ジャッカルの日(1973年イギリス・アメリカ合作)

The Day Of The Jackal

フレデリック・フォーサイス原作の人気小説の映画化。ドミュメンタリー・タッチの作りが特徴的な作品です。

監督は53年の『地上(ここ)より永遠に』などで知られるフレッド・ジンネマンで、
とっても手堅い作りの映画を撮る印象があるのですが、本作も彼が初期の頃に手掛けていたドキュメンタリー映画の
タッチを生かして、フランスのド・ゴール大統領の暗殺を依頼されたプロの殺し屋ジャッカルの工作活動を描きます。

本編を観たら分かりますが、多少ご都合主義な部分もなくはないですが、
ただひたすら淡々と起伏なく描かれており、ジャッカルの用意周到なプロフェッショナルとしての仕事ぶりにフォーカス。
パスポートやIDの偽造は勿論のこと、素性がバレることを防ぐために有閑マダムに取り入ったり、人殺しも躊躇しない。
しかも出来るだけ、決定的な証拠を残さないように遂行するのですが、結局は捜査の手が近づいてくる様子を描きます。

クライマックスのパリの広場での授与式でドゴールの狙撃を試みるラスト・シークエンスも、
映画の序盤から伏線を回収するかのようにジャッカルの準備を描いてますが、最後はなんとも実に呆気ない。
フレッド・ジンネマンも「現実はまるでこんなもの」と開き直ったかのようで、現場の臨場感いっぱいに描いている。

このラストは賛否が分かれるところでもあるとは思うんだけど、このアッサリしたラストは僕の中ではアリですね。
ただ一つだけ・・・ミシェル・ロンスデール演じる刑事がどうしてジャッカルが近くにいると察知したのかが分かりにくく、
これは映画全体に言えることですが、所々で説明不足な部分があるのは気になるのですが、致命的なものではない。

結局、ジャッカルとは何者だったのか正体がハッキリとしないまま終わる映画の在り方も印象的で
これも含めて、本作のドキュメンタリー・タッチのアプローチが正解であったと思う。このミステリアスさが逆に生々しい。

そんなジャッカルを演じるエドワード・フォックスも至高の芝居であったと言っていいと思います。
当初はロバート・レッドフォードやジャック・ニコルソンもオーディションに参加していたらしいのですが、
本作のジャッカルにスターとしてのオーラは邪魔になったと思うし、過剰に演じようとしないくらいが丁度良かったと思う。
そういう意味で、本作のエドワード・フォックスはこの役のことをとても良く理解して、殺しのプロに徹していたのでしょう。

欲を言えば、ということにはなりますが、この映画の“最後のひと押し”が無い感じがどこか物足りなさを残した。
それはジャッカルの描写は良いとしても、彼を追う警察側の描写が今一つ決め手に欠ける感じになってしまったから。
フランス政府側に情報がだだ漏れになる“抜け道”があったという描写があるのは分かりますが、今一つパンチが無い。

官僚に取り入って愛人化して、実は情報を横流ししているという定番の展開ではありますけど、
ここもフレッド・ジンネマンの方針なのか必要最小限のスリムな描写に留まるせいか、あまりインパクトが強くはない。
それよりはジャッカルの描写に集中したかったのかもしれないけど、こういう諜報活動はもっとしっかりと描いても、
この映画のカラーからすれば上手く馴染んだと思うんですよね。こういう周辺エピソードも大切にして欲しかったところ。

ただ、総じて本作はフレデリック・フォーサイスの原作の世界観を上手く表現できていると思いますね。
このジャッカルの行動の緻密な部分とか、クライマックスの暗殺を試みるシーンの静けさとか、ハードボイルドそのもの。

97年にリチャード・ギアとブルース・ウィリスの共演で『ジャッカル』というアクション映画として、
ハリウッド版リメークが製作されたこともありましたが、少なくとも本作の方がずっとハードボイルドな空気を帯びている。
フレッド・ジンネマンがこういう仕事を出来るとは少々意外でしたが、この時期はとても良い仕事をしていますね。
(本作の後に撮った『ジュリア』は実に素晴らしい、映画らしい映画で必見の傑作です!)

映画は実にテンポ良く、サクサクとエピソードを重ねていきますが、特に印象に残るのは殺しのプロとしての姿だろう。
ジャッカルに与えられたミッション(or目的)は、多額の報酬を得てフランス大統領のドゴールを暗殺するということで、
殺しの理由などジャッカルにとってはどうでもいい。勿論、その背景に政治的な背景があるけど、彼には無関係である。

そして、そのファイナルなミッションを達成させるためには、ジャッカルは手段・方法をまったく選びません。
その非情さがとても印象的で、多少なりとも行き当たりばったりなところもあるのだけれど、常に軌道をすぐに修正する。
こういう姿勢は正しくプロフェッショナルという感じで、途中で彼が見舞われるトラブルもなんのその、計画を遂行していく。

そういう意味でジャッカルは徐々に警察の手が忍び寄ってきていることは察知していたのでだろうが、
映画の序盤からジャッカルはしきりに「暗殺することよりも、その後逃げることを考えることが大事」と、捕まったり
殺されたりしないようにするためにどうすべきか、何を準備すべきなのかということを気にしていたのが印象的でした。
そう思うと、警察の手が忍び寄ってくることも計算済みで、何をどう手を打っても捜査の手は迫ることは予想していました。

