ブレックファスト・クラブ(1985年アメリカ)

The Breakfast Club

09年、ジョン・ヒューズが死んだと聞いたとき、
確かに彼はハリウッドを代表する名匠とは言えなかったかもしれないけど...
「あぁ、可愛らしい映画が撮れる映像作家がいなくなってしまったか」と嘆いてしまいました。

80年代、いわゆる“ブラット・パック”と呼ばれた若手俳優勢揃いの青春映画が
83年の『アウトサイダー』を皮切りに大流行しましたが、本作は正にその代表作の一本とも言える作品で、
実質的に土曜日の学校の図書室のみで繰り広げられる密室劇という異色な設定でありながらも、
テンポの良い演出で乗り切る、快作に仕上がっており、これはもっと評価されていい一本だと思う。

エミリオ・エステベス、モリー・リングウォルド、ジャド・ネルソン、
アンソニー・マイケル・ホール、アリー・シ−ディと“ブラット・パック”を象徴する俳優が出演しておりますが、
ネックなのはこの頃、彼らは何本も共演していたせいか、どれがどれだか分からなくなることかな(苦笑)。
(特に同年に公開された『セント・エルモス・ファイヤー』とは混同され易いかも・・・)

さすがにこれだけの密室劇調だと、
出演者たちにもそうとうな芝居力を要求されたと思うのですが、
彼らの凄いところは、そんな高いハードルをいとも簡単に乗り越えられたことで、
意外にも“ブラット・パック”の世代って、しっかりとした基礎があって成り立っていた仕事だったんですねぇ。

特に注目したいのは、徹底したツッパリを演じたジャド・ネルソンで、
正直言って、撮影当時、彼は既に20代後半でしたから、さすがにティーンを演じるには
年をとり過ぎていたのですが、ひじょうに難しい家庭環境にある中で、葛藤し続ける心境を表現しながらも、
ナンダカンダ言って、散々、ちょっかい出していたクレアに素直になれない純真さが実に眩しい(笑)。

映画はそれぞれ問題を抱えて、休みの日であるはずの土曜日、
朝の7時から学校の図書室にこもって、「自分は何者か?」とのテーマで作文を書けと命じられ、
お互いに反目し、担当教師に反抗しながらも、お互いに「自分」をぶつけ合い、一つの答えを出す4人が主人公。

確かに「自分は何者か?」をテーマに1000語以上使っての作文を書けなんて、
10代のティーンたちには重過ぎる課題のようにも思うけど、チョットだけ面白いのは、
「自分は何者か?」をテーマに作文を書くなんて無意味と言いながらも、結果的にはお互いをぶつけ合い、
そしてお互いを認め合うにつれ、「自分は何者か?」という問いに対する答えを導き出してしまうこと。

担当教師もさすがにここまでの展開を予想して、
土曜日の無人の学校を舞台に選んだのであれば、それは凄腕教師なのですが、これは偶然の産物。

生徒のプライドもへったくれもなく、大人げなく生徒をやり込め、
復讐宣言までする教師の姿はお世辞にも模範的とは言えませんが、そんな教師のもとでも、
生徒たちが「自分は何者か?」という問いに答えを出せるのだから、この補習自体は成功だったのかも。

映画の冒頭にあるように、デビッド・ボウイが当時の若者にとって強い影響力を持っていたことが
何だか時代を感じさせる側面ではありますが、この冒頭のメッセージも映画の後半になって利いています。
ちなみに当時、デビッド・ボウイは『Let's Dance』(レッツ・ダンス)などのヒットでMTVでは人気絶頂でした。

マリファナを手に入れてハイになるなんてエピソードもありますが、
当時、日本の学校教育では校内暴力全盛期でしたから、荒れ具合は日本の方が酷かったかも。
ジョン・ヒューズは映画に深刻な問題を持ち込むつもりは毛頭なかったようで、常に視線は温かいですね。
実は本作、用務員のおじさんとしてジョン・ヒューズがカメオ出演しているのですが、彼の台詞が印象的です。

「近頃の子供たちは、ドンドン、悪くなっていく・・・」とか、
「オレたちが老人になったときに、彼らが国を背負って立ってるんだぜ」と愚痴る教師に対して、
彼は「あなたが学生の頃、教師たちのことをどう思っていた?」とか、「彼らをアテにするな」とか、
徹底して冷静に諭していくのが印象的で、確かに彼の言うことは的を得ていると思うんですよね。

僕は決して今の社会を楽観視していませんが、
正に本作でヤンチャしていたティーンたちが20年以上経った今、社会を動かしていることは事実であり、
そんな彼らが「最近の若い奴らは、オレたちの若い頃と比べて・・・」と愚痴るようになっています。

結果的に、いつの時代もこの繰り返しなんですね。
ジョン・ヒューズはまるでこのことを達観していたようで、この気持ちがあったからこそ、
眩しく生き続ける若者たちを、実に生き生きと、可愛らしく描き続けることができたのでしょうね。
結局、彼は“ブラット・パック”世代をプッシュして、後に『ホーム・アローン』シリーズの大ヒットもあり、
90年頃はハリウッドを代表するヒットメーカーの一人に数えられるまでに成長しました。

“ブラット・パック”世代の俳優たちは大成できませんでしたが、
上手く方向性を転換できなかったことが、大きな原因でしょうね。
そういう意味で、本作のような青春映画での成功が彼らにとって、大き過ぎたのでしょう。
それを考えれば、本作の価値って、とても高いものではないだろうかと思いますね。

まぁ・・・正直言って、素晴らしい出来というほどではないのですが、
この時代だからこそ、成し得た青春映画の佳作として、末永く愛され続ける作品というところに価値がありますね。

もう、こういう映画が流行る時代って、しばらくやってこないのだろうなぁ。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ヒューズ
製作 ジョン・ヒューズ
    ネッド・ターネン
脚本 ジョン・ヒューズ
撮影 トーマス・デル・ルース
音楽 キース・フォーシイ
出演 エミリオ・エステベス
    モリー・リングウォルド
    ジャド・ネルソン
    アンソニー・マイケル・ホール
    アリー・シーディ
    ポール・グリーソン