カムバック・トゥ・ハリウッド!!(2020年アメリカ)

The Comeback Trail

エクスプロイテーション映画の一環して製作された『尼さんは殺し屋』という映画を製作して、
不謹慎な映画だと強烈なバッシングを受けて、興行的にも大失敗したことでヤバい借金取りからも追われ、
次の仕事に困ったベテラン映画プロデューサーが、起死回生のために大博打を打つ姿を描いたコメディ映画。

主要キャストとしてロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマンという
お爺ちゃん3人が揃ったというのもスゴい話しで、20年前にこの企画が実現していたら大きな話題となっただろう。

正直な感想を言わせてもらうと...本作は新型コロナウイルスが猛威を振るったおかげで、
劇場公開が大幅に遅れた結果、評論家筋からも不評のままで、あまり話題にならずに終わってしまった作品だけど、
事前に覚悟していたほどは酷くはなかった。ただ、これは明らかにもっと面白く出来たはずと思える作品でした。

コメディ映画だから多少は仕方ないとしても...あまりに映画としての見どころが無い。
脚本家出身のジョージ・ギャロの監督作品で、確かにこれはストーリーありきな作品のような気がする。
それ以外に思わず納得させられるとか、目を見張るようなシーンがあるわけではないところが、本作のしんどいところ。

こういうと悪いけど、やっぱり映画界を描いた映画というのは甘く見えちゃう。
いや、現実は映画製作って、スゴい大きなリスクを抱えてやることで、幾多の困難があるはずなんだけど、
本作もそうだし、過去の映画界の内幕ものを観ていても、ついついそう感じちゃうんだけど、どこかに甘さが出る。
勿論、その中にも良い映画はたくさんあります。当然、厳しく内幕を描いた映画もある。でも、甘く感じることが多いなぁ。

残念ながら、本作もどこかそんな甘さを垣間見た気がする。
ロバート・デ・ニーロ演じる主人公のベテランの映画プロデューサーにしても、ホントはゲスい奴なんですよ。
一介の映画人でプライドもあるのでしょうが、それでも借金返済のためにと、映画製作を装ってトンデモないことを
やろうとするような人間。しかも、それでいてどうしても自分で撮りたい映画のシナリオは、絶対に他人に渡さない。
どんな汚い手を使ってでも、この自分で撮りたい映画のシナリオを守ろうとする。聞こえはいいけど、ただの自分勝手。
挙句の果てには、とある人気俳優が転落死したことに狂喜する主人公というのは、ブラック・コメディとしても難しい。

そんな主人公をも、最低で醜悪な人間には描けないわけですから、どこかに愛着を持たせて、
結局は最後に彼を守って描こうとしちゃうわけで、ジョージ・ギャロが描く映画界のビジョンも、どこか甘いと感じちゃう。

それに、映画の前提と化していることに不可解さが多くあったことも否めない。
例えば、主人公が固執していた『パラダイス』という映画の脚本についても、まったく詳細を描こうとしない。
それだけ主人公が固執して、ライバルのプロデューサーも多額の資金を積み上げて買いたいと言ってくるのであれば、
この『パラダイス』という脚本の中身が何たるものかで、どれだけ面白いストーリーなのか、しっかりと示して欲しい。

自分はアカデミー賞を否定するつもりもないし、ハリウッド最高の栄誉ということで異論はないけど、
その『パラダイス』でアカデミー賞を獲れるとまで豪語しているのだから、その凄さ・秀逸さを示さないのは理解できない。

それと同じように感じたのは、老人ホームに入って、すっかり晩年を迎えていた、
トミー・リー・ジョーンズ演じる西部劇映画の年老いたスター俳優にしても、カメラにフレームインすると、
それまでの衰えた風貌から一転してスターらしいオーラを出すという設定から、奇跡的に素晴らしいシーンが
撮れたということが前提で映画が進むのですが、少なくとも描かれただけでは、驚愕するようなシーンは無かった。

思わず息を呑むような美しさも、大迫力の乗馬も見当たらないし、スローモーションも使い過ぎである。
結局、ここは本作のカメラ自体が、彼らが撮ろうとしている映画のカメラと同期しないと意味がないし、
映画自体が一向に面白いものにならないだけでなく、「とにかくスゴいんだ!」ということに説得力も出てこない。
こうなってしまうのは、本作のような映画にとって致命的でしかなく、よほど物語に魅力がないとキビしいでしょうね。

ですので、僕はこの映画自体が全米でも不評のまま終わったということに、逆に安堵した部分がありました。
そりゃ、どんな映画にも良いところはあると思うし、本作にもファンがいることは重々理解した上でですが...
でも、やっぱり歴史あるハリウッドを抱えるアメリカの映画ファンが、こういう映画に迎合するだけではダメだと思うので。

やっぱり、しっかりと楽しませて欲しいし、本気で面白い映画を作るんだ!という気概を見せて欲しい。
これでは、本作自体が主人公のプロデューサーのように、本気で映画を作ろうとしていないように僕には感じられる。

ハッキリ言って、この豪華キャストの無駄遣いにしか見えなかったし、そもそもこの企画のどこに惹かれて、
彼らが一同集まって本作に参加したのか、その理由がよく分からなかった。もっと違う映画で共演を観たかったなぁ。
べつにコメディ映画で共演で構わないのですが、やっぱりこういう映画界の内幕ものって、難しいジャンルだと実感。
(好評だったのは...ロバート・アルトマンが皮肉たっぷりに撮った、92年の『ザ・プレイヤー』ぐらいでは?)