だからこそ、その捜査の手が迫るスピードを加速させるような、組織側の内通者がいることを警戒していたのだろう。

やっぱりプロの殺し屋というのは警戒心が人一倍強いものなんですね。そして、計画から逸れるとすぐに修正するし、
連絡はジャッカル側からとることしかせず、出来る限りの隠密行動をとっていた。それでも、捜査網は広がるのですが。

実在のドゴール大統領は反政府組織から実際に命を狙われていて、複数回の暗殺未遂があったようですが、
実際には全て失敗していて、この映画の結末も大方の予想通りにはなるのですが、それでも十分に楽しめますね。
やはり、それはジャッカルの行動をしつこいくらいドキュメントすることで、彼の神経質な性格と一方で大胆さを兼ね備え、
淡々と無感情的にファイナルへと近づいていく緊張感と臨場感が素晴らしく、とても巧みに描かれているからでしょう。

本作で描かれるジャッカルは暗殺で使う、銃に対しても強いこだわりがあって、オーダーメイドしてもらいます。
顔なじみの職人に作ってもらった銃を、試射するシーンも印象的で木に吊るしたスイカをターゲットにするのも良い。
どこまでフレデリック・フォーサイスの原作通りなのかは分かりませんが、こういった細部も強いこだわりを感じさせる。

ジャッカルは射撃の腕が良いのか悪いのかよく分からないが、腕っぷしはとにかく強いという設定なのだろう。
なんせ、IDの偽造を依頼した男が調子に乗ってゆすってきてきたら、ジャッカルはチョップ一発で殺害してしまうほど。
普通に考えたら、あんなチョップ一発で成人男性を殺しちゃうなんて、どんな格闘技やってたんだよと言いたくなるほど。

多くの暗殺者の場合、寡黙で出来るだけ人間関係が不要な他人とは交流しないというポリシーを貫きがちですが、
本作で描かれるジャッカルは結構気さくな人間で、その場面に応じて“キャラ変”しながら渡り歩くのが特徴でもある。
だからこそ、警察に手掛かりを残しているようなところがあって、そんなジャッカルが残した“足跡”を警察を追っていく。
この辺はプロの暗殺者として賛否が分かれるとこかもしれませんが、少なくとも“ゴルゴ13”とは全く違いますね(笑)。

しかし、考え方によればそうして一般市民、旅行者に紛れ込むことで相手の警戒心を惑わせるということもあるだろう。
実際、ジャッカルは暗殺の計画準備の段階で、複数回、国境を跨がなければならず、包囲網をかい潜る必要があった。
そうすると、どうしても相手の警戒心や不審感を煽ることなく、警察の包囲網の網にかからないように動くことができる。

そんな用意周到に動き回るジャッカルの姿をドキュメントした2時間20分というヴォリューム感であったわけで、
ただ淡々と描いただけにも関わらず、途中で中ダルみせず描けたのはスゴいですね。これは編集も良かったのでしょう。

とは言え、この映画で惜しかったところは、映画の出だしで描かれるジャッカルが赤ん坊のときに
早逝した戸籍を自分にすり替えて、成り済ますことで行動を開始するのですが、ここがいくら時代が違うとは言え、
ここまで戸籍の管理がザルな感じでやっていたとも思えず、あまりに容易に他人に成り済ましてしまうのですから、
ここはもう少し丁寧に描いて欲しかった。細部にこだわった映画であった一方、ここと前述したラストの警察の動きは
どこか大事な部分を端折って描いた感じで、映画の重要な部分になるパートで必要不可欠な説得力が落ちてしまった。

ここはフレッド・ジンネマンとしては、極めて大きな欠落を生んでしまった感じでとても勿体なく感じましたねぇ。

これ以外はとても緻密に作られた感覚のある、プロの“仕事人”を描いた映画として秀でたものがある作品だと思う。
やっぱりこういう映画を撮ることができたのというのは、フレッジ・ジンネマンの職人性を象徴した監督作品なのだろう。

それにしても、ジャッカルはスナイパーとしての能力は高かったのかもしれないが、呆気ないドゴール狙撃の演出で
しかもスナイパーであって早撃ちが得意なわけではないので、不意を突かれた襲撃には対応できなかったのが面白い。
そして、それまで派手な残酷描写なくジャッカルは人間を殺めてきたが、最後はショットガンで派手な最期を迎える。

この対比的なラストシーンは、なんとも強い皮肉を感じずにはいられない鮮烈なクライマックスだ。

(上映時間143分)

私の採点★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フレッド・ジンネマン
製作 ジョン・ウルフ
原作 フレデリック・フォーサイス
脚本 ケネス・ロス
撮影 ジャン・トゥルニエ
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 エドワード・フォックス
   ミシェル・ロンスデール
   アラン・バデル
   トニー・ブリットン
   シリル・キューザック
   エリック・ポーター
   オルガ・ジョルジュ=ピコ
   デルフィーヌ・セイリグ

1973年度アカデミー編集賞 ノミネート
1973年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