよなぁ。
原作は有名小説なのですから、大胆に脚色しづらいところだっただろうけど、これでは悪い意味で中途半端です。
ジョン・スタージェスだと、どうしても生真面目に演出してしまいますからね。ここまで正攻法だと難しいと思います。

70年代はハリウッドでアメリカン・ニューシネマの大きな潮流が訪れ、オールドな映画が斜陽に追いやられ、
ジョン・スタージェスのような古参はキツかっただろうと思います。そういったディレクターの多くは、本作のような
戦争を題材にした作品を多く手掛けていたように思いますが、そのスピードは70年代後半に入ると更に加速します。
本作もその流れを押した作品の一つかと思いますが、オールスター・キャストの『遠すぎた橋』も似た部類の作品です。

そう思って観ると、本作と『遠すぎた橋』は作品のコンセプトがソックリですね。どちらもマイケル・ケインが出演してるし。

個人的には『遠すぎた橋』もやたらと冗長に観えた作品で、あまり良い印象がないのだけれども、
それでも本作は『遠すぎた橋』とまともに比較すると、分が悪いなぁとかんじてしまう。そもそもの特長がない。
本作はバイプレイヤーは集めたけど、中途半端に集めただけだし、オールスター・キャストと言うには地味過ぎる面々。

映画の尺も2時間には収まりきらず、おそらくかなり原作をかなり割愛したのだろうけど、
それでも生真面目にやり過ぎたせいか、全体的な起伏に乏しく、どこか間延びした印象を受け必要以上に長く感じる。

やはりヒトラーに命じられた指令を無謀な作戦として立案し、ホントに実行しようとするという展開なので、
ヒトラーが全く描かれずに軍部の暴走のような形で描いてしまっては、映画が盛り上がらない。これは実に勿体ない。
特にカナリスの後ろにはヒトラーがいたわけで、勝手に作戦にGOサインを出すヒムラーもヒトラーを崇拝する一人だ。
だったら、ヒトラーの意向を拡大解釈してでも、汲み取ろうとする姿の背後に何があったのかを描くべきだと思う。

ナチス・ドイツの軍部だって優秀な人材はいたはずで、冷静に戦局を見極めるポジションの人間もいたはずだ。
せっかくナチス・ドイツが崩壊するキッカケを作ったチャーチルとの攻防で、トップが誰一人直接描かれないのは・・・。

とまぁ、僕の中では不完全燃焼で終わってしまった映画だったのですが、
戦争がメインというよりも、ある無謀な作戦に命を賭けざるをえない兵士たちの哀しい運命を描いた作品として、
ドナルド・サザーランド演じるデブリンのどこか奇妙な存在感に免じて、風化だけはして欲しくない一作ではあります。

(上映時間134分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・スタージェス
製作 ジャック・ウィナー
   デビッド・ニーブンJr
原作 ジャック・ヒギンズ
脚本 トム・マンキーウィッツ
撮影 アンソニー・B・リッチモンド
美術 チャールズ・ビショップ
編集 アン・V・コーツ
音楽 ラロ・シフリン
出演 マイケル・ケイン
   ドナルド・サザーランド
   ロバート・デュバル
   ジェニー・アガター
   ドナルド・プレゼンス
   アンソニー・クエイル
   ジーン・マーシュ
   トリート・ウィリアムズ