ホント、こんな内容になっちゃうなら、叩かれたとされる『尼さんは殺し屋』をそのまんま映画化した方が
エキサイティングで面白く、魅力的な映画になったのではないだろうか?と皮肉の一つでも言いたくなってしまう。
色々な意見はあるとは思うが、『尼さんは殺し屋』の方が面白そう・・・と観客に悟られてはダメだと思うんですよね。

暴れ馬である“バタースコッチ”が要所でキー・ポイントとなってきますが、
突然、失踪したり戻って来たりと不思議な能力があって、何故か単語によって異常な反応をするという奇妙さ。
思わず「そんな馬、いるのかよ!?」とツッコミの一つでも入れたくなりますが、“バタースコッチ”の描き方も中途半端。
(まぁ・・・馬なら、人間の発音を聞き分けることができる能力、ありそうな気もしますがねぇ〜)

それから、あれだけ賞賛されることに固執して頑張ってきた主人公だったのですから、
映画の最後に実際に賞賛されるシーンを描かないというのも、僕は賛同できない。オマケにシャイだから、
という理由でトミー・リー・ジョーンズ演じる老俳優が試写会の会場に馬でやって来て、帰ってしまうというのも謎。
コメディ映画だから・・・という開き直りが作り手にはあるのかもしれないが、ラストもしっかりと描いて欲しかったなぁ。

そういう意味でジョージ・ギャロの仕事ぶりには?マークがつく。これは、もっと上手く撮れたはずだ。

さすがに老体に鞭打つように、馬に蹴っ飛ばされるデ・ニーロを見て笑えと言われても、それはツラいものがある。
どうせならモーガン・フリーマン演じる借金取りと、もっとコミカルな絡みを作って、笑わせて欲しかったですね。
デ・ニーロとモーガン・フリーマンの共演という時点で貴重な企画だったので、もっと楽しませて欲しかったなぁ。

本作の舞台は1970年代のハリウッドという設定ですので、映画業界の事情は既に競争の激しい業界である。
エクスプロイテーション映画も数多く製作されており、いわゆるB級映画やキワどい内容の映画も多くありました。
低予算映画も市民権を得たように作られる時代になっていて、本作の主人公のようにヤバい奴から借金して、
映画製作したことで自らの命を危険に晒していた業界人はいたでしょうね。自転車操業の映画人もいたでしょうしね。

そうなってしまうと、なかなか抜けられない蟻地獄のようにハマり込んでしまって、破滅に向っていくでしょう。

本作の主人公もそれに近いものがありましたけど、
「主演俳優が死ねば撮影中止で保険金が入ってきて、借金返せるじゃん!」とひらめいてしまうヤバい奴。
そこから始まるドタバタ劇だったはずなのですが...不思議と映画は盛り上がらずに終わってしまったのが残念。

強いて言えば、主人公から監督を任されることになった女性監督を演じたケイト・カッツマンは良い感じだ。
おそらく彼女が演じていなければ、脇役含めて、誰も魅力的なキャラクターがいない映画になってしまっただろう。

でも、これも僕には“偶然の産物”のようにしか見えなくって、ジョージ・ギャロが何を目指して、
何をどう描こうとしていたのか、そのビジョンが見えないまま終わってしまった。それがあまりに勿体ないですね。
この辺はこれまでデ・ニーロもコメディ映画は、数多く出演してきているのでアドバイスしてあげて欲しかったところ。

勿論、これはこれで支持されるところがあるコメディ映画でもあるのでしょう。
ブラック・ユーモアと言う割りには、ブラックさは足りない気もするし、派手に笑えるシーンがあるわけでもない。
その掴みどころが無い...というか、特徴の無さが良さなのかもしれませんが、もっと分かり易く作った方が良かった。
正直言って、これでは全米はじめ、世界各国でも不評だった理由がよく分かる映画、と言わざるをえないかな。

ちなみに本作、82年に同名映画として製作された作品のリメークらしい・・・。

(上映時間104分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジョージ・ギャロ
製作 フィリップ・キム
   パトリック・ヒブラー
   ジョイ・シロット・ハーウィッツ
   ジュリー・ロット・ギャロ
   リチャード・サルバトーレ
脚本 ジョージ・ギャロ
   ジョシュ・ボスナー
撮影 ルーカス・ビエラン
編集 ジョン・N・ヴィターレ
音楽 アルド・シュラク
出演 ロバート・デ・ニーロ
   トミー・リー・ジョーンズ
   モーガン・フリ−マン
   ザック・ブラフ
   エミール・ハーシュ
   エディ・グリフィン
   ケイト・カッツマン