スイッチング・チャンネル(1988年アメリカ)

Switching Channels

まぁ、これは良くも悪くも80年代ハリウッドのお手軽に作っちゃった恋愛映画という感じですね。

シカゴのローカルなテレビ局で24時間ニュース番組を放送するチャンネルで、
人気ニュース・キャスターを務めてきた女性キャスターが、疲労困憊が原因で精神を病み始めたため、
離婚したばかりの元夫のプロデューサーが、バカンスを命じたことがキッカケでニューヨークのスポーツ用品会社の
経営者であるイケメン男子と出会い、恋に落ちたことでキャスターを退職すると宣言し、元夫は大混乱。

往年の名作である『ヒズ・ガール・フライデー』や『フロント・ページ』のリメークで、
クラシック・ハリウッドの古き良きドタバタ映画の面白さを再現しようとしたものと思われますが、
いかんせんテッド・コッチェフの演出が鈍重に観えちゃって、一つ一つの演出がどこか安っぽく見えてしまう。

ヒロインのキンバリーを演じるのは当時、立て続けにヒット作に出演していたキャスリン・ターナー、
相手役として元夫を演じたのがバート・レイノルズ、イケメン会社経営者を演じたのがクリストファー・リーブ。

当時、バート・レイノルズはヒット作に恵まれなくなり、俳優としての境目を迎えていた時期であり、
こういったコミカルな作品に出演しても、彼の当たり役とするのが難しい状況でしたが、本作でも大活躍。
対する、クリストファー・リーブは彼の代名詞と言える『スーパーマン』シリーズの仕事が一段落して、
新たな境地を模索していた時期で、本作ではイケメンでありながら少し嫌味なところを兼ね備えている。
それでいて、高所恐怖症のおかげでエレベーターで17階へ向かう途中でパニックになるというコミカルな演技もある。

残念ながらバート・レイノルズもクリストファー・リーブも故人となってしまいましたが、
彼らが元気に活躍している姿が貴重な作品ではありますが、映画の出来がもう一つ良くなかったのが残念。

テッド・コッチェフは『ランボー』が正解的にヒットしたのでアクション映画で有名ですが、
元々は77年に『おかしな泥棒 ディック&ジェーン』を出世作としていたり、コミカルな映画も撮っている人。
喜劇の撮り方を分かっている人なはずなので、本作ももっと面白い映画に出来たはずだと思うんですよねぇ。
舞台劇のように新聞社のビルで人々が右往左往するなど、ミニマムにでも楽しませようとする努力は見られます。

ただ、映画の全体構成が上手くいっていないのか、それぞれのギャグが単発で終わってしまう。
妙に張り切りまくるバート・レイノルズも、どことなく空回りしている印象でドッと笑わせてくれる感じではない。

この映画で描かれるキンバリーが勤務するテレビ局の描写が、なんかスゴいですね。
24時間ずっとニュース番組だけやっているという設定もスゴいですが、バート・レイノルズ演じるプロデューサーが
ほとんどテレビ局内のスタジオに隣接する自分のオフィスに住んでいるという状態なのもスゴいし、
元妻のクリスティからは「子作りするヒマもなかったんじゃないかしらん?」と言われる始末で、そうとうな入れ込みよう。
典型的なワーカホリックで、休暇が必要なのはキンバリーだけじゃなく、元夫にも必要だったのでしょう。

それが映画のクライマックスへの伏線となっていて、このラストにも思わずニヤリとさせられる。

しかし、バート・レイノルズ演じる元夫はキンバリーに未練タラタラな設定で、
実はキンバリーと離婚することは彼の本望ではなかったようで、キンバリーの仕事の都合で離婚に応じただけ。
休暇を命じたのもキンバリーの内面を考えてのことであって、別に新たな恋をしてこいという意図はなかったようだ。
それでも、突然、キンバリーが新たな恋をチラつかせてきて、いきなりニューヨークへ引っ越して結婚すると、
言い出すものだから元夫は大慌て。全く予想だにしない展開であって、彼はあの手この手で何とか妨害しようとする。

その日のうちに退職して、ニューヨークへ移動すると言い張るキンバリーを引き止めるために、
テレビ局の部下たちを総動員して、ホワイトソックスとカブスの両球団名でニューヨーク行きの航空チケットを
全て買い占めさせるという非現実的な荒業に出たり、キンバリーの恋人ブレインが高所恐怖症と知ると、
ブレインが欲しいものを買い物させるということを口実に、オフィスビルの17階へ行くように指示したりと、
とにかくありとあらゆる手を尽くし、その日のうちにキンバリーがニューヨークへ行くのを阻止しようとします。

