ブラック・ダリア(2006年アメリカ)

The Black Dahlia

珍しく、デ・パルマが真面目に映画を撮ったなぁ〜(笑)。

『L.A.コンフィデンシャル』の原作者として有名なジェームズ・エルロイが、
1940年代、ロサンゼルスはハリウッドで実際に発生した“エリザベス・ショート殺人事件”をモチーフに、
ポルノ映画界、ギャング、そして警察組織を巻き込んだ大スキャンダルを描いたミステリー・サスペンス。

正直言って、デ・パルマがフィルム・ノワールを撮るというのは理解できるのですが、
ジェームズ・エルロイの世界観を映像表現できるのかと考えると、イマイチ、ピンと来なかったのですが、
いざ本編を観てみて...デ・パルマにとっては、良いチャレンジだったのだろうとは思うけど、
やっぱり映画の最後の最後まで、妙なミスマッチ感は拭えない作品になってしまいましたねぇ・・・。

オマケに主演のジョシュ・ハートネットとアーロン・エッカートも、ジェームズ・エルロイの世界観に合わない(笑)。
強いて言えば、自慢のブロンドヘアーが目立つ、スカーレット・ヨハンソンは合ってたようには思いますがねぇ・・・。

ナンダカンダ言って、いつもデ・パルマの監督作品って、
どことなく、「あっ、こういうのって、デ・パルマらしい〜」とか、「このメチャクチャ感がスゲェーなぁ〜」とか、
常に挑戦意識が高いというか、自分の撮りたいものを撮りたいように撮ることを押し通す姿を楽しみに、
彼の監督作品を観ているに、僕の場合は近いのですが、本作からはそこまでの意思が感じられなかったですね。

個人的には、これが凄く残念で、特徴のない映画のように感じられたのが大きなマイナス要素となってしまいました。

デ・パルマの力量からすると、もっと質の高い映画にできたと思うんですよねぇ。
確かにスカーレット・ヨハンソンのどこかゴージャスな雰囲気が象徴するように、栄華を極めつつあった、
40年代のハリウッドを再現した雰囲気作りは上手くできてはいるのですが、それ以上のものが無かったのが残念。

元々、87年にジェームズ・エルロイが発表した同名小説の映画化なのですが、
本作がどこまで原作に忠実に映像化したのか分かりませんが、もう少し謎解きの面白さを活かして欲しかった。

かと言って、デ・パルマのこれ見よがし的なテクニックに走った部分が多い映画でもないので、
どことなく中途半端な映画に終わってしまった感が強く、不完全燃焼な印象が強いんですよねぇ。。。

たいした謎解きではなくとも、見せ方の上手さで映画に付加価値を付けることができるはずなのですが、
本作はジェームズ・エルロイが描く1940年代の空気感を再現することを優先させたということもあってか、
話しをただただ一方的に進めることに終始してしまったことで、えらく不親切な映画に映ってしまっていますね。
そのせいか、映画の後半までは細かな部分を整理できないまま、強引にストーリーが進んでいきます。

映画の起伏にも欠けるせいか、中盤で盛り上がるシーンがほとんど無いのもいただけない。
特にジョシュ・ハートネット演じる主人公が相棒の妻からの誘惑に揺れ動くシーンなど、もっと盛り上げないといけません。

いや、もっと言えば、それ以前にスカーレット・ヨハンソン演じるケイが
突然、主人公に「私たち2人のことよ」と迫り始めるシーンにしても、あまりに唐突過ぎて違和感がある。
勿論、相応の伏線が無かったわけではないと思うのですが、どうも男女関係の匂いを感じることができない。
だからケイがただの悪女なのか、本気なのか、よく分からないところが一つの狙いではあったのだろうけど、
映画を最後まで見終わって率直に思うことは、ケイの行動や言動の辻褄が全く合わないところが釈然としないことだ。

もう一つ言うと、ヒラリー・スワンク演じる富豪の娘にしても、
どちらかと言えば、主人公を誘惑する立場で登場するのですが、彼女もよく頑張ってはいるけど、
セクシーさという意味では、この映画の中では強さが無い。これでは彼女が輝かないんですよね。

彼女のイメージチェンジという目的もあったのかもしれないけど、
どうも観ていると、まだ悪女的な魅力を体現できていないというか、どこか背伸びした感が残りますね。

でも、本作にとって、ケイの役割って凄く大事だったと思うんですよねぇ。
おそらく、それはデ・パルマも分かっていて意識的に露出度の高い衣裳を着させていたのではないかと思うのですが、
それでも演出面にしても、彼女自身の演じ方にしても、どうも悪女になり切れていないという印象が残ります。
それは、本作にとって致命的なミスマッチだったと言っても過言ではないと思うんですよねぇ・・・。

引き裂かれた若い女性の遺体が発見されるという衝撃的な殺人事件の捜査の過程で、
幾つか絡み合う他の事件が、絶妙な具合に一つの方向性へと向かっていることを示唆する。
本来、本作のミステリーとはこういう流れを汲むべきだったと思うのですが、どうも機能しませんね。

その背景として、警察官の腐敗した体質というのが、
ジェームズ・エルロイが描く一つのキー・ポイントで、その警察官に重なり合うハリウッド産業に関係する美女たち。
このコンセプトは、『L.A.コンフィデンシャル』と全く変わらないのだけれども、映画の出来の差があまりにあり過ぎる。
これはデ・パルマが本作のコンセプトと、合っているようで意外と合っていないディレクターだったということかも。

よく、映画の終盤にある、リーが襲撃される階段でのシーンがデ・パルマらしい演出という意見も
目立つのですが、僕にはそうは思えなかった。言ってしまえば、あれこそがデ・パルマらしくない。
どうして、あんなに見せ場にならないシーンにしてしまったのか、本当のところをデ・パルマに聞きたいぐらいだ。

勿論、シチュエーション自体は如何にもデ・パルマが好みそうな感じもするが、
シーン処理そのものがデ・パルマらしくない。ワザとらしいと批難されようが、ステレオタイプと言われようが、
彼は彼の流儀を押し通す姿があるはずなのですが、デ・パルマらしいトリッキーな映像表現は何一つ無い。
そんな内容で満足しろと言われても、個人的には全く満足できるはずなどないのです。

まぁ・・・撮りながらにして、デ・パルマも悩んでいたのかもしれませんが、
どうにも彼らしい部分が出ておらず、個人的にはとっても残念な一作となってしまいました。

(上映時間120分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[R−15]

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 ルディ・コーエン
    モシュ・ディアマント
    アート・リンソン
原作 ジェームズ・エルロイ
脚本 ジョシュ・フリードマン
撮影 ヴィルモス・ジグモンド
衣装 ジョニー・ビーヴァン
編集 ビル・パンコウ
音楽 マーク・アイシャム
出演 ジョシュ・ハートネット
    アーロン・エッカート
    スカーレット・ヨハンソン
    ヒラリー・スワンク
    ミア・カーシュナー
    マイク・スター
    フィオナ・ショウ
    パトリック・フィクスラー
    ジョン・カヴァノー
    レイチェル・マイナー
    ケビン・ダン
    ローズ・マッゴーワン

2006年度アカデミー撮影賞(ヴィルモス・ジグモンド) ノミネート