スウィングガールズ(2004年日本)

01年の『ウォーターボーイズ』が大好評だった矢口 史靖が、
今度は山形県の高校を舞台に、夏休みの補習授業を回避するために始めた、
即席的なブラスバンドにやがて夢中になっていく様子を描いた、瑞々しい青春映画。

こちらも大ヒットした作品ではありますが、映画の出来としてはチョット物足りない部分があるかなぁ。

だけど、僕はこういう映画は素直に応援したいと思いますね。
確かに劇場公開当時から囁かれていたように、主人公となる女子高生たちが
スウィングジャズに興味を持って、夢中になっていく過程に説得力がないのは致命的でもある。

加えて言うなら、ハッキリ言ってしまうと...
本作は『ウォーターボーイズ』の女子校生版であり、二番煎じと言われても仕方ない内容である。
つまり、たいへん申し訳ない言い方ではありますが、作り手に工夫が感じられない作品になってしまっている。

ただ、あくまで個人的な感想ではありますが、
やはりこれだけ元気な映画を撮ることができるディレクターは、もう日本にはそう数多くいないということと、
ベタな展開ではあるとは言え、照れ恥ずかしくなるぐらいストレートな青春を描いた映画を
堂々と真正面から描けたという点では、十分に評価するに値する企画であったと思いますね。

個人的にはこういう元気な映画がなかなか出てこない日本の映画界に於いて、
今となっては本作のような映画をもっと大切にしなければならないなぁと思うんですよね。

この映画、実は結構、手間がかかる構成になっていて、
本編では、夏と冬に明確に分かれていることもあってか、撮影も夏編と冬編に分けて撮影されたらしく、
撮影地は山形で統一したために、夏編と冬編で数ヶ月のインターバルが空いてしまったこともあり、
クランクインからクランクアップまでの総撮影期間は、半年以上にも及んだらしい。
(実質的には、1ヶ月半ぐらいしか、撮影に要した時間はなかったそうなのですが・・・)

応援したいと思える映画である反面、
欲を言えば、もう少し映画の出来については、なんとかして欲しかったなぁ・・・。
さすがにこれで「素晴らしい出来!」と称賛するには、あまりに寂しい内容です。

前述したように、補習を受けるのが嫌でブラスバンド部に届け損ねた弁当を届けようとしたのに、
届けた弁当で食中毒になったことが原因で、ブラスバンドの補欠に立候補して、
ビッグバンド・ジャズに夢中になるという展開には、あまり強い説得力が無いのがいただけません。
これは物語の導入部ですので、もっと慎重にしっかりと描かないと、映画が崩れてしまいます。

それと、もう一つ言えば、ルイ・アームストリングの曲を流しながら、
山中で獰猛な猪に襲われるシーンがあるのですが、このストップモーションがとても安っぽい。
こういう映像処理のつまらなさは、ホントに安直で感心できないんですよねぇ。

個人的にはこの映画の心意気はとても好きだし、応援したいからこそ、
作り手がどうして、こういうつまらないアプローチをしてしまうのか、まるで理解できないのですよね。

僅かな“お遊び”であれば、映画は崩れないかもしれませんが、
この映画の場合はもうアウトですね。完全に映画を壊してしまっている結果になってしまっています。
どうしても、この辺に作り手の力量が反映されてしまっている気がするんですよねぇ。

あと、竹中 直人演じる数学教師が今一つな存在感しか発揮できなかったのも残念。
確かに『ウォーターボーイズ』ではやり過ぎだと思ったけれども、それを察知してか否か、
本作での竹中 直人はどちらかと言えば、控え目な存在感で、クライマックスでも前へ出てこない。
今回まで控え目になってしまうと、さすがに何故、彼が登場してきたのか、よく分からない結果になってしまう。

とは言え、劇場公開当時から大きな話題となったのは、
出演者の中には素人も数多くいたにも関わらず、劇中で流れる音が生音かどうかはともかく、
ビッグバンド・メンバーは全員、猛特訓して実際に演奏できるようになり、海外の映画祭などに出品する際は、
実際にメンバー全員で現地で演奏を披露したりするなど、並大抵ではない努力を強いた企画だったらしい。

そういう意味では、何かに打ち込むことの素晴らしさを体現し、
映画の内容と出演者の演奏の腕が上達し、上手くシンクロした部分はあるのではないでしょうかねぇ。
(映画が完成に近づくにつれて、彼らの演奏も上手くなっていったはず・・・)

個人的にはこういう企画がバンバン立ち上がって、
映画の本来的な面白さが繁栄する時代になれば、素晴らしいことだと思うんだけれども、
そういう意味では本作のような映画が、如何に“後に続いていくか”が大きなキーになると思う。
矢口 史靖は2011年に『ロボジー』を作ったり、青春映画を何本か手がけていますが、
もっと他にもこういう瑞々しい感覚を活写できる映像作家が、数多く登場してきて欲しいと思うのです。

ハリウッドでも80年代の“ブラッド・パック”世代がブレイクした以降は、
あまり目ぼしい青春映画が出てきていないのが実情ですが、こういう元気な映画が登場するか否かは、
映画界の元気さ加減を象徴させる、一つの大きな指標になるような気がするんですよね。

こういう映画って、僕はヘタウマな感覚があると嬉しいのですが、
映画の前半で、初めて中古の楽器を集めて、演奏を合わせるシーンがあって、
個々がまるで違う方向を向いているかのように演奏し始めるのですが、最後の“〆”だけ如何にも
スウィング・ジャズっぽくまとめて、メンバーが「ひょっとしたら...イケるかも」とニヤリとするシーンが良い。
観終わってから考えるに、あのシーンがこの映画の中で一番、上手く出来たシーン演出だったと思う。
僕個人としては、あのシーンで実現した、あの雰囲気を凄く大切にして欲しいんですよね。

観客の力を揺さぶるほど、力強い映画とは言い難いけれども、
これからも大切にしていきたいタイプの映画であることは間違いありません。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 矢口 史靖
製作 亀山 千広
    島谷 能成
    森 隆一
企画 関 一由
    藤原 正道
    千野 毅彦
脚本 矢口 史靖
撮影 柴主 高秀
美術 磯田 典宏
編集 宮島 竜治
音楽 ミッキー吉野
    岸本 ひろし
出演 上野 樹里
    貫地谷 しほり
    本仮谷 ユイカ
    豊島 由佳梨
    平岡 祐太
    あすか
    中村 知世
    根本 直枝
    竹村 直人
    白石 美帆
    小日向 文世
    渡辺 えり子
    谷 啓
    西田 尚美
    徳井 優