夢を生きた男/ザ・ベーブ(1991年アメリカ)

The Babe

伝説の野球人であるベーブ・ルースの野球人生を描いた伝記映画ですが、あまりヒットしなかったようです。

最近は大谷 翔平というスーパーマンみたいな野球選手がいるだけに、
次第にプロの世界で二刀流とか、投手の野手転向とか野手の投手挑戦とか、色々な例が見られるようになったけど、
やはりプロの世界に入るような野球選手が、全く異なる野手と投手の二刀流とか、転向するとかは
それまでの野球界の常識では考えられないくらいの負担であり、とりわけ二刀流での成功というのは、
ベーブ・ルースくらいなもので、野手・投手の双方でトップクラスの成績を残すことは困難とされてきました。

転向にしても、事実上、野球人生をやり直すことにつながるわけで、容易いことではありませんが、
野球選手のセカンドキャリアの問題がクローズアップされているせいか、使い捨てのようなドライな関係が
見直されつつあり、可能性があるのであれば・・・と、野手・投手転向が以前よりは頻繁に行われている気がします。

僕はこの映画、そんなに悪い出来の映画ではないと思っているのですが、
ベーブ・ルースという人物をどう評価しているかで、この映画の中身に対する印象が大きく変わるのは事実ですね。

特に本国アメリカではヒーローであり、伝説の野球人なわけですから、
表向きのところからは想像されない、若しくは知られざる側面みたいなものに肉薄する内容ですと、
そのヒーローのイメージを崩されたくなりという本能がありますから、結果として賛否両論になってしまいますね。
いつものアーサー・ヒラーの監督作品と比べると、えらく真面目に撮った作品なだけに、なんだか勿体ないなぁ。

投手としても、打者としても超一流の成績を残したベーブ・ルースは元祖二刀流のプレーヤーだ。

幼い頃に両親から見捨てられたように施設に預けられ、親の面会も無く成人したベーブは、
施設内で野球の打者としての才覚を見い出され、プロ野球選手としてスカウトされ、すぐにブレイクします。
次々と場外ホームランを打ち、入団したボストン・レッドソックスでスター選手となり、年俸は高騰していきます。

元々、粗暴な性格だったベーブはスター選手としてワガママを言っても全て通り、
毎日のように暴飲暴食を繰り返し、贅沢の限りを尽くす。球団のオーナーも手を焼くようになり、
ベーブに給料を支払えなくなったことから、人気球団の名門ニューヨーク・ヤンキースへ移籍することになります。

そこでもレッドソックス時代と同様に大活躍したことから、アッという間に人気選手となりますが、
次第に野球選手として衰え、ルー・ゲーリッグなど後に続く人気選手が誕生し、ベーブは苦しい立場になっていきます。

一方、私生活のベーブはそれはそれは酷いもので、性格的には子供のままメジャーリーガーになって、
結果を残し彼に金が集まるものだから、周囲は彼をチヤホヤし続けますが、まったくもって彼は子供でした。
毎夜の如くパーティーに明け暮れ、試合中にもホットドックを食べまくり、スポーツ選手としての節制は一切しない。

ボストンで出会い一目惚れした女性ヘレンに強引に口説き、心ほだされたヘレンと見事結婚したベーブですが、
結婚前の荒んだ生活が忘れられず、まるで生活のペースが異なって、ボストンの郊外で農場を経営したい
ヘレンを毎夜パーティーに連れ出そうとするも、反論してくるヘレンと意見の相違が表面化してきます。

子供を望むベーブでしたが子供になかなか恵まれないことに焦ったベーブは、
赤ん坊を養子にとってくるベーブに、戸惑いながらも受け入れたヘレンは思い直しますが、
ヤンキースへの移籍が決まり、大都会ニューヨークへ引っ越すことに拒否を示したヘレンと再び衝突し、
それでもライフスタイルを変えないベーブに苛立ったヘレンは、ついに養子の娘を連れてボストンへ帰ってしまいます。

やがてヘレンと離婚したベーブは、怪しげな連中とつるんでいた女優のクレア・ホジソンと再婚するものの、
その頃には野球選手として落ち目を迎えていたベーブが、望んでいたことは球団の監督になることだった・・・。

実際問題として、名選手が名監督になるとは限らない。
特にメジャーリーグの球団の監督は、最近は日本もそうだけど、マネジメント能力を求められます。
それは今も昔も変わらないことで、技術的な指導はコーチに任せ、チームをまとめ勝つことに注力しなければならない。

