悪の法則(2013年アメリカ)

The Counselor

正直に白状すると、僕にはこの映画の見せたいことが、最後まで分かりませんでした(笑)。

名匠リドリー・スコットが持ち前のスタイリッシュな演出で、
過激でありながらも哲学的で独特な世界観を映画化したサスペンス・スリラー。

要するに、「やめとけ」と言われてたのに、
犯罪組織を欺くような犯罪に手を染めた弁護士が、周囲の助言と忠告にあいながらも、
結局、麻薬犯罪組織から命を狙われる羽目になる姿を、緊張感あふれるタッチで描いています。
この辺はリドリー・スコットだからこそできる雰囲気かもしれませんが、とにかく映画の本筋が分かりにくい。

ホントに1回観た後に、ストーリーの詳細をまとめたものを読んで、
もう1回本編を観ないと、いろいろと整理がつかない状態になってしまうかと思われますが、
本作に関して言えば、もう1回観ようと思えるかどうかが、大きな分かれ道になってしまう気がします。

リドリー・スコットの監督作品としては、かなり異質というか、珍しいタイプの作品です。

特にこの映画で、メイン・ストーリーをかき乱す存在であるかのように、
儲け話を提供する実業家ライナー役でハビエル・バルデムが登場するのですが、
彼があれやこれやと主人公に“吹き込む”のが、全て意味ありげで、どんな意味があるのかハッキリせず厄介だ。

彼の愛人マルキナがライナーの愛車フェラーリにまたがって、
“ひと暴れ”するエピソードがあって、それをキャメロン・ディアスが堂々と演じていて、
それはそれで驚きなのですが、これもまた、全体の中でどういう意味を持っているのか、とても分かりにくい。

そして、ライナーの友人で麻薬カルテルとの仲介人として登場するのが、
ブラッド・ピット演じるウェストリーで、彼もまた意味ありげなことを主人公に説教するのですが、
やっぱり何を目的に何をやっているのか、今一つハッキリと映画の中では掴みにくい。

そういうわけで、少々、乱暴な言い方をすれば...
映画の全体像をつかむ上では、シナリオ自体もひどく不親切な作りをした映画と感じました。

けど、たぶん、この映画を評価する点はそこなのでしょう。
ライナーに象徴されていますが、物事の本質を掴んでいるようで、常にはぐらかしてボヤかす。
意図してやったことなのか分かりませんが、この映画は脚本の時点でそういう方向性を志向してます。
事実、ライナーは劇中、投資しているビジネスの詳細を問われると、「よく分からん」と答えています。

おそらく、この映画の本質はそういったスタンスにあるのだろうと感じましたね。

物事の本質を捉えようとせずに行動に移すことが“悪の法則”なのかもしれませんが、
それがいつしか、自分や仲間、家族の命を危険に晒すことになるというのだから、とても恐ろしいことだ。

特に劇中、語られる“ボリート”と呼ばれるピアノ線のようなもので、首を絞めつけ、
終いには首を切断してしまう強力なパワーを持つ装置の恐ろしさに、晒されるのです。
(この“ボリート”、ひょっとしたら日本通のリドリー・スコットなので、日本の時代劇から想を得たのかも)

あまり深くは知りませんが、本作のシナリオを書いたコーマック・マッカーシーは
07年に映画化された『ノー・カントリー』の原作者で、ピュリッツァー賞作家であるとのことで、
本作が映画の脚本に初挑戦したようだ。だからこそ、こういう野心的な構造のシナリオだったのでしょうね。

しっかし、それにしても...
本作の企画は当初、ライナー役でハビエル・バルデム、主人公の恋人役でペネロペ・クルス、
ウェクスラー役はブラッド・ピットで、ライナーの愛人マルキナはアンジェリーナ・ジョリーで調整していたと
いうんだから、それは驚きだ。ハビエル・バルデムとペネロペ・クルスは実生活での夫婦ですし、
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーは言うまでもなく有名な夫婦。こんな役で2組の夫婦が出演とは・・・(苦笑)。

個人的には、もう少し違ったリドリー・スコットの映画が観たかったのですが、
本作はバイオレンス描写はやはり彼らしい。“ボリート”で襲われる人の描写はその代表ですが、
個人的には砂漠地帯を走る道路の真ん中で、麻薬カルテルの手先と思われる2人組が警察を装って、
輸送トラックを襲撃しに来るシーンで、アスファルトのスレスレにカメラを置いて、跳弾を表現したのは興奮した(笑)。

この映像感覚はリドリー・スコットっぽいですね。そして被弾する人を至近距離で描いたのも凄い。
安直にリアルという言葉は使いたくないけど、これだけ生々しい映像表現はやはり凄いと実感する。
こういうシーン演出がないと、やはりリドリー・スコットの監督作品は満足できませんね(笑)。

人間、やはり方程式を求めて生きていると思う。
分かり易く言えば、PDCAを教え込むことと一緒で、成果を上げるためには計画を立てて実行し、
確認と検証をして、次のスパイラルに乗せていくということで、僕もPDCAは基本中の基本として、
尊重されるべき考え方だとは思うんだけど、やっぱり問題は社会人になると、答えのないことに
答えを作っていく作業の方が、圧倒的に多い。これは方程式もないから、難しい課題になる。

でも、これができることこそ、社会人として評価されることになるのだろうとは思う。

映画は計画通りに行かない、決まったプロセスがないと、
人間の甘さが出て、トンデモない方向へと転がり落ちてしまう恐ろしさを描いていると言っていい。
これはある意味で、永遠のテーマでしょう。言いたかないけど、人ってそんなもん。

だから、上手くいかすために、最適解にたどり着くために、物事の本質を見ることが大切で、
なんでも「とにかく(拙速に)やればいい」ということにはならない。これもまた、社会の掟かもしれません。

しかし、本作はそういった部分が伝わりにくいんだなぁ。
確かに頭の良い、スタイリッシュな映画ではあるんだけど、問題はこの内容について行こうと思えるかどうか。
本作が賛否両論に終わったというのが、凄くよく分かるけど、作り手もそれは気にしちゃいないのだろう。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

日本公開時[R−15+]

監督 リドリー・スコット
製作 リドリー・スコット
   ニック・ウェクスラー
   スティーブ・シュワルツ
   ポーラ・メイ・シュワルツ
脚本 コーマック・マッカーシー
撮影 ダリウス・ウォルスキー
編集 ピエトロ・スカリア
音楽 ダニエル・ペンバートン
出演 マイケル・ファスベンダー
   ペネロペ・クルス
   キャメロン・ディアス
   ハビエル・バルデム
   ブラッド・ピット
   ブルーノ・ガンツ
   ディーン・ノリス
   ナタリー・ドーマー
   コラン・ヴィシュニック
   ロージー・ペレス
   トビー・ケベル
   エドガー・ラミレス
   ジョン・レグイザモ