バンク・ジョブ(2008年イギリス)

The Bank Job

これはどこまで真実なのかが、気になるところではありますが・・・
71年に実際にロンドンの銀行で発生した”ベイカーストリート強盗事件”をモデルにしたサスペンス映画。

監督は『追いつめられて』などのロジャー・ドナルドソンですが、
あまりヒットしなかったようですが、まずまず手堅い作りになっていて、そんなに悪い出来ではないと思います。

ただ、ジェイソン・ステイサムのアクション映画として考えると、少々、物足りなさを感じるかも。
激しいアクション・シーンがあるわけでもなく、映画としてもB級テイストに溢れるというわけでもなく、
ましてやジェイソン・ステイサム演じる主人公が屈強な男で、超人的な活躍をするわけでもなく、一般市民に近い。

彼が演じる主人公テリーは仕事仲間たちと組んで、いつもケチな泥棒をやっている小悪党。
仕事仲間でもあり、1度限りの肉体関係のあった美女マルティーヌに呼び出されて、マルティーヌの彼氏からの情報で
ロンドンの市街地にある銀行の地下貸金庫がセキュリティ・システム更新のために一時的に、監視システムが無くなり、
システム的には全くの無防備になるので、同じビルのテナント店舗を借り、そこから貸金庫へつながるトンネルを掘り、
貸金庫のの中身を強奪しないかと持ちかけられ、中古車販売業の仕事が上手くいかないテリーは、これを承諾する。

いざ仕事仲間を集めて、計画通りに強奪のための準備を進めていきますが、
実はこの内容には諜報機関のMi−5なども絡む、テリーらが関わるにはあまりに大き過ぎる犯罪だった。

あんなに自分たちに都合の悪いものばかりを貸金庫に預けているというのも変な話しではありますが、
この貸金庫を狙った理由は、政府にとって都合の悪い“情報”が預けられているからで、その“情報”を使って
政府や司法をゆすり、自分の犯罪をもみ消したりする勢力を封じるために、実は諜報機関が主導で仕組んだ計画。
しかし、この貸金庫には偶然、裏社会の人間、そして裏社会に内通する腐敗した警察官らの“情報”も含まれていて、
それらをも奪われた裏社会の連中、そして普通にロンドンの警察からも追われることになるという複雑な展開になる。

なんか、銀行にアクセスするために少々離れた店舗から地下トンネルを掘って、
銀行強盗をやろうという発想は、映画としてはウディ・アレンの『おいしい生活』でも同じ展開を観ましたが、
あくまで『おいしい生活』はコメディ映画であって、途中からそんな話しはどっかにいってしまったので、
本作は最後の最後まで強盗することにフォーカスして描いており、そのスリリングさという点では本作が勝っている。

所々、本作にもどうかなと思うところはあるにはあるのですが、
映画としては及第点レヴェルにはあると思うし、強盗した立場という悪党の視点に立った映画ではありますが、
彼らに迫る緊張感を描いたクライム・スリラーとしては、十分に楽しめる。ただ、映画に娯楽色は弱いですけどね。

ロジャー・ドナルドソンの監督作品って、当たり外れがハッキリしているイメージがあるのですが、
本作はそこそこ楽しめた。やっぱりロジャー・ドナルドソンは“追われる側”の立場を描かせると上手いと思う。

ちなみに本作は勧善懲悪な映画ではない。ですから、倫理観みたいなことを問いたくなる人には向かない。
べつにアウトローを称賛した映画だとは思わないけれども、テリーらはあくまで犯罪者であることに変わりはない。
元々、悪いことをやってきた連中であり、その中でいきなり銀行強盗をやろうということになって、それを承諾する。
テリーは警戒心の強い男なので、マルティーヌが唐突に持ち込んだ強盗計画の話しを、スンナリと承諾したことは
やや納得性に欠ける展開のようにも思うのですが、それでもマルティーヌのことをずっと気にかけていたので、
そんな彼女への想いを断ち切れずに、マルティーヌの提案を受け入れたということなのだろうと思うしかないですね。

マルティーヌとの微妙な関係は、マルティーヌがテリーを誘惑するように受け入れるシーンがあるので、
不倫関係にあることは明白になるのですが、それでもお互いの本音がどうなのかは不透明なまま進んでいく。
特にマルティーヌは諜報機関の担当者から操られていることが、映画の冒頭から明らかになっているので、
なんだか彼女の思惑には“裏”がありそうな感じで描かれており、雰囲気的にも魔性の女というイメージがある。

しかし、それでも映画のクライマックスでマルティーヌの表情が、彼女の本音を物語っているので、
言ってしまえば、テリーとマルティーヌにも後ろめたさが残り、その想いはどこまでも清算されることはない。
つまり、シチュエーション的には後味の悪い映画ではないのだけれども、結局は彼らは悪人であることに変わらないし、
どこか後ろめたさを引きずったまま映画が終わる。従って、勧善懲悪で理性的な映画ではないというわけだ。

