ブルース・ブラザーズ(1980年アメリカ)

The Blues Brothers

これはさ...ズルい映画だよなぁ・・・(笑)。

まず、洋楽が好きな人で特にR&Bが好きな人にはたまらない内容の映画ですよね。
レイ・チャールズ、ジェームズ・ブラウンもアレサ・フランクリンも歌い出しちゃうなんて、そもそも貴重なわけですが、
今は亡きドナルド・“ダック”・ダンやキャブ・キャロウェイ、ジョン・リー・フッカーなんかも出演しています。

78年の『アニマル・ハウス』を低予算ながら大成功させたジョン・ランディスが、
再びジョン・ベルーシと組んで、人気TV番組『サタデー・ナイト・ライブ』の人気コーナーをモチーフに、
お互いに犯罪歴のある兄弟が、神の啓示を受けたということでバンドを再結成して、ホールでライブする姿を描きます。

かの有名な本作のメインテーマは、今でもテレビ番組などで使われるくらい
コミカルなビッグバンド調の名曲だし、 Peter Gunn Theme(ピーター・ガンのテーマ)はメチャカッコ良い!

基本は、スラップスティックなギャグを繰り出すコメディ映画ではあるのですが、
幾度となく始まるバンドのギグも、主人公兄弟のサングラスとスーツ姿というソリッドな雰囲気とシンクロするように
当時としても懐メロに近かったR&Bやロックンロールを、実にカッコ良く歌い上げていて、色々と超越した凄みを感じる。

そして、前述したレイ・チャールズ、ジェームズ・ブラウン、アレサ・フランクリンが歌い出すシーンに至って、
完全にミュージカル映画と言っていいほどで、突如として真面目に歌って踊るというギャップを生むのが面白い。

監督のジョン・ランディスも盟友ダン・エイクロイドと一緒に書いたシナリオで、
ジョン・ベルーシという鬼才俳優をキャスティングできたものだから、相当にカオスな感じで演出している。
よく批判される対象になりがちではあるのですが、本作では多くの予算をゲットすることができたのか、
徹底して破壊を描いていて、まるで『ブリット』や『フレンチ・コネクション』から影響を受けたかのような
カーチェイスの連続が大興奮の迫力で、乾いたユーモアと対照的に本作のカーチェイス・シーンはもの凄く熱い。

映画の前半にあるショッピング・モールに突撃しに行くチェイス・シーンで、パトカーもヤケになったように、
モールの中にパトカーごと追跡しに行くなんて、破天荒なシーンがありますが、あのシーンの突き抜け方も最高!

映画が進めば進むほど、破綻していくような感じで、現実的にはあり得ない展開がいっぱいあるのですが、
『サタデー・ナイト・ライブ』のノリをそのまま映画化したような感じではありますが、この勢いがとにかくスゴい。
ジョン・ランディスもやりたい放題やったという感じで、試写会のときは映画会社の連中に酷評されたらしい。
本編も2時間30分近くと長かったために、大幅にカットされたらしいのですが、いざ劇場公開されると大ヒット。

残念ながら82年にジョン・ベルーシがドラッグの過剰摂取で急逝してしまったために、
本作の存在がより神格化されたということもあるのですが、それを除いても本作のブッ飛び方は素晴らしいと思う。
いろんな意見はあると思いますが、僕の中では本作がジョン・ランディスの最高傑作ではないかと思っています。

ジェームズ・ブラウンが教会で「光を見たか!?」と説教するあたりは、
ケン・ラッセルがザ・フー≠フロック・オペラを映画化した『Tommy/トミー』からの影響を感じさせるし、
凄くオリジナリティが溢れる映画かと言われると、そうでもないのですが、それでも全てを飲み込んで描いている。

それが言葉は悪いけど、ジョン・ベルーシのような肥満体の若くはない男性が
バンドのヴォーカルの一人として聴衆を沸かせるという、それまでのセオリーを壊す概念を掲げることにつながるのです。

また、当時、ダン・エイクロイドもジョン・ベルーシもイギリスに行って、
モンティ・パイソン≠フ映画に出演したりしてましたので、『空飛ぶ! モンティ・パイソン』のスケッチ(コント)からも
明らかに強い影響を受けていますね。本作なんかは一つ一つのオチの見せ方は、モンティ・パイソン≠チぽい。

僕はこの映画を観て感じましたが、幼い頃に観ていた『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』って、
どこか本作をモデルにしていたような気もします。そもそも“ブルース・ブラザーズ”自体が、日本で言えば、
加トけんコンビのような気がしますけど、『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』も無駄に派手なカーチェイスがあったり、
今では考えられないくらい予算を投じていたテレビ番組でしたから、一言で言えば...時代の勢いが違いますね。

