ファミリー・ツリー(2011年アメリカ)

The Descendants

モーターボートの事故によって、妻が昏睡状態になった不動産王の男が、
非行に走る娘から妻が浮気にのめり込んでいたことを知らされ、非行の娘の扱いに悩みながらも、
なんとかして、妻が最期の時間を迎えつつあることを、浮気相手に知らせようとする姿を描いたドラマ。

監督は『アバウト・シュミット』のアレクサンダー・ペインで、
ストーリーそのものはかなり個性的なので、おそらく賛否両論だと思うが、
映画の出来自体はそこそこ良いと思います。これは新しい着眼点を持った映画です。

アレクサンダー・ペインの演出の大きな特徴でしょうか、
静かなシーン演出の積み重ねで映画を構成するせいか、とても映画が落ち着いていて安定している。

バタバタと慌てている、騒々しい映画という印象を与えないあたりが、
演出家アレクサンダー・ペインの上手さだと思いますね。奇をてらった部分を感じさせないのも良いですね。

それと、劇場公開当時から話題となっておりましたが、
主演のジョージ・クルーニーが役者として、次のステージに進んだかのように、
それまでのイメージを打破するかの如く、絵に書いたような典型的なダメ親父が家庭の危機に瀕して、
バラバラになりかけた家族を、母親の死を受け入れることで乗り越えようと孤軍奮闘しているうちに、
家族が結束を取り戻し、再び家庭生活を取り戻すまでという、難しい役どころを見事に演じている。

オスカーの価値があるかと聞かれれば、それは疑問だが、
個人的にはこの映画での彼の芝居はもう少し話題になっても良かったかなぁと思えるな。
これからは、こういうダメ親父みたいな役柄も、積極的にこなしていって欲しいですね。

正直言って、物語の舞台がハワイである必然性は薄い内容だと思うけど、
それでも原作に忠実に映画化するという意味合いでも、あまりハリウッド映画でハワイが舞台になる
映画が少ないだけに、ロケーションも抜群で、良い意味で差別化が図られていますね。

まぁ妻の浮気相手に、実際に会いに行って、妻が最期の時を迎えつつあるということを知らせるために、
浮気相手のバケーション先まで行って、家族がいるコテージへ押しかける行動なんかは、
おそらく日本の感覚で言えば、賛否両論になるのではないかとも思いますが、そんな難しいシーンにあっても、
本作は実に上手く修羅場を描けており、主人公が感情的になる部分を最小限に留めるなど、
作り手の慎みや配慮が感じられる作りになっている。実に丁寧に作られている印象を残せていると思いますね。

そういう意味では、映画の終盤で浮気相手に「病室へ見舞いに来てくれ」と伝えたはずなのに、
その浮気相手の妻が病室にやって来て、あらぬ方向へと進んでしまい、主人公が戸惑ってしまうという、
チョットだけスラップスティックに描かれたシーンがあって、これはこれで面白かったですね。

が、そういった緩急が映画の中で実に上手く付いており、
それでいながら映画のバランスを著しく崩してしまうような、大きなミステイクにはなっていない。
この映画はチョットしたユーモアが、実に巧妙にブレンドされており、この辺はアレクサンダー・ペインらしい。

こういうユーモアと、シリアスさのバランスを上手く保てるあたりが、
アレクサンダー・ペインのバランス感覚の良さであって、これはとても大切な能力である。

この映画に登場してくる人物のほとんどは、それぞれに問題を抱えた人たちである。
主人公の家庭は言うまでもないが、妻の父親にしても、いくら失礼な振舞いをされたとは言え、
見ず知らずの孫のボーイフレンドを殴ってしまうし、孫の前で平然と主人公を罵倒する。
彼だけでなく、主人公の従兄弟たちも、各々に人格者というわけではなく、どこかに問題を抱えている。
しかも、ほぼ全員がいい年こいて、主人公をアテにして生きている節を感じさせる体たらくである。

言うなれば、そういった人々をシニカルに描いた映画でもあるのですが、
アレクサンダー・ペインは決して、この映画の登場人物を卑下して描くことはしない。
まるで「こんな連中だって、愛すべき人間なんだ。だって、この世に完璧な人間なんていないじゃん!」と
言わんばかりに、客観性とは対極する、彼なりの人間愛が溢れているように、僕には感じられましたね。