それと同時に、キンバリーのジャーナリスト精神に火を点けさせるために、
キンバリーがそれまで熱心に取材してきた、とある死刑囚の死刑執行について取材に行かせて、
なんとかしてキンバリーを思い止まらせようとする反面、ブレインとの再婚には協力的であるかのように装います。

この辺が裏腹なところではありますが、キンバリーのことを愛しているがゆえの“強がり”でしょう。
それにしても、この映画のバート・レイノルズはとにかくよく喋る(笑)。リアクションやジェスチャーも大きいし。
バート・レイノルズはコメディ演技も、彼の持ち味の一つではありますが、このオーヴァーアクトは正直合っていない。
ただでさえ、少々ワザとらしい大袈裟な演出がある映画なので、もっと自然体で演じさせた方が良かったかもしれない。

どうやらクリストファー・リーブがラジー賞にノミネートされていたようですが、
中身的にはこのバート・レイノルズもノミネートの対象であっても不思議ではなかったと思いますね。
彼が演じようとすればするほど、どこか空回りしている印象でしたからね。彼のオーヴァーアクトに付き合うように、
彼の盟友でもあるネッド・ビーティも出演していますが、ネッド・ビーティもまた過剰な演技で正直、空回りしてるし。

この辺は監督のテッド・コッチェフがバランスをとらなきゃいけないところではあるのですが、
やっぱり少々、大雑把なところがあるテッド・コッチェフですから、そこまで求めるのは酷だったのかもしれませんね。

もう少し丁寧には描いて欲しかったなぁ。キンバリーの気持ちが揺れ動く面白さも無いし、
恋をとるのか、仕事をとるのか、といった究極の選択を迫られている雰囲気も弱い。もっと登場人物を追い込むような
緊張感が映画に欲しかったかな。どこか緩慢に映ってしまったところが、映画にとって悪い方向に機能したように映る。

もっと脚本を作り込んで、大胆にスラップスティックなギャグで笑わせるぐらいの勢いが欲しかったなぁ。
そういう意味では、コメディ畑でもっと経験豊富なディレクターが撮っていれば、映画は大きく変わった気がします。
80年代は数多くのコメディ映画の佳作が生まれた年代なだけに、正直、もっと適任者がいた気がしてならない。

映画の終盤は、ヘンリー・ギブソン演じる死刑囚を救い出そうとするエピソードに変わっていきますが、
80年代に急速にオフィスで普及していったコピー機をモチーフにドタバタ劇が展開されるのは印象的だ。
どうやらカラーコピーはできないタイプらしいのですが、このコピー機に執拗なまでにこわだるというのは面白い。
ただ、そこからコピー機をなんとかして持ち出そうとして、みんなが後を追いかけるという展開になってからは今一つ。

古き良きハリウッドを思い出させる演出ではありますが、これはワザとらし過ぎる。
この辺がテッド・コッチェフのコメディ・センスを疑いたくなるところで、もっとよく考えて撮って欲しかったなぁ。

まぁ、映画の途中でクリストファー・リーブ演じるスポーツ用品会社の社長のブレインが蚊帳の外になってしまい、
クライマックスが近づくと、半ば無理矢理にキンバリーに本音を吐露し始めるので、ブレインもメディア関係者という
設定の方が、まともにバート・レイノルズと恋の敵として対峙する相手になったので、映画は魅力的になったかも。
このブレインというキャラクターが中途半端に映ってしまったのが、本作にとっては最も致命的だった気がします。

キンバリーを演じたキャスリン・ターナーはそれなりに頑張っていただけに、どことなく勿体ない。
それこそ、キャスリン・ターナーが80年代はよく組んでいた、マイケル・ダグラスとダニー・デビート、
この2人と主演キャストを分かち合った方が、映画はグッと引き締まって面白くなったような気もしますねぇ。

『ヒズ・ガール・フライデー』から、このストーリーの映画化はドンドン質が落ちていった気がします。
ハリウッドが好きな企画なのだろうが、中身をもうチョット練り直して、よく考えてから作った方が良かったですね。
そう思えるくらい、本作はどこか安直な内容の気がします。これは正直、作り手の問題が大きいです。

大型のパラボラ・アンテナを蹴っ飛ばしたくらいで笑ってくれと言うのは、話しに無理があります。

(上映時間100分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 テッド・コッチェフ
製作 マーティン・ランソホフ
原作 ベン・ヘクト
   チャールズ・マッカーサー
脚本 ジョナサン・レイノルズ
撮影 フランソワ・プロタ
音楽 ミシェル・ルグラン
出演 キャスリン・ターナー
   バート・レイノルズ
   クリストファー・リーブ
   ネッド・ビーティ
   ヘンリー・ギブソン
   ジョージ・ニューバーン
   アル・ワックスマン

1988年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(クリストファー・リーブ) ノミネート