ダ・ヴィンチ・コード(2006年アメリカ)
The Da Vinci Code
03年に発表されたダン・ブラウンのベストセラー小説をロン・ハワードが映画化。
日本でも劇場公開当時、大きな話題となっていた作品で興行的にも大成功を収めることとなり、
後に『天使と悪魔』、『インフェルノ』と2本の続編が製作されたことから、成功作として扱われているのでしょう。
ロン・ハワードは総合力のある演出家だと思っていて、多少なりとも粗の多いシナリオであったとしても、
その卓越して安定感ある演出と、堅実に編集することで、いつも相応の面白さを映画に吹き込んでくれると思っていた。
が、本作...興行的に大成功を収めた作品だとしても、僕にはチョット合わなかったなぁ。
と言うか、当時も評論家筋には不評だったようで、ラジー賞にノミネートされてしまったくらい否定的な声も強かった。
個人的にはその声もよく分かる。これは小説で読んだら面白いのかもしれないが、
一つ一つの謎解きもウザったいくらい延々と続く印象で、現実世界でこんな謎解きしながら推理していくこと自体、
かなり難しいと思うのですが...まぁ、それはいいとしても、映画を観ていても整理がつきづらく、えらく分かりにくい。
本作はミステリーなので、この分かりづらさは致命的だと思う。勿論、宗教的な知識もあれば面白いのだろうけど、
ストーリーテリング上ももっと分かり易い構成にして進めていかないと、ほぼほぼ観客を置いてけぼりにするだけ。
主演のトム・ハンクス演じる大学教授ロバート・ラングドンがスゴく頭がいいという設定で、
直感も優れていて、次から次へと即時的に状況を理解して、推論を頭の中で構成する能力が高いのはいいけど、
銃で命を狙われる危機に直面しても冷静に対応しているし、あまりに万能過ぎて説得力が無いように見えてしまう。
あくまで映画なので、僕は映画という枠組みの中で物語が完結できていないのは賛同ができない。
おそらく原作も長編なので、かなり端折っているのではないかと思うのですが、それでも原作を読まないと面白さが
補完されないタイプの映画のように見えました。各所で整理整頓しないまま、映画が進んでいってしまっていて、
観客も頭の中で整理できないままになってしまう。これを補助するためには、原作を読まないといけないのかもしれない。
それか、映画を何度も何度も繰り返し観ることなのでしょうけど、それもまたしんどいなぁ。
さすがに2時間を大きく超える上映時間なので、結構なタフな時間になるしストーリーを追うのに必死になってしまう。
それでは映画の醍醐味を味わえないですよね。ロン・ハワードが描きたいことについて、上手く具現化できていない。
ヒロインで美術館長の娘役であるオドレイ・トトゥは、存在感たっぷりの良い役どころではありましたけど、
そもそも映画の序盤でメイン・ストーリーに絡んでくる、その方法自体がかなり強引なもので、さすがに無茶ですよね。
彼女はもっと自然な形で入ってきて欲しいし、祖父である美術館長との過去の出来事ももっとスリムに描いて欲しい。
ロン・ハワード的にも描きたいことが多くあったのでしょうし、この原作をまともに映画化するのに
2〜3時間程度という時間的制約はかなりの障害だったのではないかと思う。だから企画の段階で工夫が必要でした。
映画の途中でラングドン教授らが逃げ込む、大富豪の専門家リーの邸宅のエピソードからは
リーらが逃走の手助けをしてくれることから、一緒になってフランス警察から逃げてロンドンへ向かうのですが、
リーを演じるイアン・マッケランが良い存在感を示しているものの、ロンドン警察に包囲されてしまった彼らが
如何にして車を使って脱出するかを描いたフラッシュ・バック構成の編集では、悪い意味でクドい見せ方になっている。
これはフラッシュ・バックではなく、ストレートに見せて欲しい。こんな安っぽい編集には、ガッカリさせられた。
これまでのロン・ハワードなら、こういう見せ方には細心の注意を払って構成してくれていたと思うのですが、
とにかく本作では冴えない。作品による出来・不出来はまだしも、こういう見せ方では間違えない人だったのに残念。
確かに映画で描かれたルーブル美術館をモチーフにして、ダ・ヴィンチの名画に隠された秘密に関わる
ミステリーという前提条件はとても面白い。その謎解きをやっていくのが大学教授というのも、有りと言えば有りだろう。
ただ、スゴく気になったのは、宗教学を学びたい人にとっては“入口”として優れた映画なのだろうけど、
イエスの出自に言及した部分はかなりセンセーショナルな内容だと思うし、歴史学者の間でも賛否は分かれるだろう。
あくまでフィクションだから、どう描こうが自由なのだろうけど、内容的にかなり反発を生み易い部分はありますね。
そして、これはあくまで映画なので「キリスト教について興味を持つにいい映画ですよ」程度で
ロン・ハワードみたいなディクレターには満足して欲しくないし、もっと良い意味でワクワクさせてくれる映画を期待したい。
この映画を観ていて感じたのは、ストーリーの進行は猛烈に速いけど、一方で映画のテンポが良いわけではない。
それは、良い意味でワクワクさせてくれる、テンションの高い演出で構成されているとは言い難いからだと感じました。
