最高の人生の見つけ方(2007年アメリカ)

The Bucket List

これはもう少し楽しませてくれるかと期待していたんだけどなぁ・・・。

お互いにベテラン俳優ですが、実は同い年のジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが
初顔合わせの共演となった、お互いに余命宣告されたガン患者の人生最後の“お楽しみ”を描いたコメディ。

監督は『恋人たちの予感』や『ア・フュー・グッド・メン』などで知られる名匠ロブ・ライナーですが、
もう少し手堅い仕上がりなのかと期待していたのですが、どうもこの“美味しい”キャスティングを生かし切れなかった。
ジャック・ニコルソンもどこか毒が抜けたような感じで、もう少し人生の終わりを悟って、暴れまくる姿が観たかった。

まぁ、ありがちな話しですが、病院経営者として医療を見ていた立場だった者が、
いざ自分自身が患者として、その病院に入院する立場になったら、見方が変わるというのは興味深い。

ジャック・ニコルソン演じる大富豪エドワードは、若くして事業を起こして大成功し、
並々ならぬ努力で経営者として名を上げ、会社経営に留まらず、病院経営にも乗り出していた。
経営する病院の方針として、入院患者は一人部屋なしで基本は二人部屋。一切の特別待遇はしない。
費用がかかる病院経営の中で、徹底した合理化を進め、一定の収益性を確保してきたようだ。

当然、エドワードがガン患者として自身が経営する病院に入院するときも特別待遇はないわけで、
それを悟った瞬間、エドワードは叫び散らしますが、彼の秘書は一般の患者と同様の扱いを行うよう手続きを進めます。

相部屋となったカーターは長く癌で闘病してきた患者であり、長く自動車整備工として家族を養ってきた。
エドワードにとって、カーターのような患者はごくありふれた患者のうちの一人であっただろうし、
カーターのような癌患者が亡くなるというケースを、気に留めることすらなく、病院経営の原資とでも考えていたのだろう。

しかし、当然と言えば当然ですが、いざ自分が患者として入院するとなると、感情的にそうも言っていられなくなる。
そう思うと、自分の経営している病院が優良病院だなんて思えなくなるし、悪いところばっかり目につくようになる。

以前、何かで「癌というのは、自分の残された時間が分かる数少ない疾病だ」という意見を読んだ。
僕自身もそれを読んで、「なるほど、確かにそうだなぁ」とポジティヴに受け止めていたのですが、
実は本作でもそんなニュアンスのことを、カーターが本音を吐露するシーンでザックリと言及されている。

カーターは告知を受ける前は、「自分の余命を知りたい」という希望があって、
自分の意思で医師の余命宣告を聞いたわけですが、「いざ聞いてみると、スゴいショックだった」と彼は言う。
人間はある意味ではあまのじゃく。厳しい状況なのであれば、余命を聞きたいという気持ちはよく分かるが、
一方で、冷静に考えると、どんなに覚悟を決めていても、ハッキリと余命を数字で言われるとショックを受けるだろう。

そんな現実もよく分かる。自分もたぶん、そうだろうと思う。
よく言われることですが、やはり人には余命を聞いて過ごすことに向く人と、向かない人がいるのでしょう。
向かない人の場合は、ショックを受けて気持ちの切り替えがきかず、精神的にも体力的にもガックリ来ちゃう。

まぁ、この辺はあくまで患者本人の意向が尊重されるべきですけど、
家族は家族で結構、気を遣う局面であるのでしょうね。それは誰だって、現実と向き合うのはツラいことですから。

でも、やっぱり大事なのは、そういった現実と直面した後に、どう行動するかなんだろうなぁ。
この映画のテーマは正にそれでして、必ずしも最後の最後まで闘病することが良いとも限らず、
エドワードなんかは病院経営者であるがゆえに、余命宣告を受け入れて、病気と闘うことをやめて、
残された人生、それまでやり残したこと、最高の贅沢を極めることに時間とお金を遣おうと、腹をくくります。

