アビエイター(2004年アメリカ)

The Aviator

まぁ分量としては見応えのある伝記ドラマだけど、なんかイマイチだったなぁ。。。

巨匠マーチン・スコセッシが描く、伝説的な大富豪ハワード・ヒューズの映画作りと飛行機への情熱を
真正面から描いた作品なのですが、たいへん申し訳ない言い方ですが、とにかく長い。。。
上映時間も3時間近くあることに加え、あまり歯切れが良くない内容で、余計に長く感じられる。

実在の人物をモデルとした映画であり、クラシック時代のハリウッドの蒼々たる面々を
実名で登場させるに加え、実際に起こったエピソードを多く採り入れているため、かなり慎重に描いていますね。

04年度のアカデミー賞でも作品賞含む11部門でノミネートされ、5部門を獲得しましたし、
前哨戦の映画賞レースでも有力作品として高く評価されていましたが、なんかチョット肩透かしだったなぁ。。。
もう少し重厚で、もう少し訴求する部分があって、見応えのあるドラマになっているかと思っていたのですが、
ただ単に分量というヴォリューム感だけが先行してしまう、「やたらと長い映画」という感想が残るかな。

この映画、何が良くなかったって、全体的に詰め込み過ぎたということ。
確かにハワード・ヒューズは実業界で多岐にわたる活躍をしたということは分かりますが、
1本の映画の中でハワード・ヒューズの実業家としての側面や、セレブリティとの恋愛を描き切るには、
この映画を観る限り、そうとう上手くできない限り、無理があると言わざるをえないなぁ。
勿論、マーチン・スコセッシがメガホンを取っていますので、十分に可能性があったのだろうとは思いますが、
結果として残ったものは、どうしても詰め込みまくってエピソードを紹介するのに精いっぱいだった感じで、
随分と慌しい、駆け足の映画という印象が強く残って、一つ一つのエピソードを言及し切れませんでしたね。

それゆえ、一つ一つのエピソードの歯切れが悪く、無駄に上映時間の長さを強調していますね。
この辺はマーチン・スコセッシの監督作としては珍しい感覚だと思うのですが、
02年の『ギャング・オブ・ニューヨーク』なんかと比べても、明らかに本作の分(ぶ)が悪い。

まぁいくら往年のハリウッドへの敬意を表した作品とは言え、
劇中に何度か登場してくるハワードが飛行機を操縦したり、セスナに乗りながら、
カメラを回すシーンなんかでは、あまり強い“飛ぶ”という行為に対するこだわりを感じさせず、
思わず「ホントにマーチン・スコセッシはハワード・ヒューズの映画を撮りたかったのか?」と
疑問に思っちゃったりしますが、まぁいいです(笑)。それがメインテーマではないだろうし。

というのも、ハワード・ヒューズは飛行するということに執着していたわけで、
それは映画を観ても分かりますが、彼が活躍していた当時、如何に長く遠く速く飛行することが重要で
彼の憧れからパイオニア精神が生まれ、“飛ぶ”ということに固執していたはずなのです。

彼にとっては壮大なチャレンジであり、楽しみであったはずの“飛ぶ”ということが
僕は映画の中でまるで寓話的に描かれてしまっていることは残念でなりませんでしたね。

僕がこの映画に何を求めていたかって、そりゃガツン!と来るようなドラマの重みと、
ドライヴ感のあるサクサク、サクサクと話しを進めるマーチン・スコセッシの鮮やかな語り口なんですよ。

確かに劇場公開時、話題となったケイト・ブランシェットによる、
ハリウッドを代表する名女優キャサリン・ヘップバーンの“大モノマネ大会”は凄いけど、
別に僕の中ではそれ以上でも以下でもないという感じで、何か大切なものが欠落している気がしました。
そう、思わず「僕はマーチン・スコセッシの映画を観たいんだぁ!」と叫びたくなるのです。
(かなり思い切ったことを言えば、話しが面白くなくとも、マーチン・スコセッシ節が全開なら、それでいい・・・)

マーチン・スコセッシらしからぬ語り口の歯切れの悪さに失望してしまいましたが、
時にフラッシュを凶器として描くかのような光の使い方をしたロバート・リチャードソンのカメラは逸品だ。
特に難聴であり、人前で話すことが得手ではなかったハワード・ヒューズの性格を顕著に表現した、
映画の前半で赤絨毯を歩くシーンでの映像表現などは、特筆に値すると思いますね。

