テイキング・ライブス(2004年アメリカ)

Taking Lives

カナダの都市モントリオールで頻発する猟奇的な未解決殺人事件の捜査をするべく、
モントリオール市警からの要請でワシントンからやってきた敏腕女性FBI捜査官イリアナを主人公に、
猟奇殺人事件の目撃者である画商のコスタを中心に目まぐるしく展開する事件の行方を描いた、
人気女優アンジェリーナ・ジョリー主演のサイコ・サスペンス。

まぁ初めてモントリオールを訪れるであろうイリアナを警察署で待っていたら、
一向に彼女は来ず、問題となる事件現場へ行ってみたら、その現場で横たわって、
事件の状況を推理しているイリアナがいた・・・なんて冒頭を観た時点で、
僕は「何となく胡散臭い映画だな」と思っていたのですが、最後の最後までこの印象は覆されませんでしたね。

まぁ映画の出来はさほど良いとは思えないし、
そこそこ売れ線のキャスティングなのに、全米で本作がヒットしなかった理由は分かる気がします。

監督のD・J・カルーソーは本作の後、次第にメジャーな映画を手がけるようになっていきますが、
正直言って、本作ではまだまだといった感じがします。まず、映画の構成が基本的に上手くいっていない。

映画の構成という観点からは、緩急が付けられていませんね。
映画の中盤までは許容範囲だったのですが、終盤のあまりに性急な処理は完全にNG。
せっかく映画の前半で構築した積み重ねが、全てパーになってしまったと言っても過言ではありません。

最もこの映画で不可解なのはコスタという男の行動だ。
まぁ不可解だからこそ、コスタという人物像を象徴させることができているのかもしれませんが、
やっぱり映画の中である一定以上の役割を果たすという意味で、彼の造詣に関しては解せない点ばかりだ。

イリアナはどちらかと言えば、おくてで不器用な女性。
だからこそコスタに惹かれるのかもしれませんが、イチャイチャして喜びを隠し切れない。
コスタも彼なりの好奇心と、イリアナという女性に対する興味から、彼女に接近するわけなのですが、
その数時間後にイリアナの好意を完全に裏切る行動に堂々と出るということ自体、理解し難いなぁ。
いきなりこれをやっちゃあ、映画が完全に壊れてしまいます。できれば、もっと時間をかけて欲しかったなぁ。

タイトルの“Taking Lives”とは、「他人の人生を乗っ取ること」らしいのですが、
確かに本作で描かれていることは、正しく他人の人生を次から次へと乗っ取っていくこと。
まぁ現実世界で考えると、なかなか難しいことだとは思いますが、末恐ろしい展開ですね。
映画の冒頭で、その始まりが描かれますが、この衝撃的なオープニングはかなりショッキング。
全体的に過激な痛々しい描写が多いのですが、これらは作り手の意図的な作風でしょう。

ただ、これらの痛々しい過激な描写がこの映画にとって、ホントに必要な描写だったかは微妙だなぁ。
確かにインパクトという意味合いで、映画に対する特徴づけはできるとは思うけど、チョット安直な発想だなぁ。

特に映画の中盤で生首ぶった切りのシーンがあったのは、さすがに引いたなぁ。
映画のバランスを突如として欠いてしまう、リスクの大きな描写であったことは明らかでしたね。

まぁミステリーの色合いが弱い映画ですので、連続猟奇殺人犯が誰なのかという点については、
この映画にとってあまり大きな意味を持っていないのですが、もう少しミステリアスにしても良かったかも。
少なくとも、主要登場人物に加えて、更にもう一人、アヤしい人物を作っても良かったと思いますね。
それと付随して、モントリオール市警の刑事を贅沢なキャスティングをして登場させておりますが、
ジャン=ユーグ・アングラードなど名だたる役者を、アッサリと退場させてしまうのもいただけませんね。

まぁ一方でアンジェリーナ・ジョリーという女優さんの器用さが出た映画でもありますね。
今までの彼女のイメージって、強い女性像であったり、何か内に秘めた情熱的な女性像だったりするんだけど、
ここまでオトメちっくな役柄をアッサリこなしてしまうとは、想像もしていませんでしたね(笑)。

コスタとの微妙な感情の揺れ動きの中で、照れながらコスタと視線を合わせるなど、
まるで少女マンガのような繊細な揺れ動きを表現しておりましたが、こういう感じの芝居ができるとは、
正直言って意外でしたね。おそらく初めてではないだろうか、彼女がここまで繊細な芝居をしたのは。

映画の設定そのものに問題は感じますが、
映画全体の構成・バランスがとても重要だということを、こういう映画を観るたびに改めて感じますね。

キチッとした原作があるわけですし、
おそらく作り手に経験があれば、もっと良い出来にすることができたと思う。
そうなだけにこのキャスティングが凄〜く勿体なく感じられる映画と言えますね。

クライマックスの犯人との対決シーンについても、かなり安直に感じられて仕方がないですね。
少なくとも映画を撮るからには、もっと用意周到に工夫して描いて欲しいと思います。
映画自体に時間的な制約があったのかもしれませんが、突然、急ぎ足になるかのようで不自然です。

ちなみに本作の場合はショッキングな描写はDVDで発売された時に初めて追加されたみたいですが、
生々しい映像表現が苦手な人にはキビしいかもしれませんが、それほどではないと思います。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 D・J・カルーソー
製作 マーク・キャントン
    バーニー・ゴールドマン
原作 マイケル・パイ
脚本 ジョン・ボーケンキャンプ
撮影 アミール・M・モクリ
音楽 フィリップ・グラス
出演 アンジェリーナ・ジョリー
    イーサン・ホーク
    キーファー・サザーランド
    ジーナ・ローランズ
    オリヴィエ・マルティネス
    チェッキー・カリョ
    ジャン=ユーグ・アングラード
    ポール・ダノ