テレフォン(1977年アメリカ)

Telefon

これは当時としても、チープな映画だったのではないかと思うのですが・・・
晩年のドン・シーゲルの監督作品という意味では、とっても貴重な映画なのかもしれません。

始めにことわっておくと、これはチャールズ・ブロンソンの映画と思ってはいない方がいいかもしれません。

例えば『狼よさらば』のようなストイックさもないし、
チャールズ・ブロンソンの腕っぷしの強さや、得意のガン・アクションを期待しても、
せっかくスパイという設定であるにも関わらず、本編にはそういったシーンがほとんどありません。

個人的にはドン・シーゲルの腕前からして、もっと面白く出来た映画かと思えるだけに、
チョット勿体ないというか、どこか精彩が無いなぁと思えて残念でなりませんでした。
やっぱり、ドン・シーゲル自身は76年の『ラスト・シューティスト』で全てを出し切ったのではないかと思えます。

映画は米ソ冷戦が始まり、核戦争の危機すらあった時代に、
実はソ連側で薬物洗脳が行われていて、その洗脳を受けた工作員たちが実は70年代のアメリカ社会に
平穏を装って現地民として住んでいて、自爆テロへと向かう“スイッチ”となる言葉を聞いた途端に、
猛進するかのように用意してあった計画に基づいて、すぐに自爆テロへと向かうようになっていたという設定で、
一方で米ソ冷戦の緊張緩和に向かっていた時代性を快く思わない、ダルチムスキーというタカ派のソ連政府の
関係者が単独で、次々と“スイッチ”を押すかの如く、工作員を自爆テロに向かわせ、米ソの融和路線に
傷を入れようと画策する姿を描いており、ダルチムスキーをドナルド・プレザンスが好演している。

ある意味で、この映画がカルトだなぁと実感させられるのは、
米ソ冷戦下でのスパイを描いた映画ではあるのですが、ハードなアクションやチェイス・シーンのような
動的なシーンが皆無であり、ドン・シーゲルの腕前からすれば、もっとエキサイティングな映画にできたと思う。

そもそも薬物洗脳ということ自体、現実味を帯びた手法だとも思えないのですが、
それはともかくとしても、自爆テロへと向かわせる“スイッチ”が言葉にあるというのが、どこかチープだ。

だからこそ、タイトルにもなっている電話が一つのポイントとなるアイテムなのですが、
そうなのであれば、もっと電話を生かした描写を見せて欲しかったし、クライマックスに至っては
電話じゃ本人につながらないからダメだから、直接言いに来るというのも、なんだかマヌケな展開だ。
それがダメだというわけではないのですが、どこか映画としてのスマートさは感じらないというのが本音ですね。
(まぁ、チャールズ・ブロンソンの主演作品なんでと言うと偏見めいてますが、スマートさは期待してないですがね)

但し、ホントのラストシーンはアダルトな終わり方ですが(笑)、
これは思わずニヤリとさせられるやり取りで、ここだけは作り手の気の利いた演出でしたね。

思わずドン・シーゲルもお得意のアクション演出で本領発揮できなかったものだから、
こういうところで楽しませようという魂胆だったのかと、疑いたくもなってしまいます。
個人的には、もっと主人公を演じたチャールズ・ブロンソンを動かせて欲しかった。
風貌的にも、ドシッと構えがちなチャールズ・ブロンソンなだけに、せっかくKGBの任務を受けて、
アメリカへ乗り込んで、自爆テロを阻止しようするわけですから、もっと動的な映画であって欲しかったですね。

この辺はドン・シーゲル自身、クリント・イーストウッドと組んでいた時代に
本作の企画と出会って映画化に向けて動いていたら、どういう映画になっていたのかと興味がありますねぇ。

せいぜいこの映画での見せ場と言えば、チャールズ・ブロンソンとリー・レミックが
逃走した犯人の先の行動を読んで、自家用ジェットをチャーターして飛んでいくというシーンくらいで、
本来は移動に富んだ映画なはずなのですが、どことなく空間的移動の感覚にも乏しい映画になってしまっている。
ドン・シーゲルの手腕からすれば、もっと動的でエキサイティングな映画になっていたはずなのですが、
こういった出来になってしまったというのは、それだけ制約の多い企画だったのか、晩年は元気がなかったのか・・・。

ドン・シーゲルが確信犯的にチープな映画を作ったとも思えないので、
おそらくは単に出来がイマイチだったのでしょうけど、せっかくのチャールズ・ブロンソンとの企画だっただけに
この映画の仕上がり具合は勿体ないとしか言いようがない。もっと積極的にアクションを撮れば良かったのに・・・。

僕はチャールズ・ブロンソンの映画を全て観たわけではありませんが、
この70年代後半からは、めっきりアクション・シーンを積極的にこなす感じではなくなってきた頃で、
本作なんかもマイナー・チェンジと言うか、少々、アクティヴに動いていた頃と差別化を図るような様相もあります。

しかし、洗脳の支配力の問題はありますが、平静を装って暮らしていた市民が
突如としてスイッチが入ったかのように無心に行動し、自爆テロに走るという恐ろしさはしっかり描かれている。

特に自動車整備工場で働いていた男が、電話を受けたその場で表情を一変させ、
爆弾を積んだトラックで軍事施設へと爆走を続け、軍施設に突入し、制止を図る軍人たちを次から次へと
車で払いのけ、目的とする施設へと突入する姿は衝撃的だ。しかし、それでもこの映画で描かれた
テロの間抜けなところは、次々と指令を出すダルチムスキーの情報が更新されていないせいか、
今は基幹施設とは言えない、老朽化した施設を狙ってしまうというあたりで、この辺は映画に緊張感が出ない所以。

そう、この映画のスリルが高揚しなかった大きな理由として、
映画で描かれるピンチの影響度があまり大きなものとは思えないというところがあって、
そこは原作はともかくとして、映画をエキサイティングなものにするために脚色しても良かったかと思いますね。

かつては日本でも頻繁にテレビ放送されていたようで、
それがしばらくDVD化されていなかったことから、鑑賞困難な作品の一つになっていたようですが、
今はめでたく某有名レンタルショップの企画でDVD化され、比較的、容易に観ることができるようになりました。

まぁ・・・何がなんでも観る価値があるとまでは言えないけれども、
ドン・シーゲルの監督作品を全て観ておきたいとか、チャールズ・ブロンソンのファンなら観て損はないでしょう。
本作は良くも悪くも、“お約束のチャールズ・ブロンソン”のキャラクターという感じで、それはそれで安心感があります。

但し、過度に期待しなければ...の話しですが・・・。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ドン・シーゲル
製作 ジェームズ・B・ハリス
原作 ウォルター・ウェイジャー
脚本 ピーター・ハイアムズ
   スターリンド・シリファント
撮影 マイケル・C・バトラー
編集 ダグラス・スチュワート
音楽 ラロ・シフリン
出演 チャールズ・ブロンソン
   リー・レミック
   ドナルド・プレザンス
   タイン・デイリー
   パトリック・マギー
   シェリー・ノース
   ジョン・ミッチャム