ブレイブ(1997年アメリカ)

The Brave

貧困に苦しむネイティヴ・アメリカンの男が、自らの家族を貧困から救うために、
自らの命をもって、大金を得ようとする苦悩を描いた、人気俳優ジョニー・デップの監督デビュー作。

日本でも徐々にその存在が認知されつつあるスナッフ・ムービー、
いわゆる実際に人が殺される姿を撮影したフィルムを商売とする闇業者に雇われた男を描いているのですが、
この男には前科があり、無職である。昼間っから酔っては暴力を振るい、押し入り強盗なども働いていた。
しかしそれでも彼の家族は男と暮らさなければならない。彼らはネイティヴ・アメリカン。
一般社会ではマイノリティとして差別を受ける対象になってしまうがゆえ、コミュニティを形成するわけだ。

まぁ日本でもアイヌの方々など、その他にも同和問題などを抱えていますので、
あながち無縁な話しとは言えないと思います。しかしこの映画はコミュニティを形成して暮らす人々の話しなのに、
主人公の苦悩をクローズアップするがゆえ、猛烈に暗いドンヨリとした空気が漂う映画になっています。

そして、強烈なほどに孤独な映画なのです。

決してジョニー・デップは観客への共感を求めているわけでも、同情を求めているわけでもないと思う。
ただ彼は、この主人公が抱くような強烈な愛や孤独といった感情に、強烈な魅力を感じているのだろう。
そんな主人公のストイックさを、ひたすら寡黙に撮った。ただそれだけなのです。
それをナルシズムと捉えるか否かは判断の分かれるところではありますが、僕は思うのです。
90年代以降、ハリウッドを代表するカリスマ俳優と呼ばれたジョニー・デップにも当然、目標があるわけで、
それはひょっとしたら皮肉にも彼が経営していたバーで倒れたリバー・フェニックスだったかもしれないし、
本作に出演したマーロン・ブランドだったかもしれない。いずれにしても、この主人公が彼の分身なのです。
映画というメディアの中で彼が表現したいことが、主人公の複雑な感情なのです。

そこで存在するのは、タイトルにもなっている「勇気」だろう。
この主人公が魅力的なのは、彼が極限まで追い込まれたときに、その「勇気」を使えるという点だ。
勿論、その「勇気」が間違った方向に使われている可能性があります。
しかし、ジョニー・デップが着目したのは、その「勇気」の強さなのです。

当然、この映画の主人公も様々な事柄を考えます。
スナッフ・ムービーに出演するということは、ややもすれば自殺行為に等しいからだ。
何をやっても上手くいかないことに業を煮やして、「勇気」を使ってしまうわけです。

そこで主人公は家族への深い愛情を再確認します。
自分が彼らを支えてあげなければ、何一つ上手くいかないんだということを実感し、彼は決断するのです。
スナッフ・ムービーに出演して大金を得て、家族を貧困から救ってやろうと。

映画の序盤、主人公はよく分からないまま闇業者を紹介され、
深く考えないまま、スナッフ・ムービーへの出演を承諾してしまいます。

しかし、彼は「もう逃げられないぞ」と睨みを利かせる闇業者の接近と、
貧困にあえぐ家族、そして脅しにやって来るかつての犯罪仲間などを見て、
主人公は次第にスナッフ・ムービーの出演ということが、選択肢として考えていくようになるのです。
何故なら、彼は結局、「過去から逃げることはできないのだ」と悟ってしまうからです。

ジョニー・デップは監督兼務ではありましたが、なかなかよく頑張っています。
本作なんかは、映画の出来として決して悪いものではないし、しっかりとしたビジョンのある映画です。
脚本にチョットした弱さがあるようには思いますが、それでも上手くカヴァーできています。

マーロン・ブランドが出演しておりますが、さすがにチョット元気が無いですね。
多少の役作りの感はありますが、かつてほどのカリスマ性は感じられませんでした。
ただそれでもショニー・デップは彼を尊敬をもって撮っていますね。ミステリアスな存在としてボカしています。

90年代に入って、本作のようなインディーズ感覚が根付いた映画ってのが多く出てきましたが、
僕は本作を最初に観た時、チョット心配でした。それは当時、ジョニー・デップはこの手の作品に好んで出演し、
ジム・ジャームッシュらと親交も深かったからです。ただそれが、彼の映画活動に制約となるのではないかと
僕は個人的に危惧しておりました。しかしながら、そうではなく、彼は活躍を続けております。
決して本作は出来の悪い作品などではなく、しっかりとしたビジョンのある映画です。

しかし映画人として、そしてスターとして、
こういった毛色の作品だけで満足して欲しくはないという、僕の勝手な想いがあることは否定できません。

僕は思ったのは、ジョニー・デップの反骨精神あるシニカルな姿勢だ。
この映画のラストは強烈に重いが、一方で実に皮肉なラストになっている。
それは大手業者による土地開発というファクターなのですが、主人公の願いが及ばないという、
「巨大勢力に飲み込まれてしまう」という彼らの無念さがラストに力強く描かれます。

やっぱり、共存って難しいんですかね。
何時の時代にもこうやって少数派が涙をのまなければいけないのでしょうか?

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョニー・デップ
製作 チャールズ・エヴァンスJr
    キャロル・ケンプ
原作 グレゴリー・マクドナルド
脚本 ポール・マッカドン
    ジョニー・デップ
    D・P・デップ
撮影 ヴィルコ・フィラチ
音楽 イギー・ポップ
出演 ジョニー・デップ
    マーロン・ブランド
    エルピディア・カリーロ
    ルイス・ガスマン
    マーシャル・ベル
    フレデリック・フォレスト
    クラレンス・ウィリアムズ三世
    マックス・パーリック