その一つとして、クドいように繰り返されるフラッシュ・バックがあるのですが、
まぁ、(使い方として)妥当なものかなと思えるフラッシュ・バックと、そうではない安っぽいフラッシュ・バックがある。
この辺がいつものロン・ハワードらしくないなぁと感じさせる点で、これは用意された脚本の問題もあったのかもしれない。
そういう意味では、フランス警察の担当刑事を演じたジャン・レノもあまり賢くないキャラクターで今一つですね。
ジャン・レノも『レオン』以降、何本かハリウッド資本の映画に出演してますけど、あまり役に恵まれている感じじゃない。
本作の刑事役なんか、もっと賢くも手強い存在として描かれていれば印象に残ったのに、どこか賢く見えないのは残念。
そもそも、あんな程度の情報でラングドンが犯人だと確信して執拗に追い続けるということ自体、問題があるだろ(笑)。
イアン・マッケランや狂信的な教徒を演じたポール・ベタニーは頑張っていただけに、このギャップがとても残念。
と言うか、いつものロン・ハワードならこういうことはしないと思っていたんだけど...なんか上手く噛み合いませんね。
それから、もう一つどうしても残しておきたいのは...映画のラストシーンが蛇足に見えて仕方がなかったこと。
これは僕は無い方が良かったと思う。絵画に秘められたマリアの秘密が焦点だというのは分からなくはないけど、
映画は途中から完全に美術館長が殺害された謎、そこに絡む教会の汚染をメインに絞って進めてましたので、
暗号の謎解きは映画を進める上でのツールでしかないように見ていたのですが、ラストに急に引き戻される感じだ。
ただでさえ上映時間が長くなっていたので、どうしてもマリアの秘密を描くのであれば、一気に描いて欲しかったなぁ。
正直に言うと、この原作は映画化に適した内容だったのか?という疑問がありました。
どうしても、全体的に詰め込んで一つ一つのプロットを説明するのに必死なまま映画が終わってしまった印象だし、
観客としてもキリスト教勃興の歴史や、絵画に関する知識がないと、この内容では十分に楽しめないのではないか。
さすがのロン・ハワードもこうなってしまうと苦しかったですね。どうしてもテンポの良い映画にはできないですね。
映画は一昔前のヨーロッパのパック・ツアーの美術館巡りのようになってしまっていて、
やたらと名所のスケジュールを詰め込んで、本来であれば鑑賞に時間がかかる美術館に“行った”という
実績だけを作って、館内のウォークスルーでは「はい、立ち止まらないで〜! あとでパンフでゆっくり見てください」と
言われて、次から次へと見せられて、何が何だか分からないまま美術館巡りが終わってしまうという、ある種の苦行。
感覚的にはこの映画もそんな感じになってしまっていて、「興味があったら原作読んでね〜」と言われてるかのよう。
でも、それでは映画自体の魅力が出ないですよね。この辺は続編で改善されていることを期待したいところですね。
つまらないことではありますが、ラングドン教授がヒロインの運転する車でルーブル美術館から脱出するシーンも、
緊迫感ある良いシーン演出にはなっているけれども、どことなく警察の追跡が甘く、敢えて逃がしたように見えてしまう。
個人的にはジャン・レノ演じる鬼刑事の指令で追跡するわけですから、もっとしつこく絡んできて欲しかったところ。
これは、いわゆる巻き込まれ型サスペンスだと思いますので、つまらないところで難点があると苦しいですね。
ロン・ハワードはこういった部分もしっかりケアできる実力があるディレクターだと思っていたので、これは意外でした。
やっぱり、この尺の長さから言っても、どうしても人気原作の映画化ということもあって、詰め込んでしまったのかな・・・。
劇場公開当時、日本でも配給会社がものスゴく宣伝に積極的だった記憶があり、実際にヒットしましたが、
この出来では僕の中では失敗作では?という疑問が拭えない。ロン・ハワードなら、もっと上手く出来たはずです。
どうでもいい話しですが...こういう物語って、往々にして大学教授という研究者が「専門家」として
主人公になることが多い気がしますけど、こういった研究者って学問の凄い狭い専門領域を探求する能力に長けた
人であるはずで、自らの論理や勘を使って“推理”することに必ずしも長けているわけではないと思うのですがね。。。
(上映時間148分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
ジョン・キャリー
原作 ダン・ブラウン
脚本 アキヴァ・ゴールズマン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
編集 ダニエル・P・ハンリー
マイク・ヒル
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・ハンクス
オドレイ・トトゥ
イアン・マッケラン
アルフレッド・モリーナ
ジャン・レノ
ポール・ベタニー
ユルゲン・プロホノフ
ジャン=ピエール・マリエール
2006年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ロン・ハワード) ノミネート