ボーン・アルティメイタム(2007年アメリカ)

The Bourne Ultimatum

02年の『ボーン・アイデンティティー』に始まったジェイソン・ボーンの物語を描いた、
大ヒットしたスパイ・アクション・シリーズの完結編で、マット・デイモン主演は本作で最後らしい。

前2作からの流れをしっかりと踏襲した作りではありますが、
いい加減、この目まぐるしく展開するカット割りの連続によって構成されるアクション・シーンには、
やや食傷気味といった感じで、個人的にはもう少し落ち着いて映画を見せて欲しいと思いますけどね。

そりゃ、“タイム・イズ・マネー”みたいな感覚で、キビキビした映画が好きな人にはオススメしますが、
お世辞にも一つ一つの動きがハッキリとした、誤魔化しの無い映画とは言い難く、観ていて疲れます。

監督は前作に続いて、ポール・グリーングラスでさすがに演出スタイルには一貫性があり、
第1作のダグ・リーマンが築いた道筋にしっかり乗ったのは、正しい選択だったと思いますね。

まぁジェイソン・ボーンがありえないほどにスーパーマンですから(笑)、
非人間的な動きなどを淡々とこなしていく姿に飽き飽きしてしまう人もいるかもしれません。
別に「このシリーズはこういうもんだ」と僕も諦めてはいたのですが(笑)、さすがに本作終盤にある、
ニューヨークの市街地で派手に展開するカー・チェイスの果てに待ち受ける、激しいクラッシュ・シーンは
凄まじいほどの迫力で、ジェイソンが運転していたパトカーが酷いことになったにも関わらず、
事故現場の渦中にあるボロボロのパトカーから、何事も無かったかのようにジェイソンが窓ガラスを割って、
車から脱出してくるシーンを観た時には、笑いながら「そりゃ、ウソだろ・・・」と突っ込んでしまいましたが・・・。

こうして、強過ぎるジェイソンも気にはなるのですが、
どうでもいいけど、さすがにここまで強過ぎる男ってのは、確かに危険人物な気がしますね(笑)。
“トレッドストーン作戦”のもみ消しのためにジェイソンは執拗に命を狙われるのですが、
一方でここまで誰を対戦させても、全員、コテンパンにやられて、彼を拘束できないなんて、
ジェイソンが幾つもIDを所持して、世界を動き回っていることを考えると、確かに危険人物かもしれませんね(笑)。

ある程度、こういう非人間的というか、超人的なジェイソンの側面を寛容的に観てあげれば、
十分に楽しめる出来と言ってもいいエンターテイメントで、映画としては及第点レヴェルでしょう。

まぁ往々にして、この手のシリーズは何本も製作されていくと、
シリーズの価値を下げていってしまう傾向があるのですが、本作はジェイソンの超人的なアクションを軸に、
全てのアクション・シーンをスピード感溢れるカット割りで見せるという、一貫したスタイルを貫き通し、
シリーズの価値を下げるような結果にはなりませんでしたね。これはプロダクションが良い仕事をしましたね。

本作は最後の最後に、ジェイソンが洗脳を受ける発端が明らかになるのですが、
実はその始まりの場所が、あれだけ世界を旅しながらもニューヨークだったというオチは面白い。

本作もマドリードやモロッコなど、まるで「ジェイソンの世界の都市紀行」とでも言うべき、
旅番組かと思わせられるような目まぐるしく旅する映画で、特に映画の中盤にあるモロッコの市街地で
追いかけっこになって、石造りの家屋の屋上を逃げ回って、通りを挟んだ向かいの部屋の窓にダイブしたり、
今回も相変わらずやりたい放題なアクション・シーンの数々で、単調になるシーンが皆無というのが凄い。

個人的にはやはり本作、女性キャラクターの存在が欲しかったなぁ〜。
勿論、ジュリア・スタイルズ演じるニッキーが登場してはくるのですが、少し勿体ない使い方で、
彼女の本シリーズ中での役割がハッキリとしないまま、映画が終わってしまったようで残念でしたね。

第1作でヒロインを務めた割りに、第2作でアッサリ退場させられてしまった、
フランカ・ポテンテ演じるマリーの存在など、本シリーズはとにかく女性キャラクターの使い方に
課題を残したようで、やはりこの手の映画には紅一点となるべき存在が必要だったと思いますけどね。
別に無理してロマンスを描く必要はありませんが、全員の立ち位置が中途半端だった気がしてなりません。

そういう意味では、悪役キャラクターももっと憎たらしく描いても良かったですね。
第1作のクリス・クーパーの時点でそうだったのですが、あまり強くないので、倒し甲斐がないですね(笑)。

今回もせっかくデビッド・ストラザーンという渋い役者を起用したのですが、
あまり彼の持ち味や魅力が活かされることなく、ジェイソンとの直接的な関わりが希薄なせいか、
彼の存在がジェイソンにとって邪魔な存在になる前に、映画が終わってしまったような感じで勿体ないですね。
(もっと彼がズル賢いキャラクターであることなどを強調した方が良かったと思うのですが...)

確かにジェイソンに次から次へと危機が迫って、それらを力づくで回避していくのですが、
どうも決定的な悪役キャラクターが欠如していると、全ての危機が単発的で手強さが感じられないですね。
そういう意味では、例えば『ダイ・ハード』シリーズなんかが如何に偉大だったかを実感しますね(笑)。

ちなみに本作までが01年に他界したロバート・ラドラムが書いた原作らしく、
本作以降はエリック・ヴァン・ラストベーダーが続編を書いているらしく、スタッフ・キャストを一新して、
既に製作されることが決定している、シリーズ第4弾からはそれに該当するらしいですね。
このプロダクションの決断が、どのような方向に傾いていくのか、第4作に注目したいところです。

映画の序盤にあった、ジェイソンが彼の素性をかぎ付けた記者と接触するためにと、
ロンドンの駅の中で、彼に黙々と指示を出しながら、追跡を回避させるシーンは良かったですね。

僕は前作を観て、「ジェイソンがスパイだというなら、もっとスパイらしい動きを見たい」と
思っていましたので、ようやっと僕の希望を叶えてくれるようなスマートな動きでした(笑)。
だだ、凄く接近した位置で指示を出していたにも関わらず、何もかも見え過ぎているのが気になりましたが・・・。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ポール・グリーングラス
製作 フランク・マーシャル
    パトリック・クローリー
    ポール・L・サンドバーグ
原作 ロバート・ラドラム
原案 トニー・ギルロイ
脚本 トニー・ギルロイ
    スコット・Z・バーンズ
    ジョージ・ノルフィ
撮影 オリバー・ウッド
編集 クリストファー・ラウズ
音楽 ジョン・パウエル
出演 マット・デイモン
    ジュリア・スタイルズ
    デビッド・ストラザーン
    スコット・グレン
    ジョアン・アレン
    パディ・コンシダイン
    エドガー・ラミレス
    ジョーイ・アンサー
    アルバート・フィニー
    コリン・スティントン

2007年度アカデミー音響編集賞 受賞
2007年度アカデミー音響調整賞 受賞
2007年度アカデミー編集賞(クリストファー・ラウズ) 受賞
2007年度イギリス・アカデミー賞編集賞(クリストファー・ラウズ) 受賞
2007年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2007年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞(クリストファー・ラウズ) 受賞