イルカの日(1973年アメリカ)

The Day Of The Dolphin

スミマセン...僕、実は小さな頃から水族館は好きなんですよね。
どちらかと言えば、動物園よりも昔から水族館の方が好きでした。別に魚マニアではありませんが...。

いや、何が好きって、水族館はかなり早い段階からエンターテイメントとして成立していたことですね。
かなり厳しい言い方ではありますが、その点では動物園は完全に立ち遅れていたと思います。
最近でこそ、“行動展示”で有名な旭山動物園などがありますが、かつての動物園といったら、
ハッキリ言って、「何処の動物園に行っても、だいたい一緒」って気持ちが先行してましたからね。

んで、この映画、知能が高いと言われるイルカを研究対象にしながらも、
教育することにより、人間との簡単的な会話が可能になったイルカが大統領暗殺に利用されるという、
奇抜なアイデアを内容に、実に感動的なサスペンス映画(?)に仕上げているのですが、
70年代の映画特有の空気があって、やっぱりこの時代は偉大だったと改めて実感させられます。

行動心理学の観点から、もの凄く熱心に多額の投資を募集しながら研究していたジェイクは
この研究が人々の好奇心に晒されることを恐れ、しばらくの間、公表を控えてきました。

彼が最も危惧していたのは、4年間育ててきた“ファー”がサーカスの道具のように扱われること。
正に僕のような“イルカのショー”を楽しみにいて水族館へ行く輩とは相反する意図なんですね。
確かに“イルカのショー”のようなステージに対して、否定的な見解を持つ人々の意見も分かるのですが、
僕はそれでも人間以外の生物の知能を見てみたいというのは、人間として当然の好奇心だと思うんですよね。
(まぁそんな知能が、人間の恣意的な部分に利用されるというのであれば、それは反対だが...)

そういう意味で本作は、正に上手いことを言っていて、
ジェイクの妻マギーの質問が、ひじょうに的を得ている。「じゃあ、何故、あなたは教育したの?」...

そう、ジェイクが“ファー”を丹念に育てて、人間の言葉を教育するという行動の動機って、
意外に僕らの好奇心と近いものがあると思うんですよね。イルカの知能の高さを証明した上で、
更に人知を超えた境地を開いてみたい、そんな願望があったからこそ、彼は教育し始めたのではないだろうか。

そんな矛盾を感じてか否か、僕にはよく分かりませんが...
ジェイクは自身の研究テーマに於けるアプローチが間違っていたことに気づきます。
「オレたちがイルカに近づけば良かったんだ・・・」...本気なのか皮肉なのか、よく分からないけど(苦笑)。

4年間にわたって、“ファー”を飼育して教育することに心血を注ぐ夫婦を演じた、
ジョージ・C・スコットとトリッシュ・ヴァン・ディーヴァーは20歳近く年が離れていましたが、
劇中だけでなく、撮影当時は私生活でも夫婦であり、本作が結婚後の初共演であったようです。

個人的にはジェイクを演じたジョージ・C・スコットが凄く良かったと思いますね。
普段はカタブツや偏屈な役柄ばかりを演じてきた感が強いのですが、本作では研究者を熱演しています。
特にイルカと共にプールを泳ぎながら、イルカとのコミュニケーションを図る姿は感動的ですらある。
やっぱりこういう頑固な役者が心の優しさを表現するシーンは、何度観ても良いもんである(笑)。

それゆえ、映画のラストシーンはなかなか悪くない。
マイク・ニコルズにもっと器用さがあれば、もっと良い感動的なシーンになったであろうが、
“ファー”との別れを決してクドく見せず、敢えてストイックに演出しようとする彼の選択も悪くなく、
悲しみ、寂しさ、悔しさ、厳しさ、優しさを横顔だけで表現し切るジョージ・C・スコットの表情も併せて、
この映画の不思議な仕上がりに大きく貢献したラストと解釈でき、そこそこ良かったと思いますね。

但し、一つ僕が今もってよく分からないのは、
マイク・ニコルズが劇中、一部でイルカをまるでホラーなイメージとして描いている点だ。

例えば、映画の中盤で“ファー”のいるプールと“ビー”のいるプールの間に仕切りが作られ、
“ファー”が見るからにストレスを感じて苛立ち始め、まるで人間たちを威嚇するかのように暴れ始め、
プールの端を旋回し、仕切りに尻尾を激突させるという一連のシークエンスがあるのですが、
僕はこんなに奇異に描く必要はなかったと思うし、何故、こういう描き方をしたのか理解できなかったですね。

あと、映画の終盤でプール内の死体を発見するシーンがあるのですが、
この見せ方の安直さにも閉口する。いかにもウィリアム・A・フレイカーらしいアップの使い方ですが、
ハッキリ言って、この映画にとっては明らかに逆効果。どうして、こんなバランスを欠く映し方をするのだろうか。

こういった点に気が配られないあたりが、申し訳ないけどマイク・ニコルズっぽいですね(苦笑)。

とは言え、ストーリー上の着想点の面白さに加え、
小さなほころびから、トンデモない陰謀に巻き込まれるサスペンスの盛り上げ方も上手く、
前述したイルカとの交流や関係性などの描写も、簡単ではない映画だったとは思うが、そこそこ上手い。

それと、この映画、ポール・ソルビーノ演じる作家と名乗る男の扱いが上手かったですねぇ。
どちらかと言えば、あまり説明的ではない映画ですので、チョット分かりにくいですが、
映画の前半でのミステリアスな描き方が上手かったからこそ、終盤で活きていますねぇ。
サスペンス映画の定石ではありますが、これは上手かったと思いますね。

70年代のサスペンス映画好きなら、見逃したくはない一本と言える秀作ですね。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マイク・ニコルズ
製作 ロバート・E・レリア
原作 ロベール・メルル
脚本 バック・ヘンリー
撮影 ウィリアム・A・フレイカー
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 ジョージ・C・スコット
    トリッシュ・ヴァン・ディーヴァー
    ポール・ソルビーノ
    フリッツ・ウィーバー
    エリザベス・ウィルソン
    ジョン・デナー

1973年度アカデミー作曲賞(ジョルジュ・ドルリュー) ノミネート
1973年度アカデミー音響賞 ノミネート