ボーン・スプレマシー(2004年アメリカ)

The Bourne Supremacy

世界的大ヒットとなった『ボーン・アイデンティティー』の続編。

前作が人気作なだけに、本作の製作は難しかったと思う。
監督も前作のダグ・リーマンから、ポール・グリーングラスに交代して、よりハードルを上げた感があります。
得てして、こういうタイミングでの監督交代はシリーズの明暗を分けているケースが多いからです。

今回は脚本にブライアン・ヘルゲランドが加わったせいでしょうか、
前作の動的な部分が更にストイックになった感じで、映画の雰囲気がよりシックになった気がします。
と言うか、本作はもうアクションを期待するべき内容ではなくなっているように見え、より落ち着いた雰囲気だ。

とは言え、映画の序盤の展開は個人的にはかなりビックリした。
前作で主人公ボーンと恋仲になったフランカ・ポテンテ演じるマリーが、いきなりトンデモない扱いを受けます。
僕はてっきり、彼女が引き続きシリーズのヒロインとして活躍するのかと思っていただけに、
この一方的なまでにマリーの運命を決めてしまう不条理さに、本作が通俗的なものとは訣別する意を汲み取りました。

未読ではありますが、おそらくロバート・ラドラムの原作に忠実に映画化しているのでしょう。
このストイックさは、まるでスパイ小説を読んでいる感じで、第1作よりもその色合いが濃くなったように思います。

ポール・グリーングラスの演出はまずまずですが、カット割りがやたらと連続するのは、
僕はあまり好きじゃないというか、映画全体でメリハリをつけるアクション・シーンになっていないのが気になった。
しかし、これはこれで“終わり良ければ、総て良し”と言わんばかりに、映画を最終的には上手くまとめました。
前述したように難しい企画だっただけに、この映画の出来は十分に評価されるべき仕事ぶりでしょう。

数多くはないアクション・シーンとしては、ボーンと同様の工作員と家の中で格闘するシーンは良かった。
でも、あれ以外は及第点レヴェルかな。映画の終盤はもう少しアクションを使った見せ場が欲しかったですね。

それは、第1作に続いて本作も、明確な悪役を立てずに映画を進めていく苦しさがあるからです。
クリス・クーパー演じるコンクリンはほぼ出演していないに等しいし、ブライアン・コックス演じるアボットも
悪役というには少々物足りない。そういう意味では、ボーンとアボットが対峙するシーンが今一つだった。

一方で、CIAの女性職員としてジョアン・アレン演じるパメラがキー・マンとなる。
彼女もまた、ボーンを追いつつも、どこか秘密を隠していそうなキャラクターで上手い描き方ですが、
ここも前作の悪い流れを踏襲してしまったのか、彼女もまたオフィスから動かないのですよね。
ボーンを一緒になって追跡する必要はないけど、もう少しアクティヴに描いて欲しかったですね。
やはり明確な悪役がいないわけですから、ボーンだけが体を張っても、さすがに限界あると思います。

映画の中盤に路面電車の中で、CIAがボーンと接触するシーンがあったり、
いくらでも脚色できるシーンはあったと思えるだけに、パメラももっと動かした方が良かったと思いますね。

強いて言えば、カー・チェイスという観点では前作以上のものを見せてくれます。
冒頭のインドのリゾート地でのカー・チェイスからして、なかなか気合の入ったキレ味の良い演出だ。
この辺はポール・グリーングラスが監督交代した挨拶代わりに、一つアクセントをつけようとしたのかもしれない。

前作では謎解きに力点を置いていたと感じましたが、正直、僕にはボーンがどのように
目の前の危機に対して対処するのかを楽しんだ方が良いと感じていたので、本作にも謎解きはあるにはありますが、
どちらかと言えば、この第2作はボーンの復讐心に始まり、それが過去の謎解きをしながら果たしていくという流れで、
徐々に過去と向き合うボーンをシリアスに描いているのは良かったですね。これは作り手の見せ方も上手い。

相変わらず、目の前の危機に対しては、反射的に無敵の強さを持って対処するのがスタイリッシュですが、
単に自分が襲われることを回避するという目的と、やっと手に入れた日常を壊されたことに対する怒りという感情が
ボーンに入り乱れたまま行動を開始するわけで、このボーンの複雑さは前作のキャラクターよりも深みがある。