ほとんど出ずっぱりのレオナルド・ディカプリオは好演ですが、
ケイト・ブランシェットを除けば、女優陣はイマイチだったなぁ。ハワード・ヒューズの華麗なる女性遍歴も、
この映画の大きなテーマだったのでしょうから、女優陣の配役にはもっとこだわっても良かったと思います。
特にエヴァ・ガードナーを演じたケイト・ベッキンセールはかなり物足りなかったですね。
ケイト・ブランシェットが凄過ぎるモノマネをやってのけただけに、彼女の物足りなさが際立った感じです。

実在のハワード・ヒューズは「資本主義の権化」と呼ばれ、
18歳のときに急死した父から受け継いだ石油発掘事業が大当たりして、莫大な富を築きました。

すぐに幼い頃から好きだった映画産業に進出し、同時に航空会社TWAを買収しました。
映画プロデューサーとしての手腕には疑問も囁かれていたようですが、TWAはアメリカ国内路線の多くを持ち、
パンアメリカン航空と熾烈な競争を演じており、国際航路の開拓に熱心であったようです。

しかしながら若くして、ドラッグへの依存が深刻化しており、
また不運な航空事故にも見舞われており、彼自身の精神的な病いを誘発する要因となっておりました。
数多くの映画女優の浮名を流しながらも、晩年は奇行が報じられ、76年にメキシコで死去しています。
どうも過剰なまでの潔癖症にも悩まされ、ドラッグ中毒は死まで断ち切れなかったみたいですね。

いずれにしても、マーチン・スコセッシならもっとエキサイティングな映画にできたはず。
それを考えれば、是非とももう一度、違ったアプローチで撮り直して欲しい作品ですね。

本来的にはこんな言い方をすべきではないけど・・・
本作公開当時は「オスカー受賞未経験のハリウッドを代表する巨匠」と呼ばれておりましたが、
個人的には本作でオスカーに輝くなんてことがなくて、良かったとさえ思います。
(まぁ・・・ホントは06年の『ディパーテッド』も納得いかないんですけね...)

余談ですが、ジュード・ロウが演じたエロール・フリンが何だか面白かった...(笑)。

(上映時間169分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マーチン・スコセッシ
製作 サンディ・クライマン
    チャールズ・エバンスJr
    グレアム・キング
    マイケル・マン
脚本 ジョン・ローガン
撮影 ロバート・リチャードソン
美術 ダンテ・フェレッティ
編集 セルマ・スクーンメイカー
音楽 ハワード・ショア
出演 レオナルド・ディカプリオ
    ケイト・ブランシェット
    ケイト・ベッキンセール
    ジュード・ロウ
    アレック・ボールドウィン
    ジョン・C・ライリー
    アラン・アルダ
    イアン・ホルム
    ダニー・ヒューストン
    グウェン・ステファニー
    アダム・スコット
    マット・ロス
    ウィレム・デフォー
    ケリ・ガーナー

2004年度アカデミー作品賞 ノミネート
2004年度アカデミー主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ) ノミネート
2004年度アカデミー助演男優賞(アラン・アルダ) ノミネート
2004年度アカデミー助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度アカデミー監督賞(マーチン・スコセッシ) ノミネート
2004年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジョン・ローガン) ノミネート
2004年度アカデミー撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞
2004年度アカデミー美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度アカデミー衣装デザイン賞 受賞
2004年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2004年度アカデミー編集賞(セルマ・スク−ンメイカー) 受賞
2004年度全米俳優組合賞助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘアー賞 受賞
2004年度ロサンゼルス映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度シカゴ映画批評家協会賞作曲賞(ハワード・ショア) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞(セルマ・スクーンメイカー) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度フェニックス映画批評家協会賞衣装デザイン賞 受賞
2004年度サンディエゴ映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度カンザスシティ映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2004年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞美術賞(ダンテ・フェレッティ) 受賞
2004年度セントルイス映画批評家協会賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
2004年度セントルイス映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2004年度セントルイス映画批評家協会賞監督賞<ドラマ部門>(マーチン・スコセッシ) 受賞
2004年度ロンドン映画批評家協会賞監督賞(マーチン・スコセッシ) 受賞
2004年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
2004年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(レオナルド・ディカプリオ) 受賞
2004年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ハワード・ショア) 受賞