プラダを着た悪魔(2006年アメリカ)

The Devil Wears Prada

ファッションにはまるで興味の無かったジャーナリスト志望の女の子が、
人気ファッション雑誌の鬼女性編集長のアシスタントに採用されたことから、
自身の考え方やファッションが一変し、私生活までもが変わっていく様子を描いたコメディ映画。

全米で大ヒットしただけに、それだけ話題性のあった映画であり、
事実、まずまず面白かったことは確かなのですが、個人的には僅かに物足りなさはあったかな。

『プリティ・プリンセス』でアイドル女優となったアン・ハサウェイがヒロインに抜擢されましたが、
やはりこの映画は良くも悪くもメリル・ストリープの映画ですね。残念ながら彼女の印象が強過ぎます。
今回、メリル・ストリープは鬼女性編集長のミランダを演じておりますが、どんな無理難題も要求し、
どんな困難な仕事であっても達成されないと評価はしない、超絶的なまでの結果主義者。

仕事の配分や段取りなども全く考えていないので、ある意味では現代と逆行したビジネスモデルですが、
この映画の上手かったところは、そんな彼女の姿の一貫性が揺らがない程度に、弱さを描いた点だろう。
映画は大方、コメディ調で進んでいくのですが、時にシリアスな表情を見せるのが実に効果的でした。

この映画、一つの大きなキー・ポイントとなることは、ヒロインの上昇志向だろう。
確かにヒロインはミランダのアシスタントを務めることにより、生活や価値観が一変してしまいますが、
劇中、貫かれている点と言えば、彼女はあくまで強い上昇志向を持って仕事をしていたという点だろう。
「習うより慣れろ」とはよく言ったもので、彼女自身、一生懸命、仕事をするということを考え直し、
外見や内面を変えてしまおうと自己の変革を行います。それは彼女の嗜好が変わったというよりも、
彼女自身、根底にあったであろう上昇志向が働いているがゆえ、実際の行動が伴ったのでしょう。

映画の後半で、彼女はミランダが仕事仲間ナイジェルにした仕打ちを非難します。
「アタシにはあんなマネはできない...」と。言われたミランダは表情一つ変えぬままヒロインに言います。
「もうしたじゃない、エミリーに」と。エミリーとはミランダの仕事に同行し、パリに行くことを夢見ていた女性。
ヒロインの仕事が上手くいくと同時に、エミリーがパリへ同行する話し自体が無くなってしまったんですね。

まぁ但し、ヒロインもエミリーへチャンスを譲るタイミングはあったはずだし、
従来の生活へと戻るチャンスは何度もあったはずであり、結果的にエミリーを踏み台にしてしまったんですね。

勿論、ヒロインに悪気があったわけではないだろうし、
そもそも計画して行ったことでもない。但し、唯一、無意識的にそういった方向に向いてしまうのは、
彼女自身が強い上昇志向を持っているからだと僕は思うんですよね。
この辺は本作通して、一貫して描かれ続けていることに、映画の大きな特徴があると思います。

コメディ映画としては、テンポも十分に良く、コミカルに構成できているし、
コメディ映画としてのツボは上手く押さえられた内容にはなっていると思います。
そういう意味では、監督のデビッド・フランケルのビジョンが明確に反映されているんでしょうね。
文字通り、本作なんかは思い描いた通りに映像化できているという感じがします。

でも、前述した物足りなさがどこに起因するかと言うと、
ヒロインが苦境を乗り越えた後での爽快感を、今一つ表現し切れていないところですね。
確かにミランダのアシスタントとして評価を上げていく過程を描いてはいるのですが、
ヒロインが頑張って成功を手にするというセオリーの向こう側に、私生活が壊れ、
恋人と友人を失ってしまうという、ヒロインに過酷な現実が振りかかるのが目立ち過ぎましたね。

ヒロインにとってプラスなエピソードがあればいいのですが、
新しいロマンスも決して実りあるものではないだけに、若干の暗さがあるために、
今一つフルに爽快感を演出することができなかったのが残念ですね。

本作のヒットのおかげで、更にアン・ハサウェイが注目されて、
当時は確か日本のCMなんかにも出演していたはずなのですが、
その影響なのか、本作でもまるでファッションに興味のない時代から、どことなくオシャレに着飾っている。

それだけでなく、ニューヨークの街中をコーヒー携えて、
胸元付近をユッサユッサさせて走るシーンには正直、ドキドキしてしまいました(←おバ●)。

あと、ドギツいアイシャドーにはビックリだけど、エミリーを演じたエミリー・ブラントも利いていましたねぇ。
「あなたがヘマしたら、アタシがクビになるんだから」と威張り散らす役どころでしたが、
決して出番は多くない中、ビシッとエミリーを演じたからこそ、アン・ハサウェイが活きたのかもしれません。

ただなぁ・・・他人事だから、こんなことが言えるのかもしれませんが...
ヒロインのボーイフレンドにも理解がないよなぁ(笑)。ミランダのアシスタントの仕事の良し悪しはともかく、
彼女の職の性格を知っていれば、彼女自身が影響されてしまうことは容易に予想できたはず。
何となくではありますが、彼の言動から亭主関白みたいな部分が感じられて、少し違和感がありましたね(笑)。

それに輪をかけるように、ヒロインに言い寄ってくる作家の兄ちゃんも、なんか安っぽい(笑)。
せっかくアン・ハサウェイをプッシュする企画なのに、どうしてこんなに男に魅力がないのだろうか。

これなら、ナイジェルを演じたスタンリー・トゥッチの方がずっと印象に残るじゃん!
(勿論、ヒロインのロマンスの対象になるという意味ではありませんが。。。)

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・フランケル
製作 ウェンディ・フィネルマン
原作 ローレン・ワイズバーガー
脚本 アライン・ブロッシュ・マッケンナ
撮影 フロリアン・バルハウス
編集 マーク・リヴォルシー
音楽 セオドア・シャピロ
出演 アン・ハサウェイ
    メリル・ストリープ
    スタンリー・トゥッチ
    エミリー・ブラント
    エイドリアン・グレニアー
    トレイシー・トムズ
    サイモン・ベイカー

2006年度アカデミー主演女優賞(メリル・ストリープ) ノミネート
2006年度アカデミー衣裳デザイン賞(パトリシア・フィールド) ノミネート
2006年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2006年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2006年度ロンドン映画批評家協会賞助演女優賞(エミリー・ブラント) 受賞
2006年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(メリル・ストリープ) 受賞