ダークナイト(2008年アメリカ)

The Dark Knight

これは確かに面白い!

05年の『バットマン ビギンズ』の時から、その路線変更は明確でしたが、
こういう言い方をすると怒られるかもしれませんが、ジョエル・シューマカーがおかしくしてしまった、
この『バットマン』シリーズの面白さを取り戻しながら、それまでのコミックな路線の脱却を図ってきましたが、
本作ではその路線変更が更に明確になり、徹底して現実感を追及する画面作りで、その迫力に圧倒される。

クリストファー・ノーランは『バットマン ビギンズ』のメガホンも取っていましたが、
本作では更に従来のシリーズのイメージを打破しようとする意思を強めており、
上手い具合に彼なりのカラーを出しながら、シリーズを新たなステージへと進めようとする姿勢が良いですね。

まぁ・・・少し映画の尺の長さが気になるのですが、
映画の中盤で中ダルみを感じた部分以外は、十分にエンターテイメントとして楽しめます。

本作での怪演が評判となり、オスカーを受賞することになる、
ジョーカー役のヒース・レジャーの圧倒的なまでの不気味な存在感が秀逸なのですが、
やはり本作が劇場公開された直後である、2008年1月に薬物中毒で他界してしまったという事実が、
より彼の芝居に見えない力を与えているような気がしてならないのは、どうしても否定できません。

彼の表情一つ一つが、ジョーカーという奇怪な悪役キャラクターに磨きをかけており、
特に映画の中盤にあった、ジョーカーがブルース主催のパーティー会場に乗り込んでいって、
会場でレイチェルを脅すシーンなんかは、何故かクルクル彼らの周囲を舐め回すかのように動く、
『華麗なる賭け』を思い出させるようなカメラワークが印象的で、スタッフもジョーカーの異彩を際立たせようとします。

ただ、求めるものの違いもあるかな。
僕はこの『ダークナイト』は十分に面白かったし、映画としても評価に値すると思ってるけど、
確かに『バットマン』シリーズとしてどうかと質問されると、どうしても『バットマン リターンズ』は超えられない。

確かに最初に撮ってしまった者勝ちな部分をあることは否めませんが、
この現実感を追及する路線は良いんだけど、ティム・バートンの独特な世界観のインパクトが残るなぁ・・・。

そういう意味では、ティム・バートンが描いたゴッサム・シティと、
『バットマン ビギンズ』から、全く別な路線で描いているというのは賢明な判断だとは思うのですが、
どうもバットマンが闘っている街の背景が、そこら辺の市街地というロケーションに馴染めません(笑)。

やはり、ゴッサム・シティはもう少しスモール・タウンとして描いた方がシックリ来るのかもしれませんね。

特にブルースが香港まで出張にきて、ラウとかいう会社経営者を奪還しに来るというエピソードは、
さすがに飛躍してしまった感があって、映画が現実性を追及すると同時に、どことなく無理が出てきた印象が・・・。

映画の冒頭でジョーカー率いる一団が、資金洗浄疑惑のある銀行を襲撃しますが、
この銃撃戦シーンの時点で、あまりに生々しく、凄まじい描写に度肝を抜かされます。
こういう画面作りを観ると、どちらかと言えば、従来のシリーズのファンよりもサスペンス映画好きにオススメかなぁ。

とは言え、本作で完全にクリストファー・ノーランは結果を出しましたね。
かつて、『バットマン ビギンズ』の監督の座をゲットするために、配給元のワーナーの役員たちに
如何にこのシリーズの監督をやりたいかを、大熱弁ふるったそうなのですが(笑)、その情熱がよく伝わってくる。
彼が打ち出した、シリーズの新たな方向性も全ての人が受け入れるわけではないでしょうが、
やはり本作のようにシリーズもドンドン、時の流れと共に変わっていくことが必要なのでしょう。

もう一つ、注目したのは、クリストファー・ノーランが新しくシリーズを構築するにあたって、
かつてのキャラクターを再構築するためにと登場させた、アーロン・エッカート演じるハービーの存在だ。

彼は『バットマン フォーエヴァー』でメインの悪役キャラクターとして登場した、
“トゥー・フェイス”となるわけで、その前日談がしっかり描かれているのは実に興味深い。
個人的にはこのエピソードはもう少し入念に描いて欲しかったけれども、更なる続編で彼がゴッサム・シティで
悪事に走り出し、バットマンと対決するようになる姿を、是非ともこの路線のシリーズでも描いて欲しいですね。

演じるアーロン・エッカートも、とても生々しい特殊メイクを施しての大熱演です。
できることであれば、頑固なまでの正義漢であったハービーが、何故に恋人を失ったということで、
突如として反社会的なマインドを持ち始めるのか、もっと入念に描いて欲しいとは思いましたがねぇ。。。

