ボーダー(1981年アメリカ)

The Border

警察の実績を上げるためにと、特に犯罪を犯していない密入国者を逮捕し、
ありもしない犯罪をでっち上げる毎日に嫌気が差し、刑事を辞した主人公がメキシコ国境の町、
エルパソで国境警備員の仕事に就き、そこでも密入国者に絡む悪事を働く警備員たちに反発し、
単独で悪事から密入国者を守ろうと抵抗する姿を描いたシリアスなサスペンス・ドラマ。

ジャック・ニコルソンが珍しく、好漢を演じているのですが、
残念ながら映画の出来がイマイチで、これは映画の作り手の大きな責任だと思いますね。

監督はイギリス映画界に於けるニューシネマ・ムーブメントである“フリーシネマ”の旗手である、
トニー・リチャードソンで彼が本格的にハリウッドに進出し、ハリウッドでの活動が定着した頃の作品ですが、
もうこの頃になると、彼の手腕も冴えない感じで、何もかもが的を得ていない感じで、観ていてツラいですね。

さすがに彼が評価されていた頃の監督作であれば、
どんなに演出上で“遊ぼう”が、ユニークなアプローチとして受け入れられたけど、
さすがに“フリーシネマ”から20年も経ち、世界的にもニューシネマ・ムーブメントが下火になっただけに、
いつまでもこういった演出上の遊びが受け入れられる時代ではなく、逆に時代遅れな作品という感じがします。

特に映画の流れを大きく阻害するのは、
バレリー・ペリン演じる主人公の妻の存在で、少しは彼の家庭環境を描いてもいいとは思うけど、
徹底した浪費家である彼女に関するエピソードは、あまりにクドくなり過ぎてしまい、
こういう“横道”は、ある意味でトニー・リチャードソンらしいですが、完全に失敗でしたね。

ウォーターベッドで化粧した妻から誘惑されたり、
ジャック・ニコルソンが工事中のプールに転落したりと、あまり映画全体に対して大きな意味を持たない、
ハッキリ言って、どうでもいいようなシーンに時間を割き過ぎましたね。これは大きな反省材料です。

映画の中盤にある、バーベキューのシーンなんかは、
おそらく国境警備隊の職場交流は盛んで、そんな和に主人公は入り込めず、
半分、彼は嫌気が差していることを描きたかったのでしょうが、これは無駄の極みでしたね(笑)。
もうこういう、多少なりとも意味のあるシーンだろうが、無駄にしてしまうのが致命的ですらある。

この映画、キャスティングは抜群に良いんだよなぁ。
勿論、ジャック・ニコルソンは好漢だって実に巧妙に演じることができているし、
仲間の国境警備員を演じたハーベイ・カイテルも、堅実な芝居で悪くない仕事だ。
オマケに出番は少ないが、国境警備隊の隊長を演じたウォーレン・オーツだって、
そりゃ74年の『ガルシアの首』ほどではないにしろ、実にいい面構えで(笑)、とっても良い存在感だ。
(個人的には、もっとウォーレン・オーツに関しては、もっと活躍して欲しかったけど・・・)

それでも、今回のトニー・リチャードソンはどこか突き放したような演出で、
どうも映画の核心に迫りづらい空気を作り出してしまっていて、彼の持ち味が逆効果だったのかもしれません。

そして執拗に劇中に流される音楽の数々も、ここまでやってしまっては逆効果。
別に映画の内容が音楽を楽しむ趣向は無いはずなので、せっかくのライ・クーダーの音楽も
これでは逆に映画の雰囲気をブチ壊してしまっているような気がしてならず、むしろ逆効果でしたね。

まぁむやみに、メキシコ系のシングルマザーとの関係に危うさを持たせず、
主人公が変な下心ではなく、良心に基づいた行動として描いたことに映画の強さが象徴されてはいますが、
こういう生真面目さがあるのであれば、浪費家の妻との関係をもっと上手く描いて欲しかったですね。
もし彼が浪費家の妻との夫婦生活に限界を感じていたとすれば、シングルマザーに恋心を抱いていたように
描いても良かったとは思うし、そうでないのであれば、映画は主人公が家に帰るシーンで終わるべきだった。

まぁこれは、映画の後半で立ち寄ったカフェで
あからさまに誘惑してきた見知らぬ女性の言葉も、まるで聞き入れないシーンがあったわけですから、
少なくとも主人公に大きなリスクをおかしてまで、今の生活を投げ出す気は無かったはずなんですよね。
ですから、主人公の行動に説得力を持たすためにも、敢えて帰宅するシーンは描くべきだったと思いますね。

どうも、トニー・リチャードソンは主人公をどのように描くべきか、
映画を撮りながら模索していたような印象で、それが最後の最後まで答えが出なかった感じだ。
映画のクライマックスには、乾いたようなアクション・シーンがあって、これはそんなに悪くないのですが、
何か行き当たりばったりで描いたエンディングという感じで、あまり「設計」を感じさせませんね。

そもそもの映画のコンセプトがよく分からず、これはそうとうに苦しい出来です。

個人的には80年代前半は、世界的に映画界が大きく変わりつつあった時代で、
例えば70年代のように、力強いメッセージ性のある映画を製作しづらかったという印象があって、
おそらくトニー・リチャードソンにとっても活動しづらい時代だったことでしょうが、
こういうニューシネマの旗手がすっかり時代遅れな存在となり、迷走している姿を観るのはツラいですね。

まぁ84年に『ホテル・ニューハンプシャー』で少しだけ評価されて、
90年頃に『ブルー・スカイ』を撮りながらも、劇場公開が頓挫したまま、91年にエイズで死去してしまった、
トニー・リチャードソンですが、60年代に発表作を連発していた頃の勢いを越えられずに、
ハリウッドに渡ってからはスランプに陥り、そうとうに苦しんだことだろうと思います。
63年の『トム・ジョーンズの華麗な冒険』というユニークな作品でいきなりオスカーを獲得してしまい、
イギリス映画界のホープだったのですが、これ以上の評価を得られず伸び悩んだのでしょうね。

僕は何と言っても、62年の『長距離ランナーの孤独』が強烈な作品だったので、
本作のような明らかに迷走してしまっている映画を観ると、なんか余計に悲しいんですよね。。。

いっそのこと、本作なんかも勢いのあった頃のヒネくれた作家性を思い出して(笑)、
徹底して主人公の置かれた状況をシニカルに描く映画にしてしまっても、良かったのかもしれませんけどね。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 トニー・リチャードソン
製作 エドガー・ブロンフマンJr
脚本 デリック・ウォッシュバーン
    ウォロン・グリーン
    デビッド・フリーマン
撮影 リック・ウェイト
    ヴィルモス・ジグモンド
音楽 ライ・クーダー
出演 ジャック・ニコルソン
    バーベイ・カイテル
    ウォーレン・オーツ
    バレリー・ペリン
    エルピディア・カリーロ