私をスキーに連れてって(1987年日本)

80年代中頃から続いたバブル経済のおかげで、散々、贅沢の限りを尽くし、
人々が浮き足立っていた社会環境の中で、休暇を利用して一冬に何度もスキー旅行へと出かける
20代のサラリーマンとOLたちの恋愛模様と、ダイナミックなスキー・レジャーを描いたヒット作。

なんで今更、こんなバブリーな映画を観たかって、僕もよく理由は分かりません(笑)。

お世辞にも良く出来た映画とは言い難し、何かとコマーシャル性を意識した作りで、
トレンディ・ドラマやスキー・ビデオのような調子で続くので、正直言って、映画化する必要性は感じられない。

とは言え、これはこれで時代の空気を反映する一本。
「かつて日本にもこんな時代があった」という感じで、おそらく100年後には貴重な映像資料となっているでしょう。
バブル経済期は様々な意味で社会的な教訓をもたらしたので、もう二度とこんな時代は来ないと思います。
事実、21世紀に入って一時的な好景気に見舞われましたが、反動の大きさを恐れてか、
何とかしてバブル経済の二の舞にはしまいとする、無意識的な防衛機能ははたらいていたはずと思います。

ですから、21世紀に入ってからの好景気の時代も、人々は浮き足立たず、
何故か好景気であったことの実感も庶民生活レベルではあまり大きく感じることはありませんでした。

それが08年のリーマン・ショック以降、アメリカ経済の停滞の煽りを受ける形で、
日本経済も大打撃を受けたわけで、デフレの経済傾向も明白な形となり、本格的な低所得時代に突入しました。

残念ながら(?)、第二のバブル経済が実現せず、少なくとも物質的な華やかさ、豊かさを目指し、
「イケイケ、ドンドン」といった風潮は20年前の出来事として、まるで過去の遺物と化してしまいました。
それは90年代のバブル崩壊による反動があまりに大き過ぎたことが、良い教訓となり、
日本経済や国際経済においても、そして日本国民においても、第二のバブル経済は望んでいなかったのです。

何が言いたいかというと、第二のバブル経済が来ない限り、
本作のような企画はほぼ確実に立ち上がらず、映画の中にこういった空気を吹き込むことができないということ。

懐かしのホイチョイ・プロダクションが携わった仕事の一つなのですが、
89年の第二弾『彼女が水着に着替えたら』を製作するものの、バブル崩壊以降、一気に低迷してしまいます。
ホイチョイ・プロダクション自体がバブル崩壊の煽りを受けたことが原因ではあるのですが、
何より彼らの表現が社会情勢が変わってしまったことによって、求められなくなってしまったことが大きいでしょう。

それでも幾つかのテレビ番組の製作を手がけたり、99年に『メッセンジャー』という映画をヒットさせるなど、
まだまだエンターテイメント業界における影響力が健在であることをアピールはできております。

しかしながら彼らの映画に対するアプローチは僕は支持できない。
かなり厳しい言い方をすれば、映画をオモチャにするのはやめて欲しいと思う。
本作なども各企業とのタイアップあって、初めて成り立った映画になっているのですが、
それ以外に作為的な意図や観客に観てもらいたいシーンなどが一つもない。
悪く言ってしまえば、映画らしさの欠片もなく、何のためにスクリーンで公開したのかよく分からない出来だ。

映画をファッションの一部みたいに扱いたかったのかもしれないが、
いくらなんでもこの安っぽい作りのオンパレードには、どうしても賛同できない。
これぐらいの内容ならば、テレビドラマの2時間枠で十分な内容になってしまっているのです。

この映画の概観で褒めるところがあるとすれば、それは2点だけ。
1点は、前述したバブル経済という二度と訪れないであろう時代の空気を映画に吹き込めたこと。
もう1点は、『時をかける少女』の原田 知世をヒロインに抜擢したことだろう。
撮影当時は19歳だったと思うのですが、単にアイドルという感じを脱し、女優になりつつある感じだ。

スキー・シーンはほとんどインストラクター・ビデオみたいな感じなので、
あまりアトラクション性がないというか、緊張感もなく弛緩した感じなのが残念ですね。
恋愛パートのトレンディな感じも残念だし、やはり映画の本質を捉えている印象を受けない。

それから幾度となく4WD車をアピールするようなシーンがありますが、
これも何か作り手が勘違いしているとしか思えない。2人の女性が猛スピードでレースを始める様子を、
突如として早回しで表現しようなんて、申し訳ないが僕には論外の手法としか思えない。
そしてユーミンの全面バックアップは分かるが、クドいように音楽を流しまくるのも勘弁して欲しい。
この辺はバブリーだった時代の悪いところばかりが目立つ部分になってしまっていると思いますね。

映画の本筋とは関係ありませんが...
毎年、雪道走行している身として言わせてもらえば、雪道に必ず4WDが有効とは言い切れません。

路面状況にもよりますが、4WDは発進のときは良いだけで、
冬道運転の肝であるアイスバーンでの走行や、コーナリング、停止といった面では優位性はありません。
ブラックアイスバーンか圧雪アイスバーンかによっても走り方が大きく変わってきますので、
本作で描かれたような4WDだったら大丈夫でオシャレみたいな感覚は、チョット危ないと思います。
それと4WDは発進が良いので、路面状況に対する警戒が薄れ易く、発進が遅い車を追い抜こうとして、
スリップしたりスピンしたりして実際に他車を巻き込んで事故を起こしたりするので、余計に慎重さが必要です。

あぁ、そうそう。車に関して、もう一点疑問があって...
調子こいて雪道をブッ飛ばしてた姉ちゃん、セリカを見事に横転させたけど、どうやって群馬までたどり着いたの?

(上映時間98分)

私の採点★★☆☆☆☆☆☆☆☆〜2点

監督 馬場 康夫
製作 三ツ井 康
脚本 一色 伸幸
撮影 長谷川 元吉
美術 和田 洋
編集 冨田 功
音楽 杉山 卓夫
出演 三上 博史
    原田 知世
    原田 貴和子
    沖田 浩之
    高橋 ひとみ
    布施 博
    田中 邦衛
    小坂 一也
    鳥越 マリ
    竹中 直人
    飛田 ゆき乃