海峡(1982年日本)

これは記録映画としては良いと思うのですが...
最初に申し上げると、この映画を通して、作り手が何を描きたかったのか、ハッキリと感じ取ることができなかった。。。

地質調査から始まって約25年かけて、パイロットトンネルを貫通させた青函トンネル。
地質調査から心血注いで家庭を顧みずの生活で、青森県竜飛地区に暮らして掘削現場の所長に
就任して、現場作業員と共に苦楽を共にし、幾多の落盤事故で犠牲者を多数だしながらも
執拗なまでトンネル貫通への情念を燃やし、掘削現場を率いていく姿を描いたヒューマン・ドラマ。

この時代の高倉 健と吉永 小百合の共演というのは、ある意味で日本映画の“鉄板”ですが、
正直、この出来ではチョット勿体ないというか、何とも言えない不発感が漂っています。

いや、確かにこの一連の作業は映画化するに値するヴォリューム感だし、
事実として本作の時点で、壮大な物語として描かれていますけど、青函トンネル自体は
本作が劇場公開された5年半後に開通し、当初から新幹線が走行する規格で作られたトンネルなだけあって、
2016年春にようやっと、北海道新幹線が開通し、当初の構想を実現させるに至ります。

当時の技術力を結集し、多くの殉職者をだした工事ではありますが、
それでも彼らの苦労が無ければ、当然、青函トンネルは無かったでしょうし、
運輸は勿論のこと、物流の観点でも最近はモーダルシフトなどの観点からも、必要不可欠な存在と言えます。

私も実際に北海道新幹線に乗りましたが、やはり函館から東北地方へのアクセスは
格段に良くなったと言っていいでしょうし、特に北日本は雪との闘いがありますから、
飛行機が使えない天候のときの代替手段としても、その意味はとても大きなものでしょう。
つまり、青函トンネルは人々の暮らしを快適にすることに、大きな意味があると言えると思います。

そんな大プロジェクトだったからこそ、この映画で描かれるべきことはたくさんあるだろうし、
映画の冒頭で触れられたように、青函トンネルの着工への大きな後押しとなったのは、
洞爺丸の沈没事故で、多数の犠牲者をだしたということでして、その点をしっかり描いたのは良かったと思う。

但し、本作でとっても残念に感じたのは、
まず、主人公の現場所長の家族の描写があまりに中途半端で、まったく訴求するものがない。

時代性もありますが...描かれる女性たちは、“待ち耐える”ということを主眼に置かれ、
ほぼ見せ場がないまま、一体何のために描かれたのか、よく分からないまま映画が終わってしまう。
確かにクライマックスの喫茶店での妻の表情が、全てを物語っているとは思いますが、
個人的には家庭人としての側面にスポットライトを当てて欲しかったし、もっと彼女たちをキチッと描いて欲しかった。

そうでなければ、映画のドラマ性は磨かれないし、家族の描写をする必要性が示されないのです。

この添え物のように家族が描かれるから、掘削が進んでいくシーンをたびたび中断させられるように見え、
映画の流れを阻害しているように感じられるし、それぞれが何を意図していたのか、結果としてよく分からない。
結局、中途半端に家庭を描くならば、もっとトンネルを掘り進めていく人間模様に注力すれば良かったのにと思える。

それから、もう一点。
この映画は致命的なほどに演出が大味過ぎるし、細かな部分で大雑把なところが目立つ。

トンネル内の撮影は、工夫しながらよく頑張ったのだろうと思いますが、
例えば、トンネル内の資材運搬車両の資材が崩れ、トンネル案内を行っていた一人が
資材に潰されて犠牲になってしまうシーン演出にしても、スローモーションを使って表現するのですが、
何故か資材にぶつかる前から、既に口から血が流れていたり、その他にもダイナマイトで岩盤を崩した部分でも、
既に岩盤の下にレールが敷いてあったりと、何かと粗い演出が目立ってしまって、悪い意味でいい加減だ。

函館の工業高校を卒業する直前で、パイロットトンネルの掘削工員としての
二次面接を受けに来た三浦 友和にいたっては、どう見ても高校3年生にしては老けているし(笑)。

彼は彼で精神的に荒れていた難しい時期に工員になったわけで、
当然、映画の中でも先に入っていたベテラン工員たちとの軋轢があるわけなのですが、
もっとそんな中での葛藤や、精神的支柱になる森繁 久弥演じる“オヤジ”との心の交流など、
ドラマ性を掘り下げるためのアプローチがあっても良かったなぁと感じますね。とても重要なキャラクターなだけに。

単なるトンネルを作ることになった契機や、トンネルを掘削する中での
幾多の落盤事故などで殉職者を多数だしたことを描く記録映画としてであれば優秀だと思うのですが、
わざわざ東映が出資しして、豪華なキャスティングをしてまで2時間を超える映画に編集するのですから、
もっと人間模様を掘り下げて描いて欲しかったですね。この映画はどこか悪い意味で、表層的な印象を受けます。

日本には、黒部ダム建設をテーマに描いた『黒部の太陽』があるだけに、どうしても比較されてしまいます。

子供心に、かつて青函トンネルを何故、下北半島から函館市へ直行させなかったのだろうかと
疑問に思っていた時期がある。津軽半島側は、映画でも描かれた通り、青森市を過ぎると小都市もなく、
観光地というにも当時はそういうわけではなかったし、下北半島の方がまだ、むつ市があったり、
八戸から下北半島寄りに分岐すれば、北海道までの速達性も上がると地理的には読めました。

ただ、実際は下北半島から函館市までは、確かに直線距離は短いのですが、
津軽海峡と比較すると海底の深さが深くて、尚且つ断層があるとも推定され、近くにある恵山にいたっては、
標高が低いものの、れっきとした活火山ということもあって、津軽海峡を通すルートが選定されたらしいです。

おかげで青森県内としては、相変わらず下北半島が青森市からも遠い距離感であることが変わらないため、
特に大間の人なんかは、フェリーで90分なので函館に行った方が近いという感覚らしいのです。

こうしたことは映画では描かれていませんが、
青函トンネルもルート選定が下北半島であったら、またその後の状況が変わってきたのかもしれません。

(上映時間142分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 森谷 司郎
製作 田中 友幸
   森岡 道夫
   田中 寿一
   森谷 司郎
原作 岩川 隆
脚本 井出 雅人
   森谷 司郎
撮影 木村 大作
美術 村木 与四郎
編集 池田 美千子
音楽 南 こうせつ
出演 高倉 健
   吉永 小百合
   三浦 友和
   森繁 久弥
   大谷 直子
   伊佐山 ひろ子
   東野 英心
   小林 稔侍
   中川 勝彦
   小林 昭二
   山谷 初男
   大滝 秀治
   笠 智衆
   北村 和夫