ディープエンド・オブ・オーシャン(1999年アメリカ)

The Deep End Of The Ocean

劇場公開当時、賛否が分かれた作品らしいのですが僕はこの映画、結構良かったと思います。
84年の『恋におちて』を撮ったベルギー出身のウール・グロスバードの事実上の遺作となったヒューマン・ドラマ。

同窓会に子どもを連れて行った写真家のベスが、チョットした時間の間に子どもの1人の3歳の息子が
行方不明となり、周囲の助けを借りて慌てて探すものの見つからず、警察が公開捜査に踏み切るものの
やはり見つからずに時間が経過し、9年後に偶然に行方不明となった息子の雰囲気を持つ少年に出会い、
警察に連絡したところ、ホントに行方不明になっていた実の息子だったという、誘拐事件の経緯と顛末を描いています。

これは単純に誘拐事件を描いた作品というわけでも、ただひたすら子どもを探すだけの映画ではなく、
生みの親としての苦悩、育ての親としての苦悩、記憶にない生みの親と暮らす子どもの苦悩、兄弟の苦悩など
様々な苦悩をクロスオーヴァーさせて、実に複雑なそれぞれの想いを描いた、ありそうで無かったタイプの作品です。

ミシェル・ファイファー演じる母親のベスに色々と反感を持つ人もいるだろうけど、
僕はむしろ、彼女が表現した矛盾した感情というのは、実に人間的なもので不完全さを見事に体現したと感じた。

勿論、「ああすれば良かった、こうすれば良かった」とか「なんで、こうなってしまったんだろ?」と後悔したり、
時に感情的になって周囲にキツく当たってしまったり、無感情的に他人に冷たく接してしまったりすることがある。
第三者的な見方をすれば「お前が目を離したから、自業自得でこうなったんだろ?」と正義感を振りかざしたくなるが、
でも、自分がお腹を痛めた生んだ子供を失ってしまい、理路整然と冷静かつ常識的に立ち振る舞える人間は少ない。
現に自分も同じ立場だったら、そんな風にできる自信などないし、僕はベスのことを非難することはできないなと思った。

幸か不幸か、結果的に行方不明となっていた息子を発見するわけですが、失った時間を取り戻そうと
やっと家族が元に戻れると思ったものの、現実はそうは甘くありません。事実上の育ての親との時間が長くなり、
息子の記憶からしても、育ての親との記憶しかないからであり、半ば他人と暮らさなければならない状況だからです。

そうなってしまった当事者からすると、とても難しい状況に追いやられていることは想像に難くない。
現実にこんな事件があったのかまでは知りませんが、本作はそういった失われた時間を取り戻す難しさも描いています。

誰だって、感情的になっても仕方がない状況なのは分かってるとは思うけど、
つい感情的になってしまうし、時に言ってはいけないことを言ってしまったりする。これは避けられないことなのかも。
トリート・ウィリアムズ演じるベスの夫も、感情的になってしまうシーンがありますけど、彼の気持ちもよく分かります。
だからこそ、お互いに責め合っても仕方がないのですが、それでもぶつかってしまうところは人間らしさでもあると思う。

なので、正直言って...観ていて、少々疲れるタイプの映画ではあるので、それは覚悟しておいた方がいいです。
時に理不尽であったり、時に理にかなわないことも描かれるし、お互いに感情をぶつけ合うところがありますからね。

僕はそういった部分に目を向けて、多少なりとも非生産的なやり取りにも真正面から向き合って描くことが
本作の使命であったのだろうと思うし、ウール・グロスバードはそういったデリケートな部分をしっかりと描いたと思う。
特に行方不明になっていた次男を取り戻してからの一連のシーンは、様々な葛藤が描かれていて特筆に値する。

唯一、僕がこの映画で気になったのは、やっぱりラストかな。このラストは納得性に欠けると言われても仕方ない。
おそらく原作通りの終わり方かと思いますが、この終わり方はとてもじゃないけど、自然な帰結には見えなかった。
映画のラストというのはスゴく大事だと思うのですが、このラストがもっと納得性を出せていれば傑作と言えたのに・・・。

子どもが見えなくなって、同窓会会場で必死になって探すベスが徐々に焦燥感にかられていく様子は印象的だ。

実際問題として、すぐに見つかることの方が多いのだろうけど、同じ状況になればみんな最悪のことを考えてしまう。
どうしたって精神的に余裕がなくなり、冷静に物事を考えられなくなるわけですね。その心理をよく描けていると思う。
周囲の声は徐々に聞こえなくなり、目を離してしまったときの記憶を呼び起こすよりも、心配な気持ちが先走ってしまう。

そんなベスの予感が当たってしまったようで、すぐに子どもは見つからずに警察に相談して公開捜査になります。
そこから9年という年月は想像を絶する長さですが、現実に子どもの誘拐事件で未解決なこともありますからねぇ。
親の立場からすると、とてつもない後悔と心配の日々でしょう。この状況に生きていく希望を持てという方が無理だろう。
ベスはベスで親としての責任を果たせなかったということはあるかもしれないけど、僕は彼女を非難する気になれない。