テリーはテリーで警戒心が強い男という設定のようで、マルティーヌに疑いの目を持っていたのですが、
結果的にはマルティーヌの魅力に負けてしまうというのが、なんとも情けない中年のオッサンの性(さが)。
銀行の金庫へと突き進んでいく過程にしても、トンデモない犯罪計画にであるにも関わらず、どこか杜撰な体制。
犯行途中にピザのデリバリーを頼む時点でありえないが、「隣の店の営業中に(ドリルで掘削)やるなよ!」って感じ。
最初は屋外からの見張りを付けていなかったのもそうですが、大胆なだけで彼らの犯行はかなり杜撰なものだ。

まぁ、現実世界はそんなものなのかもしれませんね。不条理で不公正な世の中なものです。
そういう現実世界の醜悪な部分も全て飲み込んでいる感じで、どこかリアルな(生々しい)内容の映画ではある。
それゆえ、僕はこの映画で描かれた内容のどこまでが事実に基づいたものなのかが、気になってしまいましたねぇ。

ジェイソン・ステイサムのアクション映画としては物足りないかもしれないが、たまにはこういうのも良いだろう。
本作の場合は、彼よりもマルティーヌを演じたサフロン・バロウズの方が、強烈なインパクトを残している。
日本では、あまり有名な女優さんではありませんが、ちょいちょい規模の大きな映画に出演している女優さんですし、
本作ではまるで往年のシャーロット・ランプリングのような雰囲気を持つ、ミステリアスな美女という感じで印象的だ。
本作は彼女をキャスティングできたからこそ、映画的に引き締まったという感じがあって、彼女の功績はデカいですね。

まぁ、銀行強盗後に裏社会の連中から追われるエピソードに変わっていくので、
映画前半のエピソードが後半になると、影が薄くなってしまうのは仕方ない部分もありますが、
そのせいか強盗のエピソードに、あまり目立った困難が無いのは物足りない。無線で見張り役とのやり取りがあり、
その無線が映画の中で一つのポイントになっているのですが、強盗シーンはもっとしつこく描いて欲しかったかな。

この辺はロジャー・ドナルドソンであれば、もっと上手く描くことが出来たと思うんだけどなぁ〜。

どうでもいい話しかもしれませんが...テリーの妻の表情が、なんとなく怖い(苦笑)。
テリーはテリーで妻を裏切っているわけだし、家族を危険に巻き込むような犯罪に手を染めているので、
非難されて然るべき男なんだけど、テリーの真実が分かったときの妻の表情が何とも言えない感情を物語っていて、
この映画のクライマックスにも、この妻が絡んでくるドンデン返しがあるのではないかと、思わず邪推してしまう。

個人的にはこの妻の怖さ、というのも利用して良かったのではないかと思っているので、あと一ヤマあっても良かった。
映画の主題が家族内のイザコザではなく、あくまで強盗をめぐるエピソードなので、ブレるのを嫌ったのかもしれない。
ただ、せっかく夫婦の関係性に亀裂が入ったことを表情で物語っているので、これを使わない手はないと思ったが。。。

映画の最後の攻防、パディントン駅でのシーンから一気にクライマックスへ駆け上がるのは良いですね。
ポルノ映画のプロデューサーであるヴォーゲルが、かなり悪どい奴だったので、ボッコボコにやられるのは
スカッとしたという人も正直多いだろうし、現場で司法取引を匂わせることをやってのけるのも、なんだかスゴい発想だ。

正しく、主要登場人物全員集合!みたいなラストを迎えるのですが、
Mi−5の担当官がいとも簡単に素顔で駅にやって来るのは、なんだか信じ難い無警戒さなので、
これももっと洗練された手口で接触するというように描いては欲しかったところ。あまりに安直な印象を受けましたね。

そういうのも含めて、本作で描かれたことがどこまで真実なのかは分かりませんが、
キレ味の良い映画には仕上がっていて、一切の無駄を許さないかのような編集も、映画をテンポアップさせている。
(まぁ・・・この辺は時間的余裕というか、“余白”を持たせたような映画の方が好きだという人もいるだろうけど・・・)

銀行強盗を詳細に描いた映画とまでは言えないし、もっと工夫の余地はあったと思うが、
小じんまりとした作品ながら、要所を押さえた大人のエンターテイメントとして、及第点には届いた作品ですね。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 スティーブン・チャスマン
   チャールズ・ローヴェン
脚本 ディック・クレメント
   イアン・ラ・フレネ
撮影 マイケル・コールター
編集 ジョン・ギルバート
音楽 J・ピーター・ロビンソン
出演 ジェイソン・ステイサム
   サフロン・バロウズ
   リチャード・リンターン
   スティーブン・キャンベル・ムーア
   ダニエル・メイズ
   ピーター・ボウルズ
   キーリー・ホーズ
   コリン・サーモン
   ピーター・デ・ジャージー
   ジェームズ・フォークナー
   デビッド・スーシェ