新幹線大爆破(1975年日本)
最近、Netflix配信でリメークされて話題になっている作品のオリジナルです。
いやはや、このオリジナルは何度観ても面白く、手に汗握る緊張感みなぎる素晴らしい作品ですね。
後にハリウッド映画で94年に製作された『スピード』に酷似したアイデアを拝借されたり、評価の高い作品です。
当時の東映も威信をかけて作った作品と言ってもいいと思いますし、かなり勇気のいる企画だったと思います。
と言うのも、東京オリンピックに合わせて開業した東海道新幹線でしたが、
正しく新幹線は高度経済成長を象徴する乗り物であって、日本が誇る最先端技術の象徴でもあったはずです。
当時から、新幹線の安全理論は世界的にも高く評価されており、そんな新幹線がテロの対象になるなんて話しは、
映画化すること自体、とてもプレッシャーがあったことだったはずで、模倣犯の発生リスクだって議論されたようです。
確かに猛スピードで疾走する、安全な乗り物である新幹線に爆弾が仕掛けられて、
時速80km/h以下になる起爆する装置になっているなんて、現実に起きればあまりに怖過ぎる設定であって、
当時の警察当局からしても、本作の劇場公開にはかなり警戒していた部分があったのは事実だったようです。
実際、当時の国鉄は撮影協力に難色を示し、一時期は製作中止も噂されるほどでした。
しかし、この企画に執念を燃やしていた佐藤 純哉を中心としたスタッフが、国鉄の協力なしに撮影する方法を考え、
当時の東映からの指示もあって、隠し撮りと模型などのミニチュア、そしてセット撮影で撮影することになります。
それでも、疾走する新幹線の全景を捉えるのに、ロケ撮影は必要だったがために違う映画の撮影と偽って、
撮影スタッフに撮らせたり、国鉄以外の鉄道会社に協力を要請したりと、並々ならぬ執念を燃やした撮影でした。
その甲斐あってか、それはもう気合の入った良い映画に仕上がっています。
これは日本映画界を代表するパニック映画と言っていいほどで、もうこの熱量を持って作ることは難しいだろう。
逆に今の時代だったら、何でも出来るようになったがために、撮影にここまでの熱量が必要ではなくなったので。
この映画のキャスティングもスゴくって、爆弾を仕掛けられた「ひかり109号」の運転士が千葉
真一で、
その爆弾を仕掛けたのが高倉 健という当時の日本映画界を考えても、奇想天外と言っていいキャスティング。
主演の高倉 健も珍しい悪役なのですが、身勝手な犯行動機とは言え、どこか物悲しい犯人像でもある。
ただ高倉 健は生前、そういったただのテロリストではない雰囲気漂う、どこか陰のあるキャクラターに惹かれ、
事業に失敗した会社経営者が仲間も不幸な思いをするという追い打ちもあって、犯行を計画する姿を見事に体現。
数ある出演作の中でも、本作は結構なお気に入りだったようだ。これはこれで僕の中では意外なことでした。
まぁ、面白い映画ではありますけど、ストーリー的に違和感がないわけでもない。
東京から博多へ向けて疾走する“ひかり109号”に爆弾を仕掛けられて停車することができない、
という設定なわけですから、当然、1日の中の出来事を描いているわけですが、脅迫の信ぴょう性を高めるために
高倉 健演じる会社経営者の沖田に同調した元過激派の古賀が、北海道は夕張の車両基地で機関車を爆破し、
その足で千歳空港へ行き、羽田空港へ移動。そして板橋区の志村へ移動して警察に見つかって撃たれてしまう。
一方の沖田は沖田で国鉄へ脅迫電話をかけてお金の受け取り場所として指定した、
埼玉県秩父の長瀞渓谷で現金を受け取りに行った挙句、失敗して仲間を事故で失ってしまったり、
更に爆弾の設計図を東京都心部の喫茶店に置いてきたり、その後にアジトに帰ってきた後に羽田空港へ移動、
海外へ高飛びしようとするなど、とてもじゃないけど“ひかり109号”が博多へ着くまでの一日の間の出来事とは
思えないほどアクティヴで、尚且つ色々な騒動が有り過ぎな感が強い。致命的ではないけど、違和感はありました。
スピード制御が難しいにしろ、80km/h以下になると爆発するという設定であるとは言え、
解決策がままならないまま疾走する新幹線に対して、120km/hのスピードで巡行させるという判断も微妙だなぁ。
少しでも時間稼ぎしたい状況なのでしょうから、スピードは抑えられるだけ抑えることに越したことはないと思っちゃう。
とは言え、こうした限りある状況の中で手に汗握る攻防がありつつ、なんとかしようとする人々のドラマである。
これが熱くないわけがない。とにかくこの時代だから成し得た熱気を帯びた作品と言っても過言ではなく、
観ていても、おそらくゲリラ的に撮影したのだろうと分かるシーンがあるのも嬉しい。今なら、こんなことはできません。
“ひかり109号”の安全な車両に乗客を移動させて、連結を切り離そうという発想も奇想天外で面白い。
そのためにと、複線レールを利用して救援車両を横に並走させて、物資を“ひかり109号”に送り込むのがスゴい。
