ティアーズ・オブ・ザ・サン(2003年アメリカ)

Tears Of The Sun

ナイジェリア内戦の最中、革命軍による虐殺行為が横行し、
現地の外国人にも危険が及ぶ可能性があるものとして、現地で医療行為を行うアメリカ人女性医師救出の
任務の命を受けた、任務成功率100%を誇る非情なまでに任務に徹する米軍部隊の死闘を描いたアクション。

監督は01年の『トレーニング・デイ』で高く評価を受けたアントワン・フークワで、
アメリカでは不入りなまま終わってしまった作品らしいのですが、僕はそこまで悪い出来の映画だとは思わない。

そりゃ、典型的なアメリカ視点から描いた戦争映画になってるし、
あまりに類型的な勧善懲悪な構図をストレートに描いており、こういう映画が好かない人にはキツいだろう。
まぁ良くも悪くも、アメリカの流儀を押し付けてくる作品ではありますが、とりあえず見応えだけはある。
それぞれの戦闘シーンの見せ方など、決して悪い出来ではなく、むしろ上手く見せていると思う。

あまり強く、イデオロギーに傾倒して映画を観ることは、
やはり映画の本質を見失っているような気がするので、僕はあまり好かない視点ではあるのですが、
確かにこの内容はひじょうにセンシティヴな部分に触れていて、特に勝手な内政干渉とも解釈できる、
人道支援をメインテーマにした作品なので、賛否が分かれて然るべき内容と言っていいだろう。

こういう風潮が本国アメリカにもあるのかないのか、よく分かりませんが、
かつてのハリウッド映画であれば、この内容で通用したのでしょうが、「9・11」での自国反省ムードも
追い風となってか、本作のような内容の映画がアメリカで不評だったというのは、世相を反映してますね。

忠実に現地の戦闘の激しさを表現することに徹したアントワン・フークワは賢明な判断で、
『プライベート・ライアン』のような戦場の緊張感や、ある種の恐怖感を見事に描けていると思います。

瞬間的には、“お涙頂戴”のような展開に陥りかけましたが、
クライマックスではそこそこ持ち直しており、ひょっとするとプロダクションの影響もあったのかもしれません。
いずれにしても、90年代ならば、もっと評価されたであろう視点から描かれた映画ではありますので、
言葉は悪いけど、チョットだけ時代遅れな映画だったという見方は、あながち間違っていない気がします。

おそらく、そういう教育を受けてきたがために、
どんな若い兵士であっても、革命軍の兵士たちが集落を襲撃して、
集落の女性に子供を産めないようにと、乳房を切り刻んでしまうという凄惨なエピソードもあって、
アントワン・フークワは異常なまでの緊張感を演出できていますが、一瞬、映画がどういう方向性に
向かって行っているのか、やや不安にさせられるような雰囲気が本作にあったのは事実。
そういう意味では、アントワン・フークワはもっと研究が必要でしょうね。彼なら、もっとできたはずです。

確かにアントワン・フークワの「事実を忠実に描きたい」とする意図はよく分かります。
しかし、あまりに凄惨な光景であったため、エキストラまでショックを受けたという生々しいシーン演出に、
この映画の本質があったのか...もっと踏み込んで言えば、ホントに事実を忠実に再現することが、
この映画の本来的な役割であったのかと聞かれると、それは僕は疑問だと言わざるをえないのです。

僕はショッキングな演出でも目を背けずに、キチッと真正面から描こうとした、
アントワン・フークワの姿勢は評価に値するとは思いますが、戦地でのアクション描写に終始した、
作り手の基本路線に、実は合っていないのではないかと。僕にはそう思えてならないのです。

本格的に、史実に基づいた生々しさを出すということであれば、
民族浄化の犠牲者になった集落の人々や、彼らの救済に奔走した外国人の姿にフォーカスして、
もっとこの映画で描かれた内戦に肉薄した内容になるべきだったと、観ている最中から感じてしまいましたね。

それと、内戦の混乱を何故、招いたのか?
そして、何故、非人道的で凄惨な民族浄化を堂々と行えたのか?
革命軍側の描写を全て放棄し、単に米軍側からの救出作戦のみを描いている点でフェアじゃない気がします。

いや、僕は極論、映画の目的がそこにあるのなら、それでいいと思ってるんです。
無理して、訳の分からないリアリズムとやらを押し付けるわけでなく、純粋にエンターテイメントに徹するなら。

少々、辛らつな言い方になってしまいましたが、
一つ一つのアクションはそこまで悪くないだけに、余計にそう思ってしまうのです。
特に革命軍からの執拗な追跡、そして襲撃を受けるという張りつめた緊張感は、まずまずだと思うんですけどね。

お世辞にも、明るくPOPな映画とは言えず、どちらかと言えば、
ミッションの難易度が高い様子を描いているわけで、どちらかと言えば、かなり暗い映画です。
まぁそれでも、ラストも含めて過剰な演出はせずに、冷静に描いた作り手の選択は良かったですね。

欲を言えば、僕は主人公が人道支援に目覚めて、任務無視をするほど、
主人公が心変わりしてしまった様子を、もっとしっかりと描いて欲しかったですね。
これがキチッと描けていれば、映画に説得力が出ていたように思える分だけ、勿体ないですねぇ〜。

モニカ・ベルッチも本作製作当時ぐらいまでは、ハリウッド女優として活動の幅を広げようと
積極的に映画に出演していたように記憶していますが、最近はマイペースに活動しているようですね。

本作なんかは、かつて“イタリアの宝石”と呼ばれた彼女にとっては、
長期間のハワイでのロケを敢行し、挙句に泥まみれ、傷だらけになるような過酷な撮影だったと思うのですが、
そんな覚悟の必要な作品にも果敢にチャレンジしており、彼女の熱意が芝居にも出ていると感じましたね。

但し、主演のブルース・ウィリスはもうこの手のアクション映画での主役はキツいなぁ〜。
さすがに年齢的なものもあってか、タフガイをアピールするには、さすがに体が重そうですね。
個人的には、ブルー・ス・ウィリスがいつまでも元気にアクション映画で頑張る姿は嬉しいのですが、
冷静に別な視点から彼の姿を観ると、正直言って、「もうこの手の映画は潮時かなぁ」とも思ってしまいます。

そういえば、ビル大佐を演じたトム・スケリットって、撮影当時、既に70歳だったんですねぇ。。。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 アントワン・フークワ
製作 イアン・ブライス
    マイク・ロベル
    アーノルド・リフキン
脚本 アレックス・ラスカー
    パトリック・シリロ
撮影 マウロ・フィオーレ
編集 コンラッド・バフ
音楽 ハンス・ジマー
    リサ・ジェラード
出演 ブルース・ウィリス
    モニカ・ベルッチ
    コール・ハウザー
    イーモン・ウォーカー
    ジョニー・メスナー
    トム・スケリット
    ニック・チンランド
    チャールズ・イングラム
    ポール・フランシス
    フィオヌラ・フラナガン