最前線物語(1980年アメリカ)
The Big Red One
これはB級映画という感じではあるけど・・・サミュエル・フラーが撮ったからこうなっただけで、
本来的には戦争が生み出す異様さを描いた作品であるはずで、戦争映画としてもっとメジャーになるべきでした。
どうしてサミュエル・フラーが監督させたのだろうと思っていたのですが、
調べると本作は実は1950年代に企画が立ち上がっていて、その時点でサミュエル・フラーに欧州にロケ撮影の
下調べとして派遣していたらしく、プロダクションもかなり早い段階から彼に監督をお願いすることを決めていたようだ。
言ってしまえば、主人公の軍曹は戦争の中でしか生きられない男で、戦地での日々にウンザリしつつも、
実際に戦争が終わってしまうと困るタイプの男。一匹狼のように立ち振る舞いつつも、部隊の上官として威厳を保つ。
混沌とする精神状態の中で、混迷を極める戦地で別な兵士から「終戦だよ」と告げられても信じることができず、
挙句の果てには相手を殺してしまうという暴走ぶり。そんなことを第一次世界大戦でも、その後の第二次世界大戦でも
繰り返す有様で、彼は生まれながらにしての軍人であった。自分の部下が戦地で命を落としても感傷に浸ることなく、
ただただ淡々と部隊を前に進めることしか考えず、まるでコマのように部下を一人一人、先頭を歩かせるという鬼ぶり。
この辺の屈折した壊れっぷりがなんとも絶妙なのですが、サミュエル・フラーが描くとどこかチープな雰囲気になる。
サミュエル・フラーの自伝的な内容とのことで、これはこれで彼自身が体感した戦争を反映させた作品なのだろう。
つまりは、何も綺麗事で片付けられることではなく、理路整然と説明できることでもないというスタンスを貫きます。
軍曹を演じたリー・マービンは如何にも軍人っぽい雰囲気丸出しで想像通りの存在感でしたけど、
予想外だったのはヘミングウェイ気取りの作家志望の若者を演じたのは『スター・ウォーズ』のマーク・ハミルで、
この手の戦争映画に出演していたのは意外でしたけど、どこか内に秘める強い感情を感じさせる表情が印象的だ。
現代劇であれば悪役も多かったリー・マービンですが、戦争映画での寡黙な老兵もピッタリですね。
時にユーモアも見せてはいますが、基本的には頑固かつ寡黙なキャラクターで昔気質な老兵と言っていいですね。
多くの部下を率いている部隊の隊長ですが、次々と部下を失っていっても感情的になることはない冷酷さだ。
本作は上映時間2時間に満たないヴォリュームですが、実は本作には“リコンストラクション版”という
2時間30分以上にも及ぶ増強版が存在していて、正直言って本作の調子で2時間30分オーバーはキツそう(苦笑)。
確かに現代のように通信技術が発達していたわけではないし、リアルタイムに全員が戦況を知れていたわけではなく、
上官からの指令が絶対ということでしかなかったと思う。自軍が優勢なのか劣勢なのか、正しい状況把握もできずに
ただただ目の前の敵と闘うというだけの日々で、精神を病んだ兵士も数多くいて、暴走する上官もいたことでしょう。
それゆえ、誰を信じたらいいのか分からない状態となり、疑心暗鬼なままで「あと数時間で終戦だよ」と言われても、
まったく信じることができず、終戦という事実を逆に受け入れ難いという心境になってしまっていた兵士もいただろう。
それも戦争の恐ろしさの一つであり、異常なまでの緊張の連続に人々の精神は病んでいくわけです。
どこまでサミュエル・フラーの体験が含まれているのかは分かりませんが、多分にこれは戦争の現実なのだろう。
第一次世界大戦でも終戦を知らずに敵軍の兵士を殺害してしまった苦い過去を持つ軍曹でしたが、
奇しくも第二次世界大戦でも彼は同じことをやらかしてしまう。ところが致命傷を負わせていないことに気付いて、
軍曹は部下たちに救命するように指示します。ここは確かに第一次世界大戦とは違う結果ではあるのだけれども、
見方によっては、この軍曹も過去の教訓から学ぶことできずに同じような事態を招いてしまったとも解釈できます。
劇中、描かれていましたが降伏してきたと思われる相手軍の部隊が、それはそれで欺くための作戦であって、
実は・・・ということもあっただろう。それでも何とか相手軍を制圧した主人公の部隊が、突き進んでいくわけですが、
ベルギー領内にあってドイツ軍の抵抗軍が占拠している精神科の病院を襲いにいくシーンが、なんともカオスである。
それから、米軍に内通しているベルギー人の女性がエキセントリックな踊りを始めて、
踊りながら見張りの軍人たちを片っ端からカミソリで殺していくという異様さも、サミュエル・フラーらしいテイストだ。
現実にモデルとなる出来事があったのでしょうけど、これは異様なシーン演出で突出したインパクトを持つ。
この辺がサミュエル・フラーのB級な演出の特徴なのかもしれませんけど、なんとも奇怪でカオスな雰囲気に感じる。
結局はこの映画、こういうテンションに観客がどこまで付いて行けるかがポイントとなっていて、ハードルが低くはない。
