アフリカの女王(1951年イギリス・アメリカ合作)

The African Queen

これはある意味で、とってもクサい映画だ(笑)。

だって、ハンフリー・ボガートのような男が無精髭を蓄えて、チョット汚い格好して、
いくら第一次世界大戦の最中の話しとは言え、あんな胡散臭い風貌な男から、甘い言葉をかけられても、
そう簡単に女性がなびくなんて・・・と思うのですが、彼の相手役がキャサリン・ヘップバーンとは、
また未亡人のようなキャラクターを演じているのが多い名女優だってのが、実に妙なキャスティングだ(笑)。

でも、この映画、たまにそんなキャサリン・ヘップバーンが可愛らしく見える瞬間は確実にある。
ハンフリー・ボガートとのロマンスという設定は賛否が分かれるだろうが(笑)、映画の仕上がりを良くしている。
やはりジョン・ヒューストンらしく、実に豪傑な内容に“華”を添える、スパイスの効いた存在になっている。

映画はC・S・フォレスターのロマン溢れる第一次世界大戦下のアフリカで、
宣教活動を行っていたヒロインに振りかかる危機を描いているのですが、どうやら当時のジョン・ヒューストンは
不真面目な映画監督であったらしく、キャサリン・ヘップバーンとの確執も大きく、実質的にスタッフに助けられて、
撮影を完了させたらしく、当時のジョン・ヒューストンはアフリカのロケ地で象狩りに夢中だったらしい。

とは言え、スタッフに恵まれたのか、映画の出来はなかなか良いと思う。
前述した通り、キャスティングで成功したような映画にはなっているが、それはそれで作り手の“手柄”だろう。

それと、デジタル・リマスタリングの力なのでしょうけど、
本作はジャック・カーディフによるカラー撮影の美しさに思わずビックリさせられます。
とてもじゃないけど、今から60年以上も前の映画とは思えないくらい、映像そのものが綺麗だし、
ほぼ船上のシーンでセット撮影も多かったとは言え、昼のシーンも夜のシーンもとても美しい。
本作でのジャック・カーディフのカメラは、ひょっとすると彼の最高傑作であると言っても過言ではないかもしれない。

虫の大群が2人に押し寄せるシーンはご愛嬌ではありますが、
このジャック・カーディフのカメラはロケーションも含めて、実に素晴らしいものがある。
これは映画史に残る、実に美しいフィルムであると言っても過言ではないのかもしれません。

時に可愛らしく見える瞬間があるとは言え、キャサリン・ヘップバーンもいつもの未亡人調のキャラだし、
本作のヒロインのような芯の強い女性を演じるに、ピッタリな女優であったことを考えるとキャスティングも絶妙だ。

そういう意味では、とっても恵まれたジョン・ヒューストンであり、
あまりに恵まれ過ぎたせいか、撮影そっちのけで趣味に走ってしまったのかもしれませんね(苦笑)。
まぁ、贅沢な企画ではあったのでしょうけど、当時の映画界のスタンダードを考慮すると、
本作は大きなチャレンジでもあったはずで、プロダクションも力の入った企画であったのでしょう。
それゆえ、ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘップバーンという最高のキャスティングが実現したのかもしれません。

本作は良くも悪くも、当時の欧米のアフリカ自体に対するイメージを象徴しているように思う。
勿論、現実、そうであったのだろうけど、今のように近代化が進んでいなかったせいか、
欧米から見ると、当時のアフリカの大地というのは、ロマン溢れる“冒険の地”であったことを強く象徴している。
(湖に浸かったら、体中にヒルが付くなんて演出もアフリカを“非日常的”に描くことに目的があったのかもしれません)

こういう描かれ方自体、おそらく賛否両論でしょうね。
当時の撮影技術を考慮すると、沼地のような浅瀬に入り込んでしまうシーンなんかは、
本作のスタッフも、よく頑張って撮ったなぁと感心させられるぐらいで、そうとうな苦労があったことでしょう。
ただ、この辺は当時の世界の映画の水準を考えると、ハリウッドしかできない芸当だったように思います。

どちらかと言えば、都会的な役柄を好んで演じていたハンフリー・ボガートですが、
そんな彼が本作のような、泥臭いキャラクターでオスカーを受賞したとは、なんとも皮肉なことですね。

前述したようにキャサリン・ヘップバーンはいつもの調子ですが、
やはりボギーは明らかに違っていて、彼にとっても大きなチャレンジであったのかもしれません。
ジョン・ヒューストンがそこまで見抜いて、ボギーの新たな魅力を引き出せたのかは疑問ですが、
それでも、アフリカの大地を舞台にした映画にボギーを上手くフィットさせたと思いますね。

前述しましたが、欲を言えば・・・ヒロインが何故、いとも簡単にボギー演じる郵便屋に
恋してしまい、彼に依存し始めるのか納得性ある展開にできていないところが、実に勿体ない。
確かに故郷から遠く離れたアフリカの地で、キリスト教の布教をしていた生活から、ドイツの軍艦を退治しに行くという、
奇想天外なアドベンチャーへと生活が変化するわけで、泥まみれの男に恋することぐらい大したことではないけど、
それにしても、2人が時にケンカしながら、時に一致団結して前進するわけですから、2人の感情の揺れ動きは
本作にとって、とても重要なファクターであったと思うので、作り手はもっと大事に描いて欲しかったですね。

しかし、クライマックスには2人が魚雷を打ち込もうと意気込んでいたドイツ艦隊に捕らえられ、
2人の奇想天外なアドベンチャーも最大の危機を迎えることになります。このラストの描き方は上手い。
さすがはジョン・ヒューストンと思わせられるぐらい、実にアッサリとトントン拍子で進めていきます。

90年にクリント・イーストウッドが本作撮影当時のジョン・ヒューストンをモチーフにして、
『ホワイトハンター ブラックハート』を発表したのですが、これは何とも興味深い展開だ。
それくらい本作撮影の準備そっちのけでジョン・ヒューストンが象狩りに夢中になっていたことは有名な話しで、
そういう意味では、よく本作が完成したものだと感心させられるぐらい、周囲は完成を危ぶんでいたらしい。

今となっては伝説的な逸話なのかもしれませんが、
当時のプロダクションからすると、笑えないほど緊迫した状況だったのかもしれませんね。
おそらく製作中止なんかになると、準備したキャスト、スタッフが全て無駄になるので大損害ですからねぇ。

それでも文句を言わせない映画を撮り切ってしまうわけだから、
ジョン・ヒューストンがハリウッドで大監督として君臨し続けられた所以なのかもしれません。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ヒューストン
製作 サム・スピーゲル
原作 C・S・フォレスター
脚本 ジョン・ヒューストン
   ジェームズ・アギー
撮影 ジャック・カーディフ
編集 ラルフ・ケンプレン
音楽 アラン・グレイ
出演 ハンフリー・ボガート
   キャサリン・ヘップバーン
   ロバート・モーレイ
   ピーター・ブル
   セオドア・バイケル
   ウォルター・ゴテル

1951年度アカデミー主演男優賞(ハンフリー・ボガート) 受賞
1951年度アカデミー主演女優賞(キャサリン・ヘップバーン) ノミネート
1951年度アカデミー監督賞(ジョン・ヒューストン) ノミネート
1951年度アカデミー脚色賞(ジョン・ヒューストン、ジェームズ・アギー) ノミネート