アート・オブ・ウォー(2000年アメリカ)

The Art Of War

これ、地味にシリーズ化されていたのか。まったく知らなかった(笑)。

国連に雇われているエキスパートである主人公が、
様々なデジタル機器と、持ち前の運動神経で数々の修羅場を潜り抜け、工作活動を展開してきたものの、
中国の要人が記者会見場で目の前で暗殺されたことから始まる、サスペンス・アクション。

この頃は、まだウェズリー・スナイプスが主演でアクション映画を製作できていたようで、
ビデオ映画ではありましたが、本作の続編が製作されたようです。全米でもそこそこヒットしてました。

ただ、自分の中ではどこか支離滅裂な映画という印象に残っていて、
正直、シリーズ化するほど魅力的な作品とは思えなかったですね。ウェズリー・スナイプスの動きは良いけど、
演出面で難があって、全体的な組み立てが上手くいっておらず、映画に緊張感が根付いていない。

監督のクリスチャン・デュケイは『スキャナーズ』シリーズで評価されて、
故国カナダからハリウッドで渡ってきたようで、現時点で本作が最も大きな仕事だったように見えます。
本作以降はアクション映画をメインにするのもやめたようで、プロダクションの評価はイマイチだったのかもしれません。

一応、映画は真犯人を追うというエッセンスもあるのですが、
映画の構成としても今一つ、真相究明に集中し切れず、唐突にクライマックスに突入するので、
適当な言葉ではないかもしれないけど、映画としての起承転結が明瞭ではない組み立てになってしまっている。

そもそも、マイケル・ビーンが登場するあたりでお察しなのですが(苦笑)...
アクションを見せるにしても、もっと集中的に見せて、スピード感ある展開にした方が良かったと思います。

せっかくベテラン俳優のドナルド・サザーランドとアン・アーチャーが出演しているのですが、
あまり積極的にメイン・ストーリーに絡んでこない、どちらかと言えば、2人もチョイ役のような扱いで
もっと観客のストレスになる存在であったり、重要なキー・パーソンとして描いて欲しかったですね。
この扱いの悪さは実に勿体なく、ウェズリー・スナイプスとマイケル・ビーンだけでは無理がありました。

ヒロイン的な存在で、アジア系のマリコ・マチエは欧米の方々から見れば、
エキゾチックな雰囲気に見えるのかもしれませんが、もう少し見せ場を与えて欲しかったですね。
製作スタッフにアジア系の方が多く、それもあって、映画の舞台が米中関係に当てたのだと思いますが、
それでもアジア系俳優の扱いがあまり良くないように見えるのは、なんだかフクザツな思いになりますねぇ。

そういう意味では、映画の最後で花を持たせたつもりなのかもしれませんが、
このラストもまた、なんとも納得性に欠ける唐突さで、映画のラストの在り方として困りものだ。

ところで、国連が現実にこんな工作活動を裏の世界で行っているかは知りませんが、
もし、この映画で描かれたような国連から直接雇用されているようなエキスパートがいて、
国際的な陰謀に対処する部隊がいるとなると、国連の果たすべき役割を超越してくるような気がします。
また、その攻防を悪用するアン・アーチャー演じる国連事務局職員みたいなのも、すぐに出てくるでしょうね。

凄腕エージェントがいるのはいいけど、紛争など世界平和を脅かすことを
平和的に解決するために国連があるのに、エージェントの素材って、それらを“力”で制圧して
解決しようとなるわけで、国連が持つ本来的な役割・機能と大きな矛盾をするような気がしますね。

ですので、個人的には無理矢理、国連が舞台という設定にしなくても良かったと思うんですよね。
当初の脚本からそうあったから仕方がないのかもしれませんが、この設定が映画を難しくしたかもしれません。

主人公の位置情報が全て、相手側に握られるカラクリなどは、
そこそこ良く出来ているだけに、クライマックスに至るまでの過程の描き方と、
国連を舞台にする無理矢理な設定さえ何とかすれば、この映画はもっと魅力的なものになっていたと思う。

それにしても、ウェズリー・スナイプスはこの頃あたりから、
ハリウッドでも活躍の場が少なくなっていたように思います。90年代はそこそこ活躍していたんですがねぇ・・・。
アクション映画やコメディ映画以外で、今一つ定評が得られなかったことで、年を重ねてからの活躍の場が
制限されてしまったかのようで、00年代以降はウィル・スミスらの勢力に押されてしまいましたねぇ。

丁度、90年代後半あたりからアメリカ国内に於ける、アジア系社会が絡む抗争を描いた映画が
数本製作されるようになり、ジャッキー・チェンやジェット・リーらがハリウッドに渡った頃ですね。
本作もそういった時代の流れに乗り、グローバルな映画という位置づけでもあったのでしょう。

その代わり(?)なのか...淘汰されるのも早かったような気がします。
一気に数が作られたというのもあって、多くが“ビデオスルー”扱いで、劇場未公開作になりましたし。
一大ブームを起こすに至らず、本作のような比較的規模の大きな企画が、たまに目立つ程度という感じで、
結局、約20年経った今となって思うと、カンフー・アクション映画などはほぼ生き残っていないですものね。

ちなみにタイトルになっているThe Art Of Warとは、特殊戦闘能力という意味らしい。
本作の主人公は、確かに訓練された俊敏な動きのあるエージェントという感じでしたが、
そういったものを感じさせるシーンが、映画のクライマックスの銃弾が飛び交う映像表現だとするなら、チョット寂しい。

辛らつな言い方かもしれませんが...
このクライマックスの映像表現を観ると、やっぱり「B級アクションだなぁ〜」と思ってしまう。
続編で一気に映画が安っぽくなったと言われているようですが、その兆候はこの第1作でも既に出ています。
個人的にはこの安っぽさを逆に武器に換えて、映画を展開させて欲しかったと思うのですがねぇ・・・。

クライマックスのバイオレンスはなかなかの残酷描写で、
割れたガラスを使った映像表現はなかなか“痛み”をダイレクトに伝える表現でインパクトはあるが、
この映画を観ていて感じたことは、一つ一つのアクションのつながり悪く、いくら痛さを表現しても響かないことだ。

この辺はクリスチャン・デュケイの狙いがどういったことにあったのかがポイントなのだろうと思います。

まぁ、ウェズリー・スナイプスのキレ味抜群のアクションが観たい人にはピッタリの作品で、
ストーリー性やエンターテイメント性を問われると、チョット難点が多い作品かと思います。
ですので、本作が日本全国の映画館で拡大公開されたというのは、当時の映画産業の活況があったからでしょう。
(私の記憶では『タイタニック』のメガヒットから、2004年くらいまでは映画館も盛況でした)

実際、当時もそこまでヒットしていなかった記憶があるのですが、
今だったら、さすがに本作ぐらいの作品でも日本全国の映画観で拡大公開されるということはないでしょうね。

今はNetfrixなどの登場で、映画というエンターテイメントにも転換期を迎えていることは否定できないでしょうねぇ。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 クリスチャン・デュケイ
製作 リチャード・レイロンド
   ロン・ユアン
脚本 ウェイン・ビーチ
   サイモン・デービス・バリー
撮影 ピエール・ギル
音楽 ノーマンド・コーベイル
出演 ウェズリー・スナイプス
   ドナルド・サザーランド
   アン・アーチャー
   マイケル・ビーン
   マリコ・マチエ
   モーリー・チェイキン
   ケーリー=ヒロユキ・タガワ
   ジェームズ・ホン