通常ならこんな発想を思いついたこと自体がスゴいと思うのですが、それをストレートに映像表現したのも驚いた。
状況的にそれくらいしなければ、“ひかり109号”を救うことができないという超法規的な判断だと感じさせられますね。
そして、映画の終盤はこういったテロ的な新幹線に対する攻撃に対して、
どう取り締まるか、そして今後の模倣犯を生まないために、どう警察組織は振る舞うのかという点で、
乗客を助け家族を安心させる人道的なモラルと、取り締まる側の都合という、その狭間に生じる苦悩をフォーカスする。
これは宇津井 健演じる運行司令部の担当者の苦悩に象徴されるのですが、
このテーマも悪くはないけど、少々クサい(笑)。なんとか“ひかり109号”を助けたいと、逃走する爆弾魔の沖田に
必死に説得する様子が、テレビで繰り返し放送されるのですが、感情に訴えようと必死になるも、その映像が警察に
良くも悪くも利用されていることを悟ると、途端に職務に燃えていたことが冷めていってしまう移り変わりが印象的だ。
彼の主張もよく分かる。実質的に人質に取られていた“ひかり109号”の乗客の家族からすれば、
早く安心する報道を知りたいはずなのですが、警察組織は犯人逮捕を第一にして、そのようには考えていない。
そうであるがゆえに、家族を安心させることよりも犯人検挙を優先し、真逆の方向に報道が過熱してしまう。
これは当事者からすれば、確かに怒り心頭だろう。しかも、“ひかり109号”の乗客の命をギャンブルするような
判断を下して、その実行役を担ったという良心の呵責を背負って生きていくことは、とても難しいと悩んでしまう。
この運航司令部の担当者はそんなことを深く考え込んでしまうくらい、真面目な性格で正義感が強い。
人道的には彼の主張や考えの方が正しいのだろう。が、そうであるがゆえに彼の必死なシルエットはクサく見える。
情に傾くのは良いけど、このキャラクターはもっと冷静沈着な性格の人間を描いた方が良かったと思いますね。
その方が本作の提起するメッセージとして、もっと力強いメッセージになったのではないかと思えるだけに勿体ない。
残念ながら、本作は日本での劇場公開では興行的に失敗となってしまいました。
東映の威信をかけた超大作だったのですが、題材的に当時の経済成長を象徴する乗り物であった、
新幹線をテロ攻撃の標的にするタブーなものであったことと、いかんせん上映時間が長かったことが災いしました。
特に日本の誇る技術の集大成とも言える新幹線の弱点を突いたというのは、逆に反感を買った面はあったはず。
鉄道の運転士はよく言うことですが、「鉄道を走らせるのは簡単。しかし、停めるのがスゴく難しい」ということ。
だからこそゲームの題材となるわけですが、時刻を守って走らせて、且つ乗客を怪我させずに位置を正確に停める。
これは普通に考えると、恐ろしいほど難しい。しかも、それを停車駅が多ければ多いほど、多くやるわけである。
その鉄道の肝とも言える停車、という絶対に必要な事象を真っ向から阻害するという手口だ。
これは恐ろしい。だからこそ、映画で描かれたように、対策チームのメンバーの一部では万が一の事態を想定して、
人口密集地帯や産業が集まる地域で爆発させるより、何も無い田舎で爆発した方が良い、という意見も出るわけです。
とても非情な意見であり、誰しも受け入れ難い部分があるにはあるのだけれども、一方でこういう議論もあるだろう。
残念ながらリスクマネジメントしなければならないセクションというのは、楽観視するのではなく、
常に最悪の状況や結果というのを想定して、リスク評価をして、備えなければならないのか判断を迫られる。
最終的には経営の判断でもあるが、最悪の状況や結果を想定しなかった時のほうが、より事態を悪化させるのです。
それを受け入れられないという人の気持ちもよく分かる。だからこそ、葛藤があるわけなのですが、
しかし、人間社会というのは常にこういったことの軋轢を繰り返しながら、歴史を積み上げていくのだろうなぁと思う。
大傑作とまでは言いませんが、これはずっと以前からリメークを望む声が多かったし、未だに根強い人気がある作品。
それは単純にパニックを描いた、単純に犯人vs警察の攻防を描いた、というわけではなく、どこか悲壮感すら漂う、
実に複雑な要素を抱えた犯人像を描いたこともあるでしょう。それを高倉 健が演じたというのだから、最高に贅沢だ。
忘れないで欲しい。日本映画だって、こんなに面白いエンターテイメントを撮れていたのだ...ということを。
(上映時間152分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 佐藤 純哉
企画 天尾 完次
坂上 順
原案 加藤 阿礼
脚本 小野 竜之助
佐藤 純哉
撮影 飯村 雅彦
美術 中村 修一郎
編集 田中 修
音楽 青山 八郎
出演 高倉 健
宇津井 健
山本 圭
田中 邦衛
千葉 真一
織田 あきら
郷金 英治
丹波 哲郎
志村 喬
竜 雷太
小林 稔侍
志穂美 悦子
多岐川 裕美
露口 茂