ダーティハリー5(1988年アメリカ)

The Dead Pool

71年に第1作が公開され、全世界的な大ヒットとなっただけでなく、
それまでは西部劇のスターというイメージが強かったクリント・イーストウッドが、
自身の代名詞的作品の一つとなった刑事ハリー・キャラハンのシリーズの第5作であり、最終章。

これは確かにハリー・キャラハンを描いた映画ですけど、どことなく変な映画ですね(笑)。

さすがに第1作から17年も経過して製作された第5作ですから、
映像感覚も含めて、第1作とはまるで違う時代の映画という様相になっていますけど、
マグナム44をサンフランシスコの街中でブッ放す豪快な刑事というよりも、メディアへの露出も多い、
どちらかと言えば“お騒がせ刑事”というイメージに様変わりし、そしてハリーもすっかり歳をとった(笑)。

そのせいか、どこか動きがモッタリとしているように見えてしまうのですが、
それも当たり前。撮影当時のイーストウッドは58歳、カーメル市の市長を1期2年勤め上げた直後で、
いろいろと忙しく、彼の中でも混乱を極めていた時期であったでしょうから、半ば気晴らしの要素もあったのかも。

それと、彼自身、映画界に復帰して最初にやりたかったことは、
元々、ジャズに対する造詣の深いイーストウッドらしく、伝説的なジャズ・プレーヤーである
チャーリー・パーカーの伝記映画『バード』を撮影することで、その資金調達の意味合いもあったのかもしれません。

そのせいか、ずっとイーストウッド自身がこだわりを持って監督も兼任していたのですが、
本作では盟友バディ・ヴァン・ホーンにメガホンを渡しており、乱暴な言い方をすると、チョット楽をしたのかも。

しかし、この映画の最大の見どころは、サンフランシスコの市街地の坂を利用した、
往年の名作『ブリット』を彷彿とさせる壮絶なカー・チェイスがあることで、それだけでは面白くないとばかりに、
遠隔操作ができる爆弾を搭載した、ラジコンを使ったカー・チェイスにアレンジしてしまう要領の良さだろう。
そして、あれだけの爆発があっても平然と車から出てくる、イーストウッドの不死身さが異様ですらある(笑)。
そんなハリー・キャラハンの豪快さ、強靭さだけは継承されていることはファンとしては喜ばしいところだ。

このカー・チェイスは確かに結構、スゴいです。撮影スタッフとしても、最も力が入ったシーンでしょう。
サンフランシスコの街の魅力を存分に生かしており、本作唯一の見せ場であったと言っても過言ではありません。

とは言え、なんか変な映画になってしまったことは、
ハリーを狙う悪の存在の描き方を、80年代だからこそありえたように、少し捻くれて描いたことでしょう。

撮影当時は、ここまでの大スターになるとは予期できなかったでしょうが、
スプラッタ映画の監督を演じたリーアム・ニーソンや、彼の映画に出演する歌手を演じたジム・キャリーと、
立て続けに売れていない頃の彼らが登場するところも見どころの一つとなっているのですが、
どれもこれも悪の存在の描き方がストレートではなく、どこか捻くれたことが、変な映画になった理由でしょう。

売れっ子俳優は誰しも、売れていない駆け出しの頃はあるのですが、
本作のようにリーアム・ニーソン、ジム・キャリーのようなスター俳優が揃って目立った形で出演していることは、
実に珍しい作品であると言ってもいいと思いますね。そういう意味では、本作は一見の価値があるのかもしれません。

ただ、それでも『ブリット』には遠く及ばない。それは映画に張り詰める緊張感という点で大きな違いがある。

あとは、やはり悪党の描き方でしょう。これではどうしても盛り上がらない。
例えば第1作の“サソリ座の男”であれば、敢えてその存在を明らかにして、犯人の思想や実際の犯行を
表面化させることによって、ハリーがどう彼の流儀を通すかを描けていたのに対して、何故か本作はミステリーの
要素を保持したかったのか、犯人の存在をボカすことで悪の強さを観客に意識させることができず、少し弱くなった。

この辺はドン・シーゲルやクリント・イーストウッド自身であれば、
一体どう描いていたのかが気になるのですが、やはりイーストウッド自身は市政からカムバックした直後で、
精神的・身体的にも疲弊していたでしょうし、主演俳優と監督を兼任する気にはなれなかったのかもしれませんね。

物足りない理由は、幾つかあると思うのですが、
ハリーにカメラを壊されて、彼に独占取材を申し込んでくる女性キャスターを演じた、
パトリシア・クラークソンとのロマンスの描き方にしても、どこか当たり障りのない程度の表現で物足りない。

そういう意味では、やはりイーストウッド演じるハリーらしさが弱いのでしょうね。
それはぶっきらぼう、容赦なくマグナム44を市街地でもブッ放す、女ったらし(笑)。

さすがに5本もシリーズが続いたこともあるでしょうが、さすがにイーストウッド自身も年をとったし、
作り手もワンパターン化を恐れたのか、この第5作になるとハリーらしさが薄くなってしまい、
このシリーズのファンが求める良さというものすら、失われてしまったように見えることが大きな難点ですね。
バディ・ヴァン・ホーン自身、決して経験の無いディレクターではなかったからこそ、チョット勿体なかったですねぇ。

ちなみに映画の中で問題となる、“デッドプール”とはこの先々死ぬ人物の名前のリストのことで、
一介のホラー映画の監督が、仲間内の余興で勝手に“デッドプール”を作成して遊ぶなんて、
それは問題になって当然なことなのですが、そのリストが現実になっていくことと、更新されたリストに
ハリーと前述した、女性キャスターの名前がリストアップされたことから、捜査はより混乱していきます。

残念ながら本作以降、このシリーズは製作されておらず、
実質的に本作がシリーズ最終章となってしまいました。さすがにイーストウッド自身も辞めたかったのかもしれません。

さすがに第1作から17年も経ってからのシリーズ最終章でしたので、
イーストウッドの加齢も感じられるのですが、それでも最後まで演じ通したことは凄いですねぇ。
相変わらずスポーツ・ジムでは、同僚のアジア系の若い刑事でも持てないバーベルを持ち上げるという、
ハリーの腕っぷしの強さを敢えて映すあたりは、常にハリーは強くあるべきと、強いこだわりがあったようにも感じます。

でも、一つだけ思うのですが...
どうも、80年代後半という時代性を考慮したのか、犯行の背景を描くことに注力したことは残念で、
ずっと続いていた、犯人の異常さを描くという点では、どうしても劣るところが映画の魅力を損ねた所以のように思います。

(上映時間91分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 バディ・ヴァン・ホーン
製作 デビッド・バルデス
原案 スティーブ・シャロン
   ダーク・ピアソン
   サンディ・ショウ
脚本 スティーブ・シャロン
撮影 ジャック・N・グリーン
音楽 ラロ・シフリン
出演 クリント・イーストウッド
   リーアム・ニーソン
   パトリシア・クラークソン
   エヴァン・C・キム
   デビッド・ハント
   マイケル・カリー
   ジム・キャリー