それと、クリストファー・ノーランが描くブルース・ウェインの大きな特徴としてあるのは、
凄く彼を人間臭く描く点で、特に本作では終始、複雑な状況に悩む姿を描き続けたことだ。
かつてティム・バートンが描いたブルース・ウェインも、多少は苦悩する局面はあったけれども、
その悩む背景や複雑な状況を、より細かく説明的に描いており、それまでとは意味が大きく異なります。
(勿論、ジョエル・シューマカーが描いたブルース・ウェインには、そんな姿は微塵にも反映されなかった)

そういう意味で、彼の苦悩というものは、本作の大きなテーマの一つと言えるでしょう。

この映画は全米で劇場公開されると同時に大ヒットとなり、
最終的には全世界での興行収入が100億ドルを超える、映画史に残るヒット作となりました。
これはクリストファー・ノーランが打ち出した、新しいシリーズのスタイルが受け入れられた証拠だと思うんですよね。

確かにヒース・レジャーがあまりに凄い、新たなジョーカーを表現しているので、
彼の凄まじいまでの執念に神懸かり的なものを感じてしまうかもしれませんが、
決して彼の怪演だけが特筆されるような作品ではなく、演出もとても良く出来ている映画なんですよね。
(まぁ、本作でのヒース・レジャーは同じジョーカーを演じた、ジャック・ニコルソンも凌ぐ圧倒的な存在感だけど・・・)

それにしても、あまりにヒース・レジャーの存在感が強過ぎて、
肝心かなめのバットマンを演じたクリスチャン・ベールの存在感が弱くなったのが残念。
この人、他作品で凄い役作りをして話題になったけれども、本作では控え目な印象を受けましたね。

ちなみにクリストファー・ノーランは本作で銃撃戦を撮影するにあたって、
95年にマイケル・マンが監督した『ヒート』の市街地での銃撃戦を参考にしたらしい。
確かにどことなく、既視感があったのだけれども、それは『ヒート』での感覚とよく似ていたからかもしれません。
(本作でも、冒頭の銀行強盗のシーンで、銀行員としてウィリアム・フィクトナーが出演しているから、尚更)

できることなら、もう少し映画の尺は短くして欲しいなぁ(苦笑)。
さすがにこの手の娯楽映画で、上映時間が2時間30分超えは、チョット厳しい・・・。

(上映時間152分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 クリストファー・ノーラン
製作 チャールズ・ローベン
    エマ・トーマス
    クリストファー・ノーラン
原案 クリストファー・ノーラン
    デビッド・S・ゴイヤー
脚本 ジョナサン・ノーラン
    クリストファー・ノーラン
撮影 ウォーリー・フィスター
編集 リー・スミス
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
    ハンス・ジマー
出演 クリスチャン・ベール
    ヒース・レジャー
    ゲイリー・オールドマン
    アーロン・エッカート
    マイケル・ケイン
    マギー・ギレンホール
    モーガン・フリーマン
    エリック・ロバーツ
    ネスター・カーボネル
    モニーク・カーネン
    ロン・ディーン
    キリアン・マーフィ
    アンソニー・マイケル・ホール
    ウィリアム・フィクトナー

2008年度アカデミー助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度アカデミー撮影賞(ウォーリー・フィスター) ノミネート
2008年度アカデミー美術賞 ノミネート
2008年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
2008年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2008年度アカデミー音響編集賞 受賞
2008年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2008年度アカデミー編集賞(リー・スミス) ノミネート
2008年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度全米俳優組合賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ボストン映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度シカゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度シカゴ映画批評家協会賞撮影賞(ウォーリー・フィスター) 受賞
2008年度ラスベガス映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ワシントンDC映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度サンフランシスコ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度サンフランシスコ映画批評家協会賞撮影賞(ウォーリー・フィスター) 受賞
2008年度セントルイス映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度セントルイス映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2008年度デトロイト映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞美術賞 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞視覚効果賞 受賞
2008年度オースティン映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度オースティン映画批評家協会賞脚色賞(ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン) 受賞
2008年度オースティン映画批評家協会賞作曲賞(ジェームズ・ニュートン・ハワード、ハンス・ジマー) 受賞
2008年度ヒューストン映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞撮影賞(ウォーリー・フィスター) 受賞
2008年度フロリダ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度フロリダ映画批評家協会賞撮影賞(ウォーリー・フィスター) 受賞
2008年度ユタ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度オクラホマ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞撮影賞(ウォーリー・フィスター) 受賞
2008年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度バンクーバー映画批評家協会賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(ヒース・レジャー) 受賞