アクシデンタル・スパイ(2001年香港)

The Accidental Spy

95年の『レッド・ブロンクス』で意気揚々とアメリカに飛び出していった、
ジャッキーでしたが、ハリウッド・デビューを果たした98年の『ラッシュアワー』はそこそこヒットしたものの、
今一つ需要が無かったのかブレイクし切れなかったジャッキーが、いざ香港へ戻ると、
大々的に海外ロケを敢行したり、やたらとスケールのデカい映画を撮るようになっていました。

本作も映画の半分くらいは、大々的に敢行したトルコはイスタンブールでのロケ撮影で、
市街地で随分とド派手なアクション・シーンを演出しており、そのスケールの大きさにビックリさせられます。

劇場公開当時、日本でも規模の大きな映画館で上映されており、
当時はまだ日本ではジャッキーのネーム・バリューは健在で、そこそこヒットしていたように記憶していますが、
それは当時、日本でまだタレントとして記憶に新しかったビビアン・スーが出演していたということもあったかも。

今となっては、同じジャッキーのカンフー・アクションを見せる映画としては評価が悪く、
ハッキリ言って酷評されている作品なのですが、僕はそこまで悪いものではないように思っています。

ただ、本作あたりからジャッキーの悪い部分が見え隠れしているのは事実で、
それが良さという人もいるでしょうが、やはり「いつものジャッキーの映画」なんですよね。
これは良くも悪くも一貫性が貫かれており、おおむね予想のつく展開で、どこかで見たようなアクションが続きます。

相変わらずジャッキーのトボけた魅力で押し通していて、
常に観客のウケを狙っているかのような恣意的な部分の“押し”が強くって、これに飽きたという人もいるでしょう。
ただ一方では、「これだからジャッキーの映画は安心して観れる」という人がいるのも事実で、
それはジャッキー自身も分かっていることなのか、彼の映画はほとんど同じような感覚で構成しており、
おそらくこれは確信犯でしょう(笑)。ジャッキーが映画出演を続ける限り、これを持ち味とし続けるのでしょうね。

相変わらず、やたらとお尻を見せたがるジャッキーらしき、
映画の中盤にイスタンブールのサウナでくつろいでいたジャッキーが襲撃され、
素っ裸で市街地へ飛び出して、次から次へと道具を使って局部を隠しながら敵と闘い続け、
なんとか回避し続けるのですが、もうほぼ完全に“見えている”のですが(笑)、巧みに編集していますね。
ある意味で、こうやって“見えない”ように計算し尽くされたアクションを展開するあたりが、実にジャッキーらしい(笑)。

局部は必死に隠し続けるのですが、実に簡単にお尻を見せており、
緑色と橙色の粉末を左右に付けながら逃げ惑うジャッキーの姿を見ると、もはや露出狂の域ですね(笑)。
これは敢えてジャッキーはご自慢のお尻を見せたいからやっているとしか、僕には到底思えないです(笑)。

ただ、クライマックスのタンクローリーの見せ場は、ヒット作『スピード』のような展開なのですが、
これが本作の評判を悪くしてしまった理由かもしれません。この部分だけ、どうもジャッキーらしくないです。

彼らしく、スタントを使わず体を張ったアクションなのは良いし、別に暴走タンクローリーを安全なところで、
爆破させるという発想は良いと思うんだけれども、敵がアッサリと退場してしまうのはいただけない。
やっぱり面白いアクション映画というのは、敵が強いからこそ成り立つというセオリーを思い出させられます。
どうせなら、敵と一騎打ちになりながらも、タンクローリーを安全な場所に誘導するという危機を両立させて欲しかった。

あまり欲張るのも良い結果は生みませんが、本作はクライマックスの見せ場の大半を
スパイとしての敵との闘いではなく、派生的に描かれたはずのタンクローリーでの葛藤に費やしてしまい、
映画のスケールのデカさはアピールできたけれども、結果的に場当たり的な発想に見えてしまったのもあると思う。

どうせジャッキー印のアクション映画なのだから、映画の最後の最後まで、
彼らしいアクションで完結させられるような方向性に持って行けば良かったのに・・・と思えてなりません。

もう一つ言えば、ヒロイン的な役割かと思っていたビビアン・スーの描き方も中途半端。
これは日本人としての勝手な期待だったのかもしれないけど、もっと大きな役回りかと思っていたけど、
マフィアのボスの情婦で薬物中毒にされているというシリアスな役どころで、あまり扱いが大きくなかったのが残念。
個人的には彼女以外にヒロインらしいヒロインがいなかったのだから、映画のラストに彼女が絡むような、
何か大きな“仕掛け”を作っても良かったのではないかと思うのですが、やはりジャッキーの映画のせいか、
ストーリー上であまり細かな細工はできないだろうなぁと思えてしまうあたりが、ツラいところではあるのですがね・・・。

まぁ・・・ジャッキーの映画が好きで、むしろ変わらないことの魅力を許容できる人にはオススメ。

ただ、あくまでジャッキーのキャリアを冷静に思うと、いつまでも変わらぬ魅力というのが、
仇にならないかと思うことはあるんですよね。あくまで彼は香港映画界を象徴するパイオニア的存在として、
世界各国で認められた俳優ではありますが、いつまでもこのスタイルを続けられるわけではないでしょうから・・・。
こういったアクションができなくなったときのことを考えると、本作あたりから他の路線を模索するべく、
役者業としての岐路に立たされていたような気もしますね。ハリウッドでの活動が微妙であったから、尚更のこと。

今となっては、一時期ほど日本でもジャッキーの映画の扱いが良くはないので、
おそらく以前ほど固定的にいたファン層が薄くなってきたのではないかと思う。最近でも相変わらず、
ジャッキーは以前と変わらぬスタイルでカンフー・アクションを見せ続けてくれている。最後まで、貫くつもりなのでしょう。

ちなみに映画の序盤で、主人公が勤務する運動器具店でジャッキーが来店客に
器具を販売するためにと、必死に次から次へと運動器具を使ってPRする姿がコミカルで面白い。
その中でもバランスボールみたいなのに乗っかって様々な運動をするのですが、合っているのか間違っているのか、
よく分からないのが妙なのですが、これはジャッキーらしいコメディ・センスで持ち味全開という感じで楽しい。

ハリウッド進出したジャッキーは本作で香港に凱旋したのですが、
ホントにジャッキーがやりたいことは、やはり香港映画界でしかできないことの表れのようでもあり、
本作では『ラッシュアワー』などでは控え目だった彼の持ち味は、確かに存分に活きている。

80年代の頃と比べると、勢いは衰えてきてはいますが、
相変わらず元気いっぱいなジャッキーが観れると思うと、この映画を寛容的に観てあげたいと思えてきますね。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 テディ・チャン
製作 ジャッキー・チェン
    レイオンド・チョウ
脚本 アイヴィ・ホー
撮影 ウォン・ウィンハン
音楽 ピーター・カム
出演 ジャッキー・チェン
    ビビアン・スー
    キム・ミン
    エリック・ツァン
    アルフレッド・チョン
    ウー・シンクオ