デッドゾーン(1983年カナダ)

The Dead Zone

これはデビッド・クローネンバーグの監督作としては、
極めて異端な内容の作品ではありますが、実に興味深く面白いサスペンス映画だ。

まだハリウッドで評価され始めた頃の監督作であり、
ほとんどはデビッド・クローネンバーグの地元であるカナダで製作された作品なのですが、
キャスティングは豪華で、製作資金のほとんどはキャスティングに費やしたのではないでしょうか(笑)?

ハッキリ言って、これは明らかな低予算映画ですが、
スティーブン・キングの原作の魅力も活かした上で、実にユニークな存在の作品に仕上がっており、
あまり有名な作品とは言えず、どちらかと言えば、カルト映画のような扱いを受けているが、
決してゲテモノ映画というわけではなく、ひじょうに切ない恋愛映画としても十分に通用する内容だ。

事実、デビッド・クローネンバーグは本作の後には、
86年に『ザ・フライ』でついにハリウッドで大きな企画を任せられるようになり、
本作以前に彼が撮った作品(『ヴィデオドローム』など)も、全世界的に再評価されるキッカケとなりました。

1984年度のアポリアッツ国際映画祭でも、高く評価された作品ではあるのですが、
こういう作品に出会うたびに、良質な映画を生み出すためにはお金が絶対に必要ってわけじゃないということを、
強く実感させられますねぇ。発想力と演出家の力量で、どうとでもカバーできる領域だと思いますね。

また、オープニング・クレジットで流れるマイケル・ケイメンのスコアも不気味でカッコ良く、
斬新なタイトル・バックも凄くインパクトが強いですね。サイキックな雰囲気がよく出ています。

主演のクリストファー・ウォーケンが独特な物悲しさがあって、いいですねぇ〜。
なんか最近はファットボーイ・スリム≠フPV[プロモーション・ビデオ]で無人のホテルで一人、
激しく踊りまくったり、規模の小さな映画に小さな役で出演したりと、段々、影が薄くなりつつありますが、
この頃は78年の『ディア・ハンター』でオスカーを受賞した印象がまだ強くて、実に良い存在感ですね。

映画の大きな要素として、恋愛のニュアンスがあるのですが、
主人公が事故により、こん睡状態に陥っていた5年間というブランクを経てしまい、
取り返しのつかない状態になってしまっても尚、ロマンスの香りがが僅かに残るという、
ひじょうに微妙な空気が漂っており、これはデビッド・クローネンバーグにしては、異色な仕事っぷりだ。

映画は5年間もの長いブランクを経て、不思議な能力を身に付けてしまい、
それとは反比例するように日常生活が上手くいかなくなってしまう、高校の英語教師の悲劇なのですが、
やはり日常生活が上手くいかないせいか、ラストには突如として、ドラスティックな行動に出るのが妙に悲しい。

映画の中盤で登場してくる、政治家スティルソンの真の姿を暴露しようと、
主人公は躍起になるのですが、もっと彼が冷静でいれば、もっと上手いやり方はあったはずです。
ところが何かに追い詰められたように、いきなりドラスティックな行動に出てしまうのですから、
それだけ主人公は日常生活に行き詰まり、結果を強く追い求めすぎ、結論を急いでしまいます。
結果、周囲が見えなくなり、総体として彼の行動は正しかったものの、悲劇的な結末を招いてしまいます。

本作のデビッド・クローネンバーグは主人公のそんな姿を過度に美化して描くことはないにしろ、
ロマンスを上手く絡めながら、不器用にしか行動できない主人公の物悲しさを見事に表現しています。

そんな主人公の不器用さには、しっかりとした伏線があって、
一見、意図不明とも思える家庭教師のエピソードなんかも、ここで効果を発揮しており、
彼の性格も相まって、決してスマートに物事を解決できるタイプではないことを如実に証明していたんですね。

最終的には理解は得られるのですが、
彼は予知能力がはたらいてしまうと、まるで脅迫するかのように予告してしまいます。
結局、これらも彼が元来、不器用な性格であるということを象徴しているような気がしますねぇ。
この辺はスティーブン・キングの原作がどうなっていたかを吟味しなければなりませんが、
少なくとも本作を観る限りでは、デビッド・クローネンバーグがかなり用意周到に描いていると解釈できます。

僕の中では、デビッド・クローネンバーグって、
決してこんなに器用なことができる映像作家だという認識は無かったんだけれども、
少なくとも本作に限っては結構、上手いですね。原作の良さもあったでしょうが、
これだけ映画のバランスや調和を意識しながら撮れるというのは、結構、器用な部分があるということでしょう。

まぁ「人は見かけによらない」とは言いますが...
随分とヘンテコな映画ばっかり撮り続けている割りに、デビッド・クローネンバーグ本人って、
写真を見る限り、少しインテリが“入ってる”感じで、細かな要求をしそうにも見えるんですがね。。。

日本では現状、あまり有名な映画とは言い難いけれども、
ひじょうに優れた組み立てをした作品として、是非とも数多くの人々に薦めたい作品と言えますね。

後に全米ではテレビ・シリーズ化されており、
日本でも容易にテレビ・シリーズも観ることはできますが、まずはこの映画版をオススメしたい。
この言葉に表し難い、何とも言えないテイストは、チョット他には無い希少な感覚です。

やっぱり、デビッド・クローネンバーグってスゲェ〜!(笑)

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 デビッド・クローネンバーグ
製作 デブラ・ヒル
原作 スティーブン・キング
脚本 ジェフリー・ボーム
撮影 マーク・アーウィン
音楽 マイケル・ケイメン
出演 クリストファー・ウォーケン
    ブルック・アダムス
    マーチン・シーン
    ニコラス・キャンベル
    アンソニー・ザーブ
    トム・スケリット
    ハーバート・ロム
    コリーン・デューハースト