それにカーターが同行するわけですが、彼は彼なりにエドワードのような価値観で生きたことがなく、
少々の憧れがあっても、家族のためと、ことごとく諦めていたことが、実は人生の中で後悔でもあった。
勿論、彼自身、歩んできた人生は幸せなものだったでしょう。しかし、彼は残された人生でそれまで触れたことがない
自分の知らない世界を見るということに“投資”しようと決意するのです。これは勇気があるけど、とても幸せなことだ。

おそらく監督のロブ・ライナーは人生最後の旅をハートフルに描きたかったのだろうと思う。
しかし、僕はどちらかと言うと、もっとジャック・ニコルソンが暴れる姿を観たかった(笑)。
そこに真面目なモーガン・フリーマンが絡むのだから、尚更。僕には最後の“スピーチ”なんかは、蛇足に見えた。
この辺は作り手の表現の仕方もあったとは思うのですが、こういう終活を描いた映画というのは、最後がとても難しい。

ファンタジーとしてはアリな内容だとは思うし、2人の旅行も破天荒あものだとは思う。
だけれども、ジャック・ニコルソンのキャラクター自体はとても大人しいというか、中途半端にコミカルなんですね。

残念ながら最近のロブ・ライナーは、こういうところがどうも上手くいっていないので、
こういう悪い意味で中途半端な感じに終わってしまうというのは、正直、納得のいく結果でもあると思う。

決してつまらない映画ではないのですが、どうも作り手に開き直りが感じられません。
どうせなら、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンに存分に暴れさせて、余命宣告をされた老人とは
思えないぐらいのパワーを感じさせるコミカルな映画に仕上げて欲しかったなぁ。その方が、たぶん楽しめたかと。

最近では終活だの、エンディング・ノートを書くだのと、
老後の人生に関するトピックスも多くありますが、ハリウッドでこういう題材を映画化というのは実に珍しいと思う。
ひょっとしたら、これはこれでハリウッドも高齢化が進んでいることの裏返しなのかもしれませんね。

個人的には、死が迫っていることを意識したとき、それまでの人生でやってこなかったことを
チャレンジすることに時間とお金を費やすという考え方も悪くはないなぁと思った。これが出来るのも、贅沢ですがね。
エドワードが言っていた通り、残された人生の時間の長さが分かったものの、身体が元気なうちにやりたいという
気持ちはよく分かる。まぁ、自分の場合はスカイ・ダイビングはどう転んでも、やらないでしょうけどね(苦笑)。

この映画の場合、やはりカーターとエドワードがお互いに心を開くようになるまでの過程を
もっと入念に描いた方が良かったでしょうね。お互いの人生に干渉しながら旅をするという話しなのですから、
お互いに頑固な爺さんだというのなら、尚更のことで、2人が旅行に出る決意をするまでの描写は大切だったはずだ。

ロブ・ライナーは無難に映画を撮ることは得意なのですが、この辺はしっかりやった方が良かったですね。

たらればを言っても仕方ありませんが、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン、
お互いの役をスイッチして演じてみたら、ひょっとしたら映画にマジックが起こったかもしれませんね。
そう思うくらい、僕はこの映画にとって、主演2人のキャスティングってスゴ〜く重要なものだったと思うのです。

キャスティングからの意外性をだすか、思い切ったコメディするか、そのどちらかが良かったかと思う。
映画は終始、どっちつかずな感じになってしまい、これが最後まで良い方向には機能しなかったですね。

しかし、日本では何故かロブ・ライナーの監督作品って本作を基軸にしたいのか、
本作以降、彼の監督作品には邦題が付けられていて、ほとんどが“最高の〜”という邦題になっている。
個人的には、そこまでするほどロブ・ライナーの代表作かな?と疑問に思えるのだけれども。。。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロブ・ライナー
製作 ロブ・ライナー
   クレイグ・ゼイダン
   ニール・メロン
   アラン・グライスマン
脚本 ジャスティン・ザッカム
撮影 ジョン・シュワルツマン
編集 ロバート・レイトン
音楽 マーク・シェイマン
出演 ジャック・ニコルソン
   モーガン・フリーマン
   ショーン・ヘイズ
   ビバリー・トッド
   ロブ・モロー
   アルフォンソ・フリーマン
   ロイナ・キング