勿論、面白い部分も無くはないのですが...かなり個性的な戦争映画であって、戦闘シーンは前面に出てこない。
途中、唐突にフランス人の女性が産気づくというエピソードがあって、慌てて主人公の軍曹が
医学の知識がある部下に出産を手伝わせるというシーンがあって、これはこれで脈絡が無くて驚かされるのですが、
衛生的にお産を手伝うためにと、持ち合わせていた避妊具を加工して手袋風にするというギャグ(?)とも解釈できる、
なんとも微妙なシーンがあったりするので、こういうトボけた部分も含めておおらかな気持ちで楽しむ必要があります。
とは言え、この出産を手伝ったエピソードや保護した一般市民の少年を背負ったまま彼が息絶えたエピソードは
サニュエル・フラーが実際に戦場で経験した事実であって、彼は“生き証人”として描きたかったことだったのでしょう。
だからこそ、本作の撮影にあたってサミュエル・フラーは当時の米軍に助言を求めるなど、一切の介入を断ったらしい。
戦争の最前線を描いた作品ではあるのですが、それにしては戦闘シーンの臨場感というよりも
やはり兵士たちの内面にクローズアップした内容なので、この辺は少々拍子抜けするかもしれませんね。
サミュエル・ミラーもいつ命を落とすかも分からない戦場の緊迫感よりも、メンタルが崩れていく過程を重視している。
と言うか、ほとんど兵士たちは部隊に合流した時点でメンタルがおかしくなっている気はしますけど、
おそらくそうでもなければやってられないのでしょうけど、部隊に合流した時点で妙なテンションでいる連中ばかり。
これはこれでサミュエル・フラーの自伝的な内容なのでしょうから、これもまた戦争の現実なのでしょう。
だからこそドラッグなども蔓延していた部隊もあったのだろうし、現地で犯罪行為を行う兵士を黙認していたという、
非道な行為が行われたこともあったのでしょう。そう思うと、人間が起こした戦争は、人間を変えてしまうのでしょう。
正直、戦場に出征したから悪事に手を染めるようなマインドになってしまった人もいるだろうし、当然、被害に遭った
人々もそういった連中がいなければ、被害は受けなかったはずだ。でも、加害連中を擁護する理由にもならないけど。
こういった問題はどの戦争でも起こっていることで、ベトナム戦争であれば『プラトーン』や『カジュアリティーズ』で
散々描かれていることではあるのだけれども、人間をおかしくさせる、正しく“戦争の狂気”という感じがする。
若い兵士は敵軍とは言え、人を殺すことに躊躇するというのが本音であって、罪悪感と恐怖を感じている。
それを聞いて経験豊富な軍曹は「これは戦争なんだから気にするな。とにかく殺しまくれ」と冷酷に言い放ちます。
この温度差は戦地で過ごす時間が長くなればなるほど、埋まっていく。これこそが“戦争の狂気”なのです。
そして、一人一人の死にドラマなど感じることなく、戦地の日常はただただ淡々と時間が流れ、人間が殺されていく。
地面に隠れていた兵士たちの頭上を、無情にも戦車のキャタピラーが通過して潰されていく光景が印象的。
エンターテイメント性は皆無、カタルシスを感じさせるラストかと言われても、そんな感じではない戦争映画だ。
メッセージ性が強いかと言われると、そうでもなくって...何とも形容し難い不思議な作品であると思いましたね。
これは当時のサミュエル・フラーだからこそ作ることができた映画という感じで、予め理解して観た方がいいでしょう。
普通の戦争映画と同じノリで観てしまうと、あまり楽しめないタイプの作品ですので
この淡々とした調子からあぶり出される“戦争の狂気”を体感できるように、頭の中を整理して観た方が良いです。
サミュエル・フラーっぽい部分もあるにはありますが、B級テイストも無くはないけど、そこまで強いわけではないので。
正直言って、個人的には高く評価するほどの出来かと言われると、それは微妙だなぁというのが本音。
多くの映画監督が本作のことをリスペクトするとフォローするので、前評判が高く見える作品ではありますが、
ひょっとすると、これはサミュエル・フラー本人からしても想定外だったのかもしれません。後からデフォルメされ、
映画の価値が上がっていくということもありますからね。この作品の“切り貼り感”があるところも、観る人が観れば
絶大な効果を出す編集なのかもしれません。でも、なんだか僕には全体的に散漫な映画に映ってしまったんだよなぁ。
リー・マービンのファンであるなら、観なきゃならない作品ではありますがねぇ・・・。
(上映時間111分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 サミュエル・フラー
製作 ジーン・コーマン
脚本 サミュエル・フラー
撮影 アダム・グリーンバーグ
音楽 ダナ・カプロフ
出演 リー・マービン
マーク・ハミル
ロバート・キャラダイン
ステファーヌ・オードラン
ボビー・ディ・シッコ
ケリー・ウォード
ジークフリート・ラウヒ