あの日、欲望の大地で(2008年アメリカ)

The Burning Plain

『アモーレス・ペロス』や『21グラム』の脚本を書いたギジェルモ・アリアガの監督デビュー作。

まぁギジェルモ・アリアガのスタイルを分かった上で、この映画を観ていれば、
割かとスンナリ受け入れられる映画だとは思うのですが、事前に理解がなければ、
確かにこれは不親切極まりない映画に映るかもしれず、万人ウケはしないかもしれません。

僕は本作、実に良く出来ていると思うし、丁寧に作り込まれているので肯定的に考えているのですが、
いい加減、この時系列をズラしまくってストーリーを構成する21世紀流行のスタイル(?)はどうにかならないものか?

本作もギジェルモ・アリアガのこれまでのスタイルを踏襲するかのように、
やはり必要以上に時系列をズラして描いており、編集冥利に尽きる作品になっているのですが、
今回も半ばやり過ぎな感じがするので、ひじょうに分かりにくい構成になってしまっていることは否定できない。
個人的にはストレートに構成しても、十分に面白い内容になったと思うのですが、やはりこれが昨今の流行なのか、
本作でも敢えて複雑化させて描き、映画の最後にまとめるというスタイルを採っております。

まぁ・・・まだ故意に複雑化させても、映画の最後に上手くまとまっているからいいけど...
個人的には落ち着いて、真っ直ぐに撮って欲しいですね。こんなことばっかやってると、映画の本質を見失います。

映画は刹那的な情事を繰り返し、まるで感情を失ったような生活を送る、
レストランの女性経営者シルヴィアを中心に映しますが、彼女には難しい過去がありました。
それは母親が違う町に暮らすメキシコ系既婚男性との情事の最中に、火事で焼死するという痛ましい過去。

幼い子供を残して、スキャンダラスな最期を迎えた母への複雑な感情を抱えながらも、
まるで自分を虐めるかのように、見知らぬ男との情事を繰り返す毎日でしたが、
実は彼女の過去には、更に隠された真実や後日談が回想されるというのがメイン・ストーリー。

何故、彼女が刹那的な人生を送るのか、映画の前半は明らかにされないのですが、
映画が進むにつれて、徐々に彼女の複雑な過去が明らかにされていきます。

演じるシャーリーズ・セロンも製作総指揮を兼務していたり、この企画に随分と積極的に参加したらしく、
こういう複雑な感情を抱き続けるシルヴィアのキャラクターに強く惹かれるものがあったのでしょう。
確かに映画の題材としては実に魅力的だし、演者としては“演じ甲斐”のあるキャラクターだったでしょうね。

そしてこの映画で忘れてはならないのは、
シルヴィアの母親ジーナを演じたキム・ベイシンガーで、これは見事な好演と言っていい。
『運命の女』でダイアン・レインが平凡な家庭の母親が、何一つ家庭に不満がないにも関わらず、
何故か不倫の恋に燃え上がり、危ないのが分かっていながらも若い男の肉体に夢中になってしまう姿を
演じておりましたが、本作のジーナはまた違った形で、不倫の恋を燃え上がらせてしまいます。

強いて言えば、ジーナは家庭生活に不満があったはずだ。
ガンに冒され、夫との性生活にも不満を感じずにはいられず、子育てにもやや疲弊してきている。
そんな中で、同じような年齢の子供を持つ、平凡な家庭の夫であるオッサンと恋に落ちます。

リスクは当然、分かっていただろうし、家族には隠したかった。
でも、やはりジーナの心は止まらないのです。そんな中でキム・ベイシンガーが見せたシーンとして、
映画の中盤にあるのですが、不倫相手のオッサンにガンとの闘病について告白し、
震えながら抱き合うというシーンがあって、これは思わず観る者の心も動かされると言っていい。

やはり、こういうシーンがある映画って、強いんですよねぇ〜。
これはギジェルモ・アリアガもキム・ベイシンガーの芝居を引き出した功績は、ひじょうに大きいでしょう。

ジーナは娘から不倫を疑われていることに薄々気づきながらも、
それでもオッサンの元へと走ってしまうというのは、あくまで倫理的には「不倫はダメだよなぁ」とはしながらも、
ジーナがガンを患い、心を大きく痛めていたという要素が、ひじょうに大きく影響しているんですよね。

そして好感の持てるラストも良い。
確かに明快なハッピーエンドというわけではなく、実に些細な出来事なのですが、
このラストは前向きにシルヴィアの人生を進めていこうとするスタンスが垣間見れる、良いラストシーンですね。

できれば、無理に時系列を動かすのではなく、ストレートに見せて欲しいのですが、
それでも本作はギジェルモ・アリアガの卓越した演出手腕、そして編集の上手さがあってこそ、
成り立つ良く出来た作品と言っていいでしょう。これからもたくさんの映画を撮って欲しいですね。

あと、忘れてはいけないのは、若き日のマリアーナを演じたジェニファー・ローレンスだ。
今となっては2010年の『ウィンターズ・ボーン』で高い評価を受けたので、若手女優の中でも実力派女優として
ハリウッドでも注目の存在なのですが、気持ちがあったのかどうかはともかく、重大な過去を背負ってしまった、
言わば「業」を背負った少女の姿や、多感な年頃を見事に演じ切っており、これが映画デビューだというから凄い。

ギジェルモ・アリアガも撮影前に彼女と会ったときに、
「思わずメリル・ストリープの再来かと思った」とコメントしたらしいのですが、
ひょっとすると、そう遠くはない未来に彼女がハリウッドの実力派女優としてはトップになるかもしれませんね。

特に母親役のキム・ベイシンガーと負けずに堂々と渡り合っているのが凄いですね。

が、やはり暗い内容の映画であることから、
精神的にマイってるときに鑑賞することはあまりオススメできない内容であることを前提しておきます。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG―12]

監督 ギジェルモ・アリアガ
製作 ウォルター・パークス
    ローリー・マクドナルド
脚本 ギジェルモ・アリアガ
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 クレイグ・ウッド
音楽 ハンス・ジマー
    オマール・ロドリゲス=ロペス
出演 シャーリーズ・セロン
    キム・ベイシンガー
    ジェニファー・ローレンス
    ホセ・マリア・ヤスピク
    ホアキン・デ・アルメイダ
    ジョン・コーベット
    ダニー・ピノ
    J・P・パルド
    ブレット・カレン
    テッサ・イア

2008年度ヴェネツィア国際映画祭新人俳優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