とにかくスター・プレーヤーとして花を咲かせ続けたベーブの性格からいって、
確かに球団のオーナーからすれば、安心してベーブにチームの監督を任せられる状況にはなかったと思う。
有名なエピソードですが、病床に伏した子供とホームランを約束して実際に打ったということもあり、
心優しきところがあることは知られていますが、それでも問題行動が無かったわけでもないということでしょう。

伝説のメジャーリーガーであり、アメリカを代表するヒーローであるベーブの負の側面を
クローズアップするということ自体、大きな挑戦であったのでしょうが、正直、どこまで事実なのかは分からない。

アーサー・ヒラーは時に不必要なほどに、コミカルな演出に走ったりして映画が崩れてしまうことがありますが、
本作は良い意味で堅実な作りに終始している。内容的に賛否はあるが、僕は決して悪い出来ではないと思う。
ただ、肝心かなめの野球シーンはあまり期待してはいけない。正直、ベーブ・ルースが活躍した時代の野球という
こともあるのだけれども、それにしても迫力や臨場感といった、“現場感”がまるで希薄な作品なのは残念。
これで野球シーンがもっと良く出来ていれば、映画の印象は劇的に良くなったであろうと思えるだけに。。。

ベーブは巨漢だったが、演じるジョン・グッドマンがなんとなくベーブのシルエットにソックリとは言え、
いくらなんでもスポーツマンの動きではない。実在のベーブもここまで鈍い動きではなかったでしょう。
あれでは外野にヒット打ったって、全て外野ゴロになるでしょうし、投手としてだって球に力が伝わらないでしょう。

まぁ・・・技術的なことはともかくとしても、映画を観て、
肝心かなめのベーブが野球選手として、嘘クサく見えてしまっては、映画として成立しなくなってしまう。
ここはもっとアーサー・ヒラーに気を配ってもらって、ジョン・グッドマンを野球選手にして欲しかったですね。
ハッキリ言って、この映画のジョン・グッドマンをプロ野球選手だと思えという方が、話しに無理があります。

ベーブの最初の妻ヘレンを演じたトリニ・アルバラードも、2番目の妻クレアを演じたケリー・マクギリスも
とても良かっただけに、もう少しジョン・グッドマンに関してはしっかりと描いて欲しかったですね。

とは言え、伝記映画としての見応えがないわけでもない。その辺はポイントをキッチリ押さえているからだろう。
脚色はあるだろうが、ベーブに関する一通りのエピソードは紹介されているし、大事なラストの終わり方もまずまずだ。
そういう意味では及第点レヴェルの映画、と言ってもいいと思う。僕は少々、過小評価に終わった気がしている。
あまり強く訴求することはないが、ベーブ・ルースの生きざまを押しつけがましくない程度に、的確に描いている。

特に、ラストシーンで久しぶりの再会を果たすシーンは定番化されたところですが、
このシーンでのジョン・グッドマンの表情一つ一つが素晴らしい。ベーブの人間らしさが伝わる良いシーンである。
粗暴な性格であったとは言え、こういう表情を映画のラストシーンという大事なところで収めたのは好感が持てる。

そして、今はコロナ禍なので、こういった場面はホントに少なくなってしまったが、
欧米流の賛辞を意味する、スタンディング・オベーションの素晴らしさというのを、強く感じさせられた。
やはり、球場に集まった大勢の観客がスタンディング・オベーションでベーブを迎えるシーンには鳥肌が立つ。
これはメジャーリーグという、世界最高峰と言われるベースボール・スタジアムだからこそ成し得る感覚かもしれないが、
野球以外でもスタンディング・オベーションで拍手喝さいを受けるというのは、とてつもない栄誉であると思います。

僕は本作、アーサー・ヒラーの監督作品として、そこそこ手応えのあった作品だったのではないかと思う。
「終わり良ければ全て良し」なんて、よく言ったものですが、本作を観ると正にそんな言葉を思い出しちゃいます。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アーサー・ヒラー
製作 ジョン・フスコ
脚本 ジョン・フスコ
撮影 ハスケル・ウェクスラー
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ジョン・グッドマン
   ケリー・マクギリス
   トリニ・アルバラード
   ブルース・ボックスライトナー
   ピーター・ドゥーナット
   ジェームズ・クロムウェル
   J・C・クイン