白い肌の異常な夜(1971年アメリカ)

The Beguiled

これは今となっては、異色なカルト映画と言えば、それまでですが...
よくよく真剣に観てみると、如何にもイーストウッドらしい変態映画とも解釈できる(笑)。

一応、クレジット上はドン・シーゲルが監督ということになってはいますが、
おそらく当時から、イーストウッドは映画監督への志向が明確になっていたことでしょうし、
同じ時期に『恐怖のメロディ』のメガホンを取って監督デビューしていることから、
本作製作に於いても、そうとうにイーストウッドの意向が反映されていることは確実だろう。

だいたい、物語の骨格に関わる部分ですが...
南北戦争の厳しい戦況下、危険地帯に位置する女学校に瀕死の状態で助けられて、
ただ一人だけの男である自分に、若い女学生たちの性的な興味が集中して、
更にただ一人で学校を守る、年長の学校長からも屈折した感情をぶつけられるなんて、
如何にもイーストウッドの性癖らしい(笑)、実にダイレクトに表現された映画になっている(笑)。

思わず、僕はこの映画を観ていて...
イーストウッドがカメラの手前で「お前ら(世の男たち)も、こういうのに憧れるだろ?」と言われてるみたいで、
何だか、こうも公に自分の性癖をオープンにできるイーストウッドってスゴいなぁと感心しました(笑)。

広〜く言えば、本作なんかもアメリカン・ニューシネマ的なニュアンスがあるように感じるのですが、
ほぼ間違いないのは、本作は70年代のカルト映画ブームを先取りしていたということですね。

だいたい、この映画のイーストウッドは登場してきたときから、何かがおかしい(笑)。

命からがら助けてもらった12歳という女学生に引っ張られながら避難している最中にも、
南軍が近くを通過することを確認したイーストウッド演じる主人公は、少女を茂みに匿います。
そこで何故か、お互いに自己紹介しながら、唐突に12歳の少女にキスをするというヘンテコぶり。

道徳的に考えたら、それはかなり躊躇するシーン演出だと思うけど、
「一体、何が悪い?」と真顔で開き直って芝居してしまうあたりが、如何にもイーストウッドらしい潔さ(笑)。

以降、瀕死の重傷を負い助けてもらいながらも、
実は自分は女学校に避難していて、周りは若い娘しかいないという、
「この上なく恵まれた環境にいるんだ、ヤッホォー!」みたいな浮かれ具合で、
少し症状が良くなって、動けるようになった途端、片っ端から近づく女学生や女性教師の唇を奪い続けます。

一方で、彼は「ある宗教の敬虔な信者であるから、別に女学生を目的にこの学校にいるわけじゃない」と主張し、
何とかして学校に留まろうとするものの、すぐに寂しそうな表情を見せる学校長をも誘惑してしまいます。

ここまでくると、ただの女ったらしの映画ということになるのですが、
そこで本作には大きな落とし穴が待ち構えていたのでした。映画の主題は、この恐怖なんですね。

ただ、敢えて最初にクギを刺しておけば...
この映画、若干、損をしてしまったのは、あまりにイーストウッドの軽薄さが災いしてか、
女たちの常軌を逸した行動のインパクトが、イーストウッドのイメージと本作で演じた主人公のギャップを
超えられなかった点で、結果的にカタルシスを感じるには至らなかったという気がします。

映画の終盤で、女たちの常軌を逸した行動でトンデモないことをされた主人公がヤケになって、
ワインがガブ飲みし、酔っ払った勢いでピストル片手に「オレがここの支配者になる!」と言い放つものの、
全く彼の支配力が及ばないシーンを観るに、どこか間抜けな映画に映ってしまったハンデはあります。

しかし、それでも前述した70年代のカルト映画ブームを先取りしていたと解釈すれば、
この映画の価値はひじょうに高いものに感じられ、特に女たちが「こうするしかないのよ...」と
真剣に思い込み、ドンドン、ドンドン、彼女たちの行動がエスカレートしてしまう流れには、
ほど良い緊張感があり、ドン・シーゲルの演出力の高さを象徴していると思いますね。

ほとんどアクション・シーンがない映画ではありますが、
ドン・シーゲルのスリラー演出は決して悪い出来ではなく、フラッシュ・バックもひじょうに効果的でした。

個人的にはナレーションに頼り過ぎかなぁとは感じましたが、
それでも映画を壊す致命的なものではなく、ギリギリのところで調和してはいました。
ドン・シーゲルも本作の撮影にあたっては、そうとうに悩んだのではないでしょうかねぇ。
(とは言え、生前の彼曰く、本作が最高傑作だと思っていたとか・・・)

相変わらずブルース・サーティースのカメラが良いですね。
多額の予算があった企画ではないでしょうが、ライティング(照明)の使い方が凄く上手い。
だからこそ、夜のシーンが抜群に良いんですよね。闇を不気味さを表現するにあたって、上手く利用しています。

この映画、今となってはモラル的な観点から一つのタブーかもしれませんね。
イーストウッドはアッサリ12歳の少女とキスしちゃうし、思春期の17歳の少女とはベッドを共にする。

まぁそんな展開でも、ドン・シーゲルは「女の嫉妬は怖いぞ!」と主張しているようですが、
ある意味で本作はこの時代だから評価してもらえた作品だったと言っても過言ではないかもしれません。
(この時期のドン・シーゲルは絶好調だったから、何を撮っても高い評価は得られたかもしれませんが・・・)

ところで、どうでもいい話しですが...この映画の邦題って、一体、誰が考えたんだろ?
あまりに内容とピッタリ合い過ぎていて、映画史に残る、その上手さなのですが。。。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ドン・シーゲル
製作 ドン・シーゲル
原作 トーマス・カリナン
脚本 ジョン・B・シェリー
    グライムス・グライス
撮影 ブルース・サーティース
美術 アレキサンダー・ゴリツェン
編集 カール・ピンジトア
音楽 ラロ・シフリン
出演 クリント・イーストウッド
    ジェラルディン・ペイジ
    エリザベス・ハートマン
    ジョー・アン・ハリス
    ダーリーン・カー
    メエ・マーサー
    パメリン・ファーディン
    メロディ・トーマス・スコット
    ペギー・ドライヤー
    パッティ・マティック