スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師(2007年アメリカ)

Sweeney Todd/The Demon Barbber Of Fleet Street

これはジョニー・デップの人気もあってか、大ヒットしたのが記憶に残っています。
映画の雰囲気としては、如何にもティム・バートンの世界観という感じがしますが、絵的にスゴい内容です(笑)。

これはよくヒットしたなぁという印象なのですが、カニバリズム(人食)と凄惨な殺害シーンの連続で
これだけヒットした映画というのも珍しいんじゃないですかね? 僕は正直言って、この内容には驚きました。

実際、ティム・バートンも言葉は悪いけど、あたかも日常的な出来事のように
主人公ベンジャミンが理髪店を開いて、アラン・リックマン演じるターピン判事に対する復讐心から
自前のカミソリで来店客の首を次々と切り裂いていく様子を、無感情的に描いているのが異様に見える映画だ。

本作はホラーでダークでありながらも、どこかファンタジックでミュージカルな映画になっており、
ティム・バートンもいろんな表情を映画の中で見せていくのがユニークで、その辺がウケたのかもしれないですね。

かなり絵的にグロいので、刺激的な映画ではあるのですが、
それをスパスパ、スパスパ首を切りつけていくので、感覚的には心地良いリズム感覚に見えるのかもしれません。
前述したようにカニバリズムを描いている映画ではあるのですが、どちらかと言えば、ベンジャミンが理不尽に
理髪店の来店客を殺めていくシーンの連続に、映画のベースはベンジャミンの首切りでしょうね。

ちなみに98年にもベン・キングズレー主演で『スウィーニー・トッド』という映画がありますが、
同じ内容の作品ですけど、本作のようにミュージカル仕立ての作品というわけではありません。
全くベクトルの異なる映画ですから、本作が98年の作品のリメークとは言い難いところかもしれません。

でも、確かにユニークな映画ではあるのだけれども、僕はそこまで楽しめなかったなぁ。
ミュージカルは嫌いではなにで、まず、ミュージカル映画として観ると物足りないというか、どこか中途半端に映った。
ジョニー・デップやヘレナ・ボナム=カーターの歌唱は悪くないけど、決定的にミュージカルとしての躍動感が無い。
この辺はティム・バートンなら、もっとなんとか出来たはずで、ダークな雰囲気の映画にしたいとは言え、
ミュージカルらしさが希薄なのであれば、そもそも何故ミュージカル仕立てにしたのか?という疑問があります。

そして、ジョニー・デップ演じるベンジャミンと、ヘレナ・ボナム=カーター演じるミートパイ屋のエアヴェット夫人の
不思議な関係性と、ラヴェット夫人の一方的な思いというのは面白いけど、終盤の展開はあまりに唐突である。
もっと映画の早い段階から、それを“匂わす”展開は必要で、映画のカラクリは「なるほど」とは思ったけれども、
それでも納得性は弱い。一目惚れに近いような感覚を演出できていれば、いろいろと辻褄が合うと思うんだけどなぁ。

しかし、『ミシシッピー・バーニング』の有名な理髪店での尋問シーンを観たときも同じことを思ったけど、
こういうのを観ちゃうと、なんか理容店で顔剃りをしてもらうことが、少々怖くなってきちゃうな(笑)。
勿論、信頼しているんだけど、体を倒して首を上げて顔剃りをしてもらうわけで、ある意味で身を捧げた状態だ。

無防備かつ無抵抗にならざるをえない状況なのですが、カミソリを凶器にされるとホントに怖い。

僕は昔から理容店に行くのは髪を切ることよりも、どちらかと言えば顔剃りが楽しみ。
ホントに気持ち良いし、自分が剃っても出来ないところまで、しっかりと丹念に顔剃りしてもらえるので、
思わず寝ちゃうくらい気持ち良いし、金と時間が許すのであれば、毎日でもやってもらいたいくらいですもの(笑)。

そんな楽しみを、こういう映画を観て奪われちゃうのは、なんだか勿体ない。
というわけで、これからも理容店で顔剃りを楽しみたいのですが、冷静に思うと、いろんな肌質の人がいて、
誰しも剃り残しなくキレイに顔剃りするということ自体、結構な職人技だと思います。ヘアカットも技術とセンスが
物を言うことだとは思いますけど、あまり注目を浴びることはありませんが、顔剃りもスゴい技術だと思いますね。

なんか、この映画の中でも毎回、ベンジャミンが首を切り裂くわけではなくって、
普通にベンジャミンの鮮やかな顔剃りの技術を披露すべく、普通に顔剃りをするシーンもあるのですが、
それはそれで、首を切り裂くシーンを観てしまうと尚更、普通に顔剃るシーンもなんだか怖い(笑)。