この手の映画として、ヒロイン的存在がいないのは少々寂しい。
マリーを演じたフランカ・ポテンテが映画の序盤だけの登場なので、実質的にヒロインが不在なんですよね。

タイトルは「贖罪」を意味するようですが、これはボーンの過去にまつわる贖罪だ。
訓練を受けた、冷酷な仕事人としては致命的とも解釈できるほど、ボーンは子供に弱かったということですが、
謎解きの過程でボーンが、「贖罪」の感情を抱くようになり、過去の自分の“仕事”に肉薄していきます。

相手が攻めてくると、反射的に自分を防御しながら相手を効果的に攻撃し、
CIAの“トレッドストーン計画”の中で習得した護身術や銃剣を駆使していく姿は、よりマット・デイモンに馴染んでいる。
『ボーン・アイデンティティー』以前はアクション・スターというイメージはなかったのですが、本作では馴染んでいます。
おそらく撮影にあたって、そうとうに鍛えたのでしょうけど、こういう姿勢が本シリーズを彼の代名詞にさせましたね。

かつて、映画の中で描かれた多くのスパイたちが、敵・味方関係なく相手をかく乱させるために、
変装などのトリックを使って、欺くようなことをする印象が強いのですが、本作で描かれるボーンに限っては、
設定が記憶喪失ということが基本設定になっているだけに、一切変装などせずにボーンは堂々と行動します。

こういうのを観ると、『スパイ大作戦』シリーズとは全く異なるスパイ像ですね。
まぁ・・・『スパイ大作戦』のイーサン・ハントは記憶喪失ではないので、当然と言えば当然かもしれませんが、
本作のボーンは実に堂々としていて、逆に(当時は)スターのオーラが弱かったマット・デイモンだからこそ、
市街地を闊歩していても、まるで一般市民と同化しているような感じで、なかなか見つけられないのかも(笑)。

僕は変装や仮面を使いまくって、相手を欺くこと自体、スパイの手段としてはあまり好きじゃないので、
イーサン・ハントよりもボーンの方が、好感が持てますね。スパイこそ、一般市民と同化しなきゃ・・・と思っているので。
(とは言え、ナンダカンダ言って、僕は『ミッション:インポッシブル』シリーズも好きなんですけどねぇ...)

この辺は徹底して、「現実」を追求するスタンスを崩さなかった、
ポール・グリーングラスのビジョンが、真のスパイ像を追求することでもあったことの表れかもしれません。

こういう映画のシリーズ化は難しくって、続編となると第1作の出来とまともに比較してしまい、
映画が正当に評価されずに忘れ去られてしまうことが多いような気がしますけど、本作は上手いことやりましたね。
ポール・グリーングラスにとっても大きなプレッシャーだったと思うのですが、とても難しい仕事だったと思うんですよね。
そういう意味では、プロダクションもとても良い人選をしましたね。これは、企画の段階から大きな“賭け”だったでしょう。

しかし、CIAのような組織が“トレッドストーン計画”のように、
秘密裏に殺し屋を養成するような機能を作っているというのは、現実にありそうな話しのような気もします。
実際に世界各国で諜報活動を行っている職員がいることは明らかになっているので、
「やろうと思えば、出来る」組織ではあるのですよね。ボーンはあくまで架空の人物ですが、
実は同じような訓練を受けた職員がいるのかもしれません。計画が失敗と判断されたときには、
そういった訓練を受けた職員自体の存在を組織的に消し去ろうとするというのが、またホラーですけどね。。。

そんなこんなで、この映画は優秀な続編作品です。
21世紀に入って、ハリウッドの地力を疑う論調も出ていた時期はありますが、
やはり本作のような作品をサクッと製作できてしまうというのは、地力のある証拠だと思います。

ただ、クドいようですが...アクションはもう少し落ち着いて見せて欲しい。
全てが目まぐるしくカット割りで表現されるので、少々疲れる。もっと表現に緩急をつけて欲しいなぁとは思う。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ポール・グリーングラス
製作 パトリック・クローリー
   フランク・マーシャル
   ポール・L・サンドバーグ
原作 ロバート・ラドラム
脚本 トニー・ギルロイ
   ブライアン・ヘルゲランド
撮影 オリバー・ウッド
編集 リチャード・ピアソン
   クリストファー・ラウズ
音楽 ジョン・パウエル
出演 マット・デイモン
   フランカ・ポテンテ
   ジョアン・アレン
   ブライアン・コックス
   ジュリア・スタイルズ
   カール・アーバン
   ガブリエル・マン
   マートン・ソーカス
   ミシェル・モナハン
   クリス・クーパー