ですから、少々、乱暴に言うと、
この映画はダメ人間を寛容的に見てあげられる心を持って鑑賞しないと、楽しめないでしょうね。
ハッキリ言って、これは明確なるダメ人間を描いた映画です。この前提条件だけは、ハッキリさせておくべき。

僕はアレクサンダー・ペインが撮った、『アバウト・シュミット』は実に優れた映画であったと、
記憶しているのですが、一貫しているのは彼はあくまで人間らしさを追求しているということですね。
『アバウト・シュミット』のラストシーンでは、瞬間的にジャック・ニコルソンに実に人間らしい芝居を求めた、
アレクサンダー・ペインですが、本作も実に日常的なラストシーンを選択しており、これも秀逸ですね。

こういう僅かな差ではあるのですが、大袈裟ではなく、些細な仕掛けのある映画って良いんですよね〜。

確かに映画の方から、観客を選んでしまうタイプの映画であることは否定しませんが、
この不思議な感覚に陥る部分も含めて、本作の持ち味であることは理解しておきたいところ。
特にアレクサンダー・ペインの映画が好きな人は、期待を裏切らない映画と言っていいでしょう。

ちなみに主演のジョージ・クルーニーが評価されたことは言うまでもありませんが、
非行に悩まされる彼の長女を演じたシェイリーン・ウッドリーは、各方面で絶賛された注目株。
ひょっとしたら、数年後のハリウッドではトップ女優として、更に成長しているかもしれません。

それにしても、ナンダカンダ言って、昏睡状態に陥った妻の生命維持装置を外して、
親族や友人たちに早く別れの挨拶をしに来てくれと懇願し、自然に身を任せるよう選択する、
主人公のツラさは、実に真に迫った間隔があり、身につまされるのがたまらなく切ない。
これから押し寄せるであろう悲しみを覚悟に決めるという、とてつもなくツラい瞬間を上手く描けていると思いますね。

欲を言えば、モーターボートの事故で昏睡状態に陥った妻の周辺事情は
もう少し丁寧に描いて欲しかった。特に妻の不貞が大きなテーマになっているだけに、
ここまで一方的に描いてしまうと、フェアではないように思えるのが残念ですね。

おそらくジョージ・クルーニーにとって、一つの転換期となる作品になるでしょうが、
これまでの彼が作り上げてきたイメージを、完全にブチ壊す素晴らしい芝居と言っていいと思う。
彼のファンであれば、一度は観ておかなければならない作品と言えるだろう。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 アレクサンダー・ペイン
製作 ジム・バーク
    アレクサンダー・ペイン
    ジム・テイラー
原作 カウイ・ハート・ヘミングス
脚本 アレクサンダー・ペイン
    ナット・ファクソン
    ジム・ラッシュ
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 ケビン・テント
音楽 ドンディ・バストーン
出演 ジョージ・クルーニー
    シェイリーン・ウッドリー
    アマラ・ミラー
    ニック・クラウス
    ボー・ブリッジス
    ロバート・フォスター
    マシュー・リラード
    ジュディ・グリア
    メアリー・バードソング
    ロブ・ヒューベル

2011年度アカデミー作品賞 ノミネート
2011年度アカデミー主演男優賞(ジョージ・クルーニー) ノミネート
2011年度アカデミー監督賞(アレクサンダー・ペイン) ノミネート
2011年度アカデミー脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度アカデミー編集賞(ケビン・テント) ノミネート
2011年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度ワシントンDC映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度ヒューストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度ヒューストン映画批評家協会賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度ヒューストン映画批評家協会賞脚本賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞監督賞(アレクサンダー・ペイン) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞脚本賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度セントルイス映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度セントルイス映画批評家協会賞脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度サウス・イースタン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度サウス・イースタン映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度フロリダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2011年度フロリダ映画批評家協会賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度フロリダ映画批評家協会賞脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度ユタ映画批評家協会賞脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞
2011年度オクラホマ映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
2011年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ジョージ・クルーニー) 受賞
2011年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
2011年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(アレクサンダー・ペイン) ノミネート
2011年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(シェイリーン・ウッドリー) 受賞
2011年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ) 受賞