スティーブン・ソンドハイムの原作であるようですが、これをヴィジュアルで堂々と表現した、
ティム・バートンのセンスがスゴい。顔そりがトラウマになったら、彼の責任だと思います(笑)。

言うわずもがなですが、血しぶきがビュンビュン飛ぶ、カミソリで首がパックリ割れると、
スプラッタな描写上等な映画ですし、ベンジャミンが殺害したら無感情的に階下に死体を落とすとか、
残酷描写をブラック・ユーモアとしているところがある作品です。そういう意味では、賛否両論あるでしょうし、
最初っから残酷描写が苦手な人は観ない方が賢明でしょう。それくらい、内容的にはカルトな映画です。
(音楽に合わせて、次々と首を切り裂いて血がブシャーッと噴き出すなど、賛否あるブラック・ユーモアです)

本来、ホラーな映画なはずなんだけど、どこかトボけた雰囲気の映画になったのは、
やはりジョニー・デップとティム・バートンのコンビによる映画だからかな。特にジョニー・デップが連続殺人鬼とか
言われても、正直ピンと来ないというか、あまり恐怖心を煽られるようなキャラクターではなくなっていますからね。

元々の戯曲がどうなっていたのかは、正確に把握してませんが、
この映画はベンジャミンがカミソリで首を切り裂く方をフォーカスしていますけど、物語としてはどちらかと言えば、
ミートパイの秘密にフォーカスした方がオリジナルに近そうだなぁと思うのですが、この辺はひょっとしたら、
ティム・バートンが考えてた本作のオリジナリティというか、独自の方向性だったのかもしれませんね。

そういう意味では、ベンジャミンの境遇に関する描写もチョット浅いのが気になる。
映画の冒頭で理不尽に愛する妻子を強欲なターピン判事に奪われるエピソードが描かれますが、
唐突にあれだけでは、ベンジャミンのキャラクターに悲劇性が生まれない。もっと彼の凶行の背景を描くべきだ。

勿論、倫理としてはベンジャミンの凶行は肯定されることはありませんが、
もっと彼の境遇を悲劇的に描いてターピン判事に対する復讐心を燃えさせる工夫は、あっても良かったと思う。

基本的にティム・バートンは本作の製作にあたって、ひたすら首を切り裂くことにしか
興味を持っていなかったのではないかと、思わず考え込んでしまいましたが、映画の世界観としては
いつもティム・バートンの調子で、ゴシック・ホラーの雰囲気いっぱいなのですが、細部は少々雑に観えた。

結局、僕の中で最後の最後までスッキリしなかったのは“そこ”でしょう。
ティム・バートンはもっと丹念に、エキサイティングな映画を撮ることができるディレクターのはずですので。
題材的に血生臭い描写があるのは理解するし、ある種、本作の場合はそれ自体がコンセプトなのも分かるが、
映画の骨格となる部分はもっとしっかり構築して欲しかったし、ミュージカルの演出は得手ではないように観えた。

とは言え、退屈だったわけではない。見どころは、それなりにある映画でラストの収まりも悪くない。

そうなだけに、首を切り裂くということだけではなく、何か映画の中で突き抜けたものが欲しかった。
その辺はベンジャミンとラヴェット夫人の関係など、多少の脚色をしてオリジナリティを出しても良かったでしょう。
最後の最後まで破綻しているようなクレイジーさもあっても良い。だってこの映画は、あくまでコメディなのだから。

それにしても...この映画を観た後には、ミートパイを食べたくなくなるかも・・・。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開版[R−15+]

監督 ティム・バートン
製作 リチャード・D・ザナック
   ウォルター・パークス
   ローリー・マクドナルド
   ジョン・ローガン
原作 スティーブン・ソンドハイム
   ヒュー・ウィーラー
脚本 ジョン・ローガン
撮影 ダリウス・ウォルスキー
編集 クリス・レベンゾン
音楽 スティーブン・ソンドハイム
出演 ジョニー・デップ
   ヘレナ・ボナム=カーター
   アラン・リックマン
   ティモシー・スポール
   サシャ・バロン・コーエン
   エド・サンダース
   ジェイミー・キャンベル・バウアー

2007年度アカデミー主演男優賞(ジョニー・デップ) ノミネート
2007年度アカデミー美術賞 受賞
2007年度アカデミー衣裳デザイン賞 ノミネート
2007年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
2007年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演男優賞(ジョニー・デップ) 受賞