ダ・ヴィンチ・コード(2006年アメリカ)

The Da Vinci Code

いつも安定した映画を見せてくれるロン・ハワードの監督作だし、
いつになく日本で劇場公開された時、話題となっていたミステリー映画だったこともあって、
僕の中でもかなり期待していた作品であったことは否定できないのですが...

正直に白状すると、僕はこの映画、全く楽しめなかった。。。

おそらく「まったく楽しめなかった」という意見は、大長編の原作を読んでいない点が影響していて、
ストーリーそのものをあまりよく理解できていないところが、たぶんに大きいと思っています。
ですから、今回に限って、ストーリーに関してはあまり大きいことを言えません(苦笑)。

とは言え、映画として上手くまとめ切れなかったのが、とても残念ですね。
原作を読んでいたら、映画の理解は深まるだろうが、原作を読まないと理解できない映画というのも悲しい。
何度も言いますが、そうなってしまうと、僕は映画の本質から外れてしまうとしか思えないのです。
そうならないように、映画の作り手というのは企画の段階からキチッとコンセプトを練って、
しっかりとストーリーを翻案しシナリオに“起こし”て、映画を撮影しなければならない。

映画の序盤から、そうとうな急ぎ足で話しを進めるので、
言ってしまえば、おそろしく不親切な映画に感じられてしまうかとは思います。
更に加えて、どうしても話しがあまり整理できていないところがあるのが、気になって仕方がありませんでした。
ロン・ハワード監督作にしては珍しく、ひどく散漫な映画という印象ばかりが先行してしまいます。

映画は美術館内で何者かに殺害された男が書き残した“ダイイング・メッセージ”として、
名前が残っていた大学教授ラングトンがパリ市警から身に覚えの無い罪で指名手配されるという展開です。

まぁこれも“巻き込まれ型サスペンス”ではあるのですが、
エピソードそのものや、各エピソードに“裏”があり過ぎるせいか、サスペンス劇があまり盛り上がらないですね。
映画全体を通して、どうしても気になって仕方がないのは、画面に緊張感が感じられないことですね。
画面に緊張感やスリルが不足しているのが影響してか、えらく散漫な映画に感じられるのも致命的です。

まぁおそらくこれらの弊害は、詰め込み過ぎたという理由に尽きると思う。
そもそもがエピソード量の多い内容を、無理矢理、2時間強に収めようとするのが難しかったのです。

この辺の交通整理はひじょうに上手いロン・ハワードですが、
本作に関してはハードルが高かったようで、他作品のように内容を整理し切れていない印象ですね。
残念ながらオスカーを獲った『ビューティフル・マインド』のような充実した映画を象徴するトータル感も希薄です。

劇場公開当時、ローマ教会から鑑賞ボイコットを訴える運動が巻き起こりましたが、
確かにこの内容は宗教的に多くの波紋を呼びそうなほどに、センセーショナルな内容で驚いた。
イエス・キリストの恋人をめぐるミステリーがダ・ヴィンチの『最後の晩餐』に暗号化されて残っているという、
ある意味でタブーに迫った内容ではありますが、勿論、これらは現段階で真実であるという確証はどこにもない。

イエス・キリストの子供がいたとすれば、それは勿論、子孫の話しになるわけで、
そこに驚きの結末が用意されているのですが、残念ながらこの結末はかなりの力技で違和感があった。
おそらく原作の通りなのでしょうが、「さすがにそれは無理があるだろ」とツッコミを入れたくなりました。

何が言いたいかというと、それだけの説得力が本作にはないということ。
多少の無理がある展開でも描かざるをえない時間的な制約が強いられる映画というメディアである以上、
こうした多少無理のある展開でも、観客を納得させる説得力というのは持たせなければなりません。

さすがにロン・ハワードはもっと力のある映画を撮れる映像作家なので、
この散漫な出来では彼の映画のファンとしても、不本意な一作としか言わざるをえない。

おそらく本作の原作って、ある意味、学術書のようなスタンスがあるミステリー小説だろうと思うんです。
基本、検証するというスタンスがあるがゆえ、一つ一つ建設的に事実を積み上げて整理し、
仮説を立てては一つ一つ丁寧に検証するという作業を小説の中で繰り返していたのでしょう。
まぁ勿論、あくまでフィクションであり小説の枠組みを出ませんから、学術的には認められるものではないけど。

ですから、大長編になったわけで、一つ一つ積み重ねていく作業自体が評価されたのだと思う。
(こういったスタンスが無ければ、ただの“珍説もの”として片付けられていたかもしれない・・・)

ところが映画となった本作はそういったスタンスが皆無になってしまい、
まるで一昔前のヨーロッパ旅行のパック・ツアーみたいに、朝早くから美術館めぐりを詰め込まれ、
鬼のように数多くの観光地を回らされるという強行スケジュールのような内容になってしまい、
じっくり吟味したいところでも、「はい、立ち止まらないでくださ〜い!」とか注意されてしまい、
挙句、「家に帰ってから、ゆっくりパンフレットで見てくださ〜い!」と添乗員に言われているような気分になる。
その添乗員がロン・ハワード自身のようなもので、話しを整理する前に次のシーンへ飛んでしまう。

さすがにこれでは、多くの観客が不満に思ったところだろう。
これではただただ、不親切な映画で映像化したことに何一つ意味を持たせられていないのです。

原作を完全に無視する必要はないけど、ある程度のオリジナリティがあっても良かったと思うし、
割愛すべき点は削って、もっと整理したストーリーにカスタマイズした方が映画がスッキリしたと思いますね。
その作業をできていない時点で、本作のこの出来は既に見えていたとしか僕には思えませんね。

09年に公開された次作『天使と悪魔』では、この辺は改善されているのだろうか?

(上映時間148分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
    ジョン・キャリー
原作 ダン・ブラウン
脚本 アキヴァ・ゴールズマン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
編集 ダニエル・P・ハンリー
    マイク・ヒル
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・ハンクス
    オドレイ・トトゥ
    イアン・マッケラン
    アルフレッド・モリーナ
    ジャン・レノ
    ポール・ベタニー
    ユルゲン・プロホノフ
    ジャン=ピエール・マリエール

2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ロン・ハワード) ノミネート