ただ、この映画を観ていて僕が終始、違和感があったのはウーピー・ゴールドバーグ演じる女性刑事だ。
アメリカであっても、おそらくは刑事の世界は縦社会だろうし、男ばかりの不条理さに溢れた世界であっただろう。

そんな中で周囲の評価を得て、ある程度の立場になったのだから彼女は実力もあり、有能な刑事なのだろう。
それでいて自身のミスであったことを素直に認め、ベスに謝罪する姿も悪いとは思わないけれども、ここまで最後まで
メイン・ストーリーに積極的に絡んでくること自体、にわかに信じ難い。事件を解決できずに9年が経過しているのに。。。

ベスとの個人的な付き合いも含めて、彼女の有能さにリンクしないような彼女の“しつこさ”がどこか胡散臭い。
これが作り手の問題だろう。彼女が演じた刑事も、メイン・ストーリーを支える脇役として重要であったはずなのだ。
ところが、ここまで胡散臭く見せてしまうと、もうダメですね。ウーピー・ゴールドバーグの個性自体も、逆効果に見える。

彼女は同性愛者であることをカミングアウトしていて、ベスが身体的接触してきたときに瞬間的に拒むシーンがある。
ここで気まずさがあってか、必死に弁解しているのですがこれも取って付けたようなシーンに観えてしまったのが残念。
おそらく、彼女がタフに独立独歩で生きてきたことを象徴させたかったのだろうけど、余計なシーンになってしまった。

せっかく作り手の狙いは良かった作品なのに、彼女の描き方に関してだけがチグハグになってしまった気がする。

本作で注目したいのは、誘拐の対象となってしまった子どもが親としては戻ってくることを願って当然だが、
いざそれが現実になると難しさに直面するというところだ。特にずっと待ち続けていたはずな長男が思春期でもあり、
次男が戻ってきても、彼は彼でどこか複雑な心境であることが印象的だ。やはり9年という長い年月は穴埋めが難しい。

それだけに、この誘拐事件というのは結束していたはずの家族がバラバラにしてしまう“威力”があるのです。
このバラバラになってしまった家族の空気感というものを、本作は実に的確に表現できていたのではないかと思います。

本作の評価で賛否が分かれてしまったのは、おそらくはこのラストのあり方に起因するのではないかと思います。
確かにこれは僕も心に引っかからなかったわけではありません。どうするのがベストでないにしろベターな選択なのか?

親という立場からしても悩んで当然ですし、一方で子どもたちがそれぞれに悩んでいたことに
如何にして答えに近づこうとするか、ということを精神的な成長になぞらえて描いたラストのようにも感じましたが、
そうであっても、簡単に受け入れられるようなラストでもなかった。しかし、これはかなり問題提起性の高い作品なので、
このラストに関してはどのような描き方であっても、おそらく賛否が大きく分かれてしまったのではないかと思います。

この脚本をそのまま映画化するには、ウール・グロスバードとしても苦しい選択ではあったのではないかと思う。

ミシェル・ファイファー演じるベスが頑張れば頑張ろうとするほど、事態が苦しくなっていくところを
子どもたちが変わろうとするという、大人そっちのけの子どもたちの成長が事態を突き動かしていく原動力でも
あるかのようなラストなのですが、ラストに関しては急いで結論めいたものを語らせない方が良かったのかもしれない。
(要するに、単純に深夜にバスケをやって、一緒に遊ぶ子どもを映して終わりということでも・・・)

何か無理に、「ああするのがいい、こうするのがいい」と描くこと自体がナンセンスなことだったのかもしれません。
結局、この家族の状況からしても、一概に「こうするのが正しい」とは言えないほど、ギクシャクしてしまっていたから。

僕には映画の出来はそこまで悪いものではなかったと思うし、賛否はあれど人間らしい姿を描いた作品だと思う。
これまで誘拐を題材にした映画は何本もありましたが、本作はこれまでとはチョット違った切り口を見せてくれましたし。
そうなだけに、あと少しのところでのボタンのかけ違いが、傑作と言えるところに至らせなかった原因だったと思う。

行方不明になった子どもを探す親を描く作品に留まらなかった点は良かっただけに、ラストもキメて欲しかったなぁ。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ウール・グロスバード
製作 ケイト・グインズバーグ
   スティーブ・ニコライデス
原作 ジャクリン・ミチャード
脚本 スティーブン・シフ
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
編集 ジョン・ブルーム
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ミシェル・ファイファー
   トリート・ウィリアムズ
   ウーピー・ゴールドバーグ
   ジョナサン・ジャクソン
   コリー・バック
   ライアン・メリマン
   ジョン・カペロス
   アレクサ・ヴェガ