カーチェイス・シーンにしても、次々とパトカーがクラッシュして、積み重なっていくシーンなんかは
後の日本のテレビ番組とかでマネされていたように思うし、車が橋をジャンプしたりするシーンもよくマネされている。
それくらい本作のカーチェイスの撮り方って、当時のメディアやエンタメ界に与えた影響力は甚大なものだったと思う。

謎のヒトラー崇拝者の集団に、主人公兄弟の車が突っ込んでいくシーンや
復讐心に燃える崇拝者のリーダーが主人公兄弟の車を追いかけて、追い過ぎたことから建設途中の高速道路から
妙に空高く飛び上がって、自由落下するシーンはまるでコントのようだ。この建設途中の高速道路を使った、
派手なチェイス・シーンというのはどこかで観た記憶があると思いきや、92年の『リーサル・ウェポン3』でしたね!

キャリー・フィッシャー演じる謎の女性殺し屋も、妙なエナジーに満ち溢れた感じでホラーですね(苦笑)。
結局、色恋沙汰が動機となっていることが映画の途中で明らかとなりますけど、なんか彼女だけ戦争映画のよう(笑)。

とまぁ・・・ジョン・ランディスらが好き放題やったコメディ映画というわけだったにしろ、
方々のシーン演出が、後年のいろんなメディアへ与えた影響というのは無視できないし、本作は特にスゴいと思う。
当時としてもこれだけのミュージシャンを集めることができた人脈も凄いと思うし、今では考えられないくらい豪華だ。

それゆえ、本作は映画好きよりもコントのギャグが好きだという人や、洋楽好きの方が楽しめるかもしれません。

僕はジョン・ベルーシの熱心なファンというわけではないのですが、
本作を観ると、如何に神懸った狂い方をしていたかということが分かる。しかも常に全力疾走しているイメージ。
ステージでも、肥満体であることを思わせない運動神経でバク転するし、バンドのヴォーカルにしても全力歌唱。
まぁ、映画の特徴としてはコメディ・パートでジョン・ベルーシの持ち味が出るということなのだろうけど、
僕は映画全体で彼がパフォーマンスする、常に全力疾走、全力投球なエネルギーのぶつけ方が忘れられない。

おそらく当時としても、こういうスタンスのコメディアンはそう多くはいなかっただろう。
そうなだけに彼の死は、『サタデー・ナイト・ライブ』時代からの盟友であったダン・エイクロイドやチェビー・チェイス、
ビル・マーレーらに与えた影響は大きかっただろうし、ハリウッドに留まらず全米へ与えた衝撃は大きかったようだ。

特に本作で相棒の弟エルウッドを演じたダン・エイクロイドにとっては相当な喪失だったことでしょう。
撮ろうと思えば、本作をシリーズ化して映画を撮ることも可能だったはず。2人で来日して歌ったりしてたみたいですし。

ダン・エイクロイドは84年の『ゴーストバスターズ』の脚本を書いて成功を収めましたけど、
どうやら『ゴーストバスターズ』でもジョン・ベルーシが演じるキャラクターをイメージしていたようですし、
彼の中では何者にも代え難い相棒だったのでしょうね。後に同じ『サタデー・ナイト・ライブ』出身でブレイクした
エディ・マーフィとも共演しましたが、何本も共演することなく単発で終わりました。やっぱりジョン・ベルーシなのでしょう。

洋楽、特にR&Bが好きな人にはオススメしたいけど、あくまでルーツ・ミュージックに近いところが
好きな人なら楽しめるというわけで、最近の音楽の潮流とは異なる音楽がメインなので、そこは注意が必要。
ただ、音楽が見事に調和し、真面目にふざける映画というのも珍しいので、この壊れっぷりが新鮮に見えるかも。

できることなら、ジョン・ランディスには本作の勢いそのままに突っ切って欲しかったけど、
本作の後に担当したTVシリーズ『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』の撮影中の事故で、キャストを命を失い、
裁判になったことで、キャリア的に徐々に落ちていってしまったのが、なんとも残念な展開になってしまいました。

やっぱり今も昔も、撮影現場の安全管理というのは大事なものですね。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジョン・ランディス
製作 ロバート・K・ワイス
脚本 ダン・エイクロイド
   ジョン・ランディス
撮影 スティーブン・M・カーツ
美術 ヘンリー・ラレック
編集 ジョージ・フォルシーJr
音楽 アイラ・ニューボーン
出演 ジョン・ベルーシ
   ダン・エイクロイド
   キャリー・フィッシャー
   キャブ・キャロウェイ
   ジョン・キャンディ
   ヘンリー・ギブソン
   チャールズ・ネイピア
   ジェフ・モリス
   レイ・チャールズ
   アレサ・フランクリン
   ツイッギー
   フランク・オズ
   チャカ・カーン
   スティーブ・ローレンス