ディパーテッド(2006年アメリカ)

The Departed

02年の香港映画『インファナル・アフェア』のハリウッド版リメーク。

後発の映画ということもあってか、さすがに本作の方が細部にわたって良く配慮されていて、
少々、説明的過ぎる傾向の強い内容ではありますが、リメークの方が分かり易い仕上がりだ。

こういう言い方をすると、アンチ・ハリウッド派が反発しそうな気がするけど、
本作のようなリメークを観ると、やっぱりハリウッドの底力を見せ付けられたような気がする。
ハッキリ言って、資金力や経験知の豊富さが、かなり強く影響している作品だと思う。

但し、敢えて最初にネガティヴな意見を言えば...
マーチン・スコセッシの監督作としては、ごくごくありふれた、及第点レヴェルの映画ではなかろうか。
一番、オスカーとは縁遠かったマーチン・スコセッシがついにオスカーを獲得した作品として話題になりましたが、
個人的にはそう驚くほどのシーン演出は無かったし、強く観客に心に訴求するテーマも無かったと思う。
実は本作、僕は珍しく映画館で観ているのですが、その時の印象も特段、強いものではなかったですね。
あれから約3年経った今、改めて再見しましたけど、あまりその時の印象とは変わっておりません。

かなり高飛車な意見を言わせてもらえば(笑)、
「マーチン・スコセッシなら、これぐらいできて当たり前」って感じかな。

まぁ2時間30分にも及ぶ長編なのですが、サクサク、サクサク見せてしまえるというのは、
さすがにマーチン・スコセッシの編集に対するこだわりの強さがあるからこそ、為せる技って気がしますね。
感覚的にはマーチン・スコセッシが撮った90年の『グッドフェローズ』に近いものがあると思いますね。

確かに『インファナル・アフェア』は実に魅力的な題材だったと思う。
映画のネタとしては面白かったのだけれども、無駄を作る余裕が無かったためか、
映画がスリムになったという好材料はあった反面、イマイチ作り込めていなかったのも事実だ。
そこを見事に補ったのが今回のリメークというわけなのですが、映画がチョット軽いのが気になりますね。

さすがにタイトルが「Departed:死者」を意味するだけあってか、やたらと簡単に登場人物が死んでいく。
これが結果として、映画を軽くしてしまったことに貢献している。これはマーチン・スコセッシらしくないなぁ。

それは映画のクライマックスの雑な処理に集約されている感じで、
アッサリと死なせるのではなくって、もうチョット映画的な見せ場をしっかり作る努力をして欲しかった。
なんか闇雲に登場人物を殺しているような感じで、正直言って、あまり感心しませんでしたね。

とは言え、さすがに資金を投入して製作しただけあってか、
本作にはオリジナルにはない、安定した映画という感覚がある。賛否はあるかもしれないが、
映画のアイテムとしての携帯電話の扱い方も、これからの映画界ではスタンダードとなるだろう。

それからマフィアのボス、コステロを演じたジャック・ニコルソンが相変わらずやりたい放題な感じで良い。
今回、ジャック・ニコルソンはマーチン・スコセッシ監督作に初参加となりましたが、意外に合いますね。
彼自身、過去に映画の中で何度も悪の親玉を演じたことはありますが、今回のもなかなか傑出していると思う。
今時、70歳の役者で若い姉ちゃんとのキスシーンを演じても、何も文句を言われないのは彼ぐらいだろう(笑)。

オマケに映画終盤にある倉庫での銃撃戦のシーンでも、
圧倒的なインパクトを持っており、言ってしまえばジャック・ニコルソンという俳優の貫禄に依存している。

個人的にはレオナルド・ディカプリオとマット・デイモンの役は反対の方が良かった気がするんだけど、
それでも2人とも微妙な関係を巧みに表現していますね。この2人の頑張りがあったからこそ、
映画のクライマックスにわずかに用意されていた対決シーンに緊張感が生まれたと言っても過言じゃありません。

そして2人が恋する分析医マドリンの存在も悪くない。
この辺のニュアンスは『インファナル・アフェア』より強くなっていて、深みがあったのは確か。
演じたヴェラ・ファーミガって女優さんは、これまで小さな役ばかりでしたが、ようやっと紅一点の役を手にしました。
ひょっとしたら、これからスター女優になっていくことが約束された存在かもしれませんね。
(ちなみに彼女は01年の『15ミニッツ』の時点で、そこそこ目立つ存在感は発していました)

そういえば、本作がヒットして間もなく、
三部作とするという噂がありましたけど、あれってどうなったんでしょうか?
オリジナルの『インファナル・アフェア』も工夫して続編が発表されましたけど、本作もホントにやるのでしょうかね。
個人的にはハリウッドのアイデアの枯渇を象徴しているようで、こういうアイデアに依存するのは感心しないけど。

それはともかく、
純粋なエンターテイメントとしては申し分のない出来であり、十分に楽しめます。
まぁマーチン・スコセッシ監督作という触れ込みでは、及第点レヴェルの映画としか捉えられませんが、
逆に言えば、彼がメガホンを取ったからこそ、ここまでの充実度を誇れたのかもしれません。
(他のディレクターがメガホンを取っていたら、凡作として埋もれてしまっていたかも...)

『インファナル・アフェア』を観て、よく分からない部分があった人は
ストーリーの細部を補うという意味で本作を鑑賞すると、そこそこ楽しめるかと思います。

(上映時間151分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15]

監督 マーチン・スコセッシ
製作 マーチン・スコセッシ
    ブラッド・ピット
    ブラッド・グレイ
    グレアム・キング
原案 アラン・マック
    フェリックス・チョン
脚本 ウィリアム・モナハン
撮影 ミヒャエル・バルハウス
編集 セルマ・スクーンメーカー
音楽 ハワード・ショア
出演 レオナルド・ディカプリオ
    マット・デイモン
    ジャック・ニコルソン
    ヴェラ・ファーミガ
    マーク・ウォルバーグ
    マーチン・シーン
    アレック・ボールドウィン
    レイ・ウィンストン
    アンソニー・アンダーソン
    ケビン・コリガン
    ジェームズ・バッジ・デール

2006年度アカデミー作品賞 受賞
2006年度アカデミー助演男優賞(マーク・ウォルバーグ) ノミネート
2006年度アカデミー監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度アカデミー脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度アカデミー編集賞(セルマ・スクーンメーカー) 受賞
2006年度全米監督組合賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度全米脚本家組合賞脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ウォルバーグ) 受賞
2006年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度ボストン映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ウォルバーグ) 受賞
2006年度ボストン映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度シカゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度シカゴ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度シカゴ映画批評家協会賞脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞(セルマ・スクーンメーカー) 受賞
2006年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度サウスイースタン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度サウスイースタン映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度サウスイースタン映画批評家協会賞脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度フェニックス映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
2006年度フェニックス映画批評家協会賞編集賞(セルマ・スクーンメーカー) 受賞
2006年度フェニックス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度フロリダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度フロリダ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
2006年度フロリダ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度フロリダ映画批評家協会賞脚本賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度オクラホマ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度カンザスシティ映画批評家協会賞脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度オースティン映画批評家協会賞主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) 受賞
2006年度オースティン映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
2006年度セントルイス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度セントルイス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度アイオワ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度セントラルオハイオ映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度セントラルオハイオ映画批評家協会賞脚色賞(ウィリアム・モナハン) 受賞
2006年度ノーステキサス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2006年度ノーステキサス映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
2006年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