アンドロメダ…(1971年アメリカ)

The Andromeda Strain

医者上がりの新進気鋭のサイエンス・フィクション作家として知られていた、
マイケル・クライトン原作の『アンドロメダ病原体』を、名匠ロバート・ワイズが映画化したSFサスペンス。

正直言って、さすがに時代を感じさせる映画ではありますが、それなりに緊迫感ある内容で楽しめます。
及第点レヴェルの映画と言っていい仕上がりだとは思いますが、どこか物足りなさが残るのは、
元々の原作の出来の影響もあるかと思いますが、ロバート・ワイズももうチョット頑張って欲しかった。

映画はアメリカ中西部の田舎町で、突如として未知の微生物が猛威を振るったと思われる
バイオハザードが原因で1人のアルコール依存症の老人と、1人の赤ん坊だけが生き残り、
残りの住人すべてが、血液が凝固して突然死してしまうことから、物語がスタートします。

アメリカ軍は、この事案を機密事項として扱い、
元々、政府機関で研究を行っていた、生化学に精通した学者たちを招集し、
農業試験場の事務所の地下に作られたシェルターで、短時間の間に原因生物の特定と、
バイオハザードに対する対処方法を探らせるという、過酷な業務を4人の男女中心に託します。

なかなか上手くいかない中、徐々に事実が明らかになるにつれ、
容易に原因生物を封じ込める方策がない上に、自分たちが感染リスクに晒されながら、命がけの業務になります。

僕は、この4人の学者たちの緊迫した調査活動に注力するのは良いと思うのですが、
もっと彼ら自身も感染リスクを負いながら、政府の指令に立ち向かわなければならないという、
スリルであったり逼迫した感覚を、もっと張り詰めた緊張感として描いた方が良かったと思うのですが、
ロバート・ワイズは映画の緊迫感を演出するために、そこには力点を置かなかったことが意外でしたね。

そのせいか、シェルターの自爆を止めるために医師出身の男性が立ち上がって、
シェルター中央部の梯子を上って、なんとかレーザー銃を交わしていくサスペンス劇も盛り上がらない。

それよりも、映画の冒頭にあるようなショック演出を特徴としたかったようで、
感染症に覆われた田舎町の死んだ人々の描写自体が、映画の中では際立って印象的だ。
この辺はロバート・ワイズの狙いがあるのは明白だと思うのですが、これ見よがしな感じなのは気になりますね。
こういう映画は、もっとさり気なくショック描写を交えた方がいいのですが、どうも過剰だったように映ります。

ロバート・ワイズも徐々にSF映画への造詣を深めていったように思いますが、
本格的に凝っていくターニング・ポイントとなったのは、明らかに本作だったのだろうと思いますね。
そんな彼がSF映画の映像作家として評価されたのは、79年の『スター・トレック』ですね。

これがどれだけ先進的な描写であったかは、さすがに当時を生きていないので分かりませんが、
学者が集まる地下シェルター(地下5階)のデザインは、作り込み方が本格的なもので中途半端さはありません。
(その他、特撮を担当したのがダグラス・トランブルだったというのもありますが・・・)

それにしても、原因生物がどういった化学構造で生化学的性状なのか、
詳しくは映画を観ただけでは分かりませんでしたが、もし仮に本作で描かれたような、
爆発のような外的エネルギーを自らの増殖のエネルギーに替えられるなんて生物があれば、
全くもって人類にとっては驚異的な存在としか言いようがなく、効果的な対処方法は皆無ですね。

本作では故意に過呼吸気味にして、血液のpHを上げるということが
対処方法として描かれているので、原因生物はアルカリ性に傾くと増殖ができない...
というか最適増殖pHが著しく狭い範囲であることが分かったので、pHを外すということが語られていますが、
血液のpHを上げるというのは、いわゆるアルカローシスと呼ばれる状態ですので、低カリウム血症を引き起こす
原因となりますので、一概に良い状態ではありませんし、故意に過呼吸にするというのは、とってもしんどい(笑)。

この発想自体は面白く、さすがは医学研究の道を歩んでいたマイケル・クライトンの発想で、
生化学を極めるがゆえに、現実的なハードルが明確になって、それらが現実にいれば・・・という、
逆手の発想で小説化されているというのが、単純なようで実に独創的でユニークなスタイルだったのでしょうね。

但し、僕がこの映画をあくまで及第点レヴェルの映画かなぁという感じ。

それは映画のコンパクトさに欠けるという点で、映画が全体的に冗長なものになっているのが残念。
映画の内容そのものからそうなのですが、全体に説明的になり過ぎた傾向があり、一つ一つのエピソードに
余分な時間をかけ過ぎてしまいました。その結果が、映画をスリムにできたのに、そうさせなかった印象があります。
そのせいか、映画の中盤は若干ダレる。そこが無ければ、もっと引き締まった映画になっただけに勿体ないですね。

それと、謎の病原体が大気の流れに伴う拡散により、
全世界へ広がることが懸念されたからこそ、“ワイルドファイア”が発動されたというのに、
何とも見せどころのないオチをつけてしまうあたりも、なんとも情けない終わり方だ。

2時間を超える大作であり、相応の見応えのある映画になる素質はあったのですが、
どこかポイントとなるところで、大きな難点があって、及第点レヴェルから突出することはできなかった感じです。
これはホントに勿体ないことで、この辺の反省はロバート・ワイズの中でも確実にあったものと思われます。
だからこそ、彼はこだわってSF映画を撮り続け、79年の『スター・トレック』を成功させたのでしょう。

マイケル・クライトンは残念ながら既に他界してしまいまいしたが、
彼のような専門的な見地から、独創的なSFを描く作家はなかなか誕生しないでしょう。
本作はオチこそ物足りなさを感じてしまうのですが、バイオハザードを描いた先駆的な一作と言えるでしょう。

今となっては、どこかカルトな映画ではありますが、
とても貴重であり、70年代前半に少しだけ流行ったカルトSF映画ブームの先駆けとなった存在だ。
こうしてみるとロバート・ワイズの映画監督としての幅広さ、そして器用さに感服します。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロバート・ワイズ
製作 ロバート・ワイズ
原作 マイケル・クライトン
脚本 ネルソン・ギディング
撮影 リチャード・H・クライン
特撮 ダグラス・トランブル
編集 スチュアート・ギルモア
   ジョン・W・ホームズ
音楽 ギル・メレ
出演 アーサー・ヒル
   デビッド・ウェイン
   ジェームズ・オルソン
   ケイト・リード
   ポーラ・ケリー
   ジョージ・ミッチェル
   ラモン・ビエリ
   リチャード・オブライエン

1971年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1971年度アカデミー編集賞(スチュアート・ギルモア、ジョン・W・ホームズ) ノミネート