新幹線大爆破(1975年日本)

この映画はホントに何度観ても、凄いと感じる名画ですねぇ。

当時の東映が威信をかけて製作した、実に熱のこもった熱い、熱い夏休み映画で、
これを中高生くらいのときに映画館でリアルタイムで観ていたら、もう自分は大変だったでしょうね(笑)。

東京を定刻に出発した博多行きの、「ひかり109号」。
順調に東海道新幹線を約1,500人の乗客を乗せて、時速260キロで巡行し始めた頃、
公安当局に「“ひかり109号”に爆弾を仕掛けた。500万ドルを、ドル札でよこせ」と脅迫電話が入ったことで、
一気に映画が動き始めます。東京オリンピックを契機に開業した東海道新幹線ですが、
当時の国鉄...いや、日本国として見ると、新幹線事業は国策として整備を進めていたものであり、
今尚、確実性高く安全な乗り物として、技術を世界各国へ輸出するなど、国際的な評価も高い事業です。

日本独自の品質管理の研究から始まり、安全工学の考え方が日本企業を中心に
活発化する中で、日本の鉄道管理の世界では、ATC(列車自動停止装置の開発で一気に、
”フェイルセーフ“の考え方が浸透し、これを具現化させたシステムとして、何か事故やトラブルが発生すると、
必ず車両を安全に停車させて、二次的な事故が絶対に発生しないという仕組みを完成させました。

少々、話しはそれますが...
欧米の方々が日本の近距離通勤電車、特に山手線のような運行スタイルを見ると、
あまりの緻密さに驚くと聞きます。表示時刻は正確に動いており、2・3分の遅れでお詫び放送が流れる。
そして更に、過密ダイヤで凄まじい頻度で、電車をそれなりのスピードで運行させているのに、
大きな事故を起こすことがないという、構造的な強さに、驚きを禁じ得ないと聞きます。

時間の感覚もお国柄もあって、各国異なるとは思うのですが、
日本人は実際の忙しさや、求められる時間の正確性はともかく、予定が立たない時間管理を嫌いますからね。
ある意味で、日本人はもともと「そのうち・・・」とか、「早い段階で・・・」とか、欧米人の感覚にはない、
ファジーな議論を使いこなしてきた民族なのですが、社会が近代化したのに加え、殊、自分の予定に関しては
予定通りに進まないことを嫌い、そういったニーズが集中したのがインフラ産業という側面があるのかもしれません。

そこで鉄道業界で採り入れたのは、絶対に列車同士の衝突を起こさないために、
“閉塞”という考え方を採り入れ、古くはタブレットと呼ばれる標識を運転士と駅員が交換し、
タブレットを持っている列車だけが、単線区間に入れるといったことで工夫していたのですが、
そこから更にヒューマン・エラーを防ぐために、コンピューター制御することで仕組みをより強固なものにします。

映画はそんな当時の技術力が結集した新幹線の運行管理と、
絶対的な安全神話を作り上げつつあったと思われた、“フェイルセーフ”の盲点をついたような
時速80キロ以上に速度を上げたら爆弾のスイッチが入って、それ以下にスピードダウンしたら自動的に
爆破されてしまうという、ある意味で新幹線の立場からすると、どうにもやりようがない条件を突きつけます。

本作はキャスティング面でも凄い力が入っており、
なんせ「新幹線に爆弾を仕掛けたぞ」と脅迫するのが名優の高倉 健で、その新幹線を運転する
運転士が千葉 真一で、運行管理の指令を担当するのが宇津井 健という、今思えば、実に奇想天外なキャストだ(笑)。

この映画のキー・ポイントは幾つかあるのですが、
最も印象に残っているのは、タイム・リミットが短い中で如何に効率的な捜査を行って、
的確に犯人に近づくことができるか?という点ですね。ハッキリ言って、映画の中で描かれる警察はてんでダメだ。

何でもかんでも犯人の言いなりになれば良いということではないが、
何故か欲張って犯人をその時点で捕まえようと、まるで反対側の遠く離れた地点にいる、
犯人と思われる若者を見つけ、大声で「捕まえてくれェ!!」と叫び、アッサリと若者を取り逃がしてしまうし、
逃げる若者をバイク・チェイスの果てに、不慮の事故とは言え、簡単に若者を事故死させてしまう。

タイムリミットが迫る中で、事件解決のためにヒントを増やさなければならない状況で、
この警察の無謀さは映画の中であまりに目立ち、事件の解決を故意に遅らせているように映る。
しかし...現実の事件捜査とは、時にこんなものなのかもしれない。トライ&エラーだと言えば、聞こえはいいが・・・。

結局、「こんな警察には任せちゃおれん!」と運行管理部門では
独自の動き方をとって、警察が犯人を拘束して、カラクリを聞き出すことに頼るわけではなく、
映画の途中から、何とか新幹線同士の事故を回避しながら、爆発物の処理をするための時間稼ぎをしようとします。

その過程の中で、あまりに無責任なことを言う警察側との熱いやり取りも、この時代ならではのものだ。
やはりここは、宇津井 健がこういうキャラが似合う(笑)。故障車両が線路を塞げば、なんとか浜松駅で
時速80キロのギリギリまでスピードを落とさせて、分岐を経て、隣の線路に転線させるなど迫力満点だ。

そうです、この映画のスピードダウンしたら爆発物が起動するというアイデアは、
映画ファンならどこかで聞いたことがあると、ピンと来るかと思いますが、本作は95年に大ヒットした、
キアヌ・リーブス主演の『スピード』のアイデアは、本作にあるようで、ホントに先進的な発想の映画でした。

何度観ても、手に汗握る熱のこもった人間臭い映画で、
『スピード』のようなエンターテイメント性を追求した作品とは、毛色が全く異なる作品ではありますが、
本作のカリスマ性はやはり凄まじく、アンチ・ヒーローに徹した高倉 健もインパクト強い熱演だ。
(クライマックスの空港でのシーンは、チョットだけスティーブ・マックイーンの『ブリット』を想起させるが・・・)

本作は特撮技術を多用せず、多くのシーンが実写で撮影されている。
その中でも、さすがに新幹線が浜松駅で転線するシーンなどは、模型を使った撮影となりましたが、
この新幹線の模型を作るのに当時、2,000万円をかけており、この模型は出色の出来映えだったそうだ。

日本映画にしては珍しいパニック・アクション大作で、当時のハリウッドのパニック映画ブームに
乗っかったようになりましたが、映画全体を支配する緊張感と悲壮感があまりに強烈なインパクトがある。

犯人のバックグラウンドに学生運動の名残があるというのもあるのですが、
売血という今は無きことをしてまでも、生活費を工面できなかった貧しい若者に同情したという設定が、
映画の根底にある悲壮感を象徴していて、惜しいのは、高倉 健がどうしてここまで若者の面倒をみることに
尽力していたのか、その明確な理由を描いていないことは、この映画のミステイクだと感じます。

致命的とまでは言わないにしろ、映画に重厚感が出なかったのは、ドラマ部分の弱さでしょう。

完璧な映画とまでは言えませんが、劇場公開当時、宣伝不足で本作自体はヒットしませんでした。
しかし、今一度、日本映画界も思い出して欲しい。こんなにエキサイティングな映画が撮れたということを!

(上映時間152分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 佐藤 純哉
企画 天尾 完次
   坂上 順
原案 加藤 阿礼
脚本 小野 竜之助
   佐藤 純哉
撮影 飯村 雅彦
美術 中村 修一郎
編集 田中 修
音楽 青山 八郎
出演 高倉 健
   宇津井 健
   山本 圭
   田中 邦衛
   千葉 真一
   織田 あきら
   郷金 英治
   丹波 哲郎
   志村 喬
   竜 雷太
   小林 稔侍
   志穂美 悦子
   多岐川 裕美
   露口 茂