ストーン(2010年アメリカ)

Stone

01年の『スコア』以来、9年ぶりにデ・ニーロとエドワード・ノートンが共演した作品であるにも関わらず、
ほとんど話題にならずに劇場公開が終了してしまったサスペンス映画で、確かにこれは地味な作品でした。

ひじょうに判断に困る内容でしたが、まぁ駄作とは言えないでしょう。
しかしながら、トリッキーな展開があるわけでもなく、激しい動きのある映画というわけではなく、
ドラマを一つ一つ積み重ねて演出していくスタイルの映画なので、評価されにくいかもしれませんね。

映画はデトロイト郊外が舞台で、
刑務所で服役者の更生を評価し、仮釈放を判定するジャックが定年直前に
最後の仕事として取り組んだ殺人犯ストーンという男の仮釈放判定の案件について描きます。

当初はジャックの質問攻めに苛立っていたストーンが
彼の妻ルセッタにジャックを誘惑させて、色仕掛けでストーンの仮釈放を早めるように目論むものの、
ジャックは頑なにルセッタの電話攻勢を交わし、日頃の生活のウップンを抑えようとするものの、
結局はルセッタの誘惑に負けたジャックは、彼らの目論見にハマり、着実に破滅に向かっていきます・・・。

まぁストーンの本性もよく分からないまま映画が進んでいくのですが、
果たして、本能の赴くままに行動するルセッタも、ストーンの指示に基づいているのか、
それとも彼女の単独意思なのか、不透明なまま映画を進めていったのは、上手かったとは思いますね。

が、やはりこういう内容であるのなら、ルセッタの描き方はもっと考えて欲しかったですね。
ジャックも精神的に抑圧されたウップンを抱えていたことはよく分かるのですが、
2人が一線を越えてしまうまでの過程に関しては、全くこの映画は弱いとしか思えないですね。
ジャックはジャックで何十年も妻との暮らしを送ってきたわけで、確かにジャックの振る舞いに問題はあったにしろ、
大きなリスクを顧みずにルセッタの誘惑に乗るなんて、それ相応の強い誘惑でなければ納得性が出ませんね。

本作でミラ・ジョボビッチはヌードになったり、甘えた声で電話かけたりはしますが、
僕にはジャックがいくら酔っていたとは言え、ルセッタの誘惑に乗ってしまうだけに説得力は
この映画には無かったように思うんですよね。結局、この難点が僕の中では致命的でした。

それと、役柄のせいもあるけど、デ・ニーロもエドワード・ノートンもおとなし過ぎましたね。
デ・ニーロ演じるジャックは、映画の冒頭で描かれたように過去に何度も妻子を怖がらせたりと、
精神的に問題を抱えたまま年老いてしまったのですが、そういう正常ではない側面もあるだけに、
年老いてからのジャックにも、そういった正常ではない側面の片鱗を見せても良かったと思うんですよね。

エドワード・ノートン演じるストーンも正体が不明瞭な感じで映画が進んでいくのは面白かったけど、
映画の最後の最後まで煮え切らない不完全燃焼のような感じで、彼のファンには物足りないかもしれません。

単純にデ・ニーロとエドワード・ノートンの演技合戦という意味合いでは、
前回の『スコア』と比べれば、それは本作はかなり落ちるかなというのが、正直な印象です。
この辺は作り手が上手く制御してあげなければいけませんね。これは大きな反省点だと思います。
あまり演者に頼ってはいけないと思うのですが、本作は悪い意味で彼らの魅力を引き出せていない感じです。
(まぁ・・・これはシナリオの時点で、大きな問題があったと言えるのかもしれませんがね。。。)

『スコア』はコンゲーム(騙し合い)の要素も強かった映画ですから、
2人の駆け引きを楽しむ要素があったのですが、本作は一見すると駆け引きがあるようで、
どちらかと言えば、ジャックの精神的な葛藤をメインテーマとしていて、決して2人の駆け引きではないのですよね。

もう一つ指摘させてもらえれば、サスペンス映画特有の緊張感が希薄なのも気になりましたね。
映画の冒頭で若き日のジャックがトンデモない行動に出て、彼の異常性を描くのですが、
このシーンだけが突出した緊張感を引き出していて、結局、この冒頭シーンを最後まで超えられず、
ポイントを間違えてしまった作品になってしまっており、肝心かなめのサスペンスが盛り上がりませんでしたね。

監督は04年に『夫以外の選択肢』で高く評価されたジョン・カランで、
一つ一つのシーン演出は及第点だと思うのですが、要所を締められなかった印象がありますね。
やはりサスペンス映画として、緊張感が希薄でサスペンスが盛り上がらないというのは致命的ですね。

そのせいか、ほとんど話題にならずに劇場公開が終了してしまい、
興行収入成績も散々たる結果で終わってしまったそうで、赤字となってしまったそうです。
これは凄く勿体ないんだよなぁ。デ・ニーロとエドワード・ノートン共演なのですから、
もっと話題になっても良かったのに。やはりこれで少しは火花散るような2人の駆け引きがあれば、
もっと映画は変わっていたでしょうし、そうなっていれば多少は収益も良かったでしょうね。

それにしてもジャックはかつてから妻子に一切興味を示さずに、
テレビでゴルフ中継ばかりを観ているのですが、妻から「上の空ね」と嫌味を言われても、
何も言い返さず、平然としているというのが、ある意味で凄いですね(笑)。
まぁかつてのジャックの異常性を考えれば、これも納得性に欠ける態度ではあるのですが、
あんなに露骨に嫌味を言われても、何一つ感情を露にしないジャックのズ太さ(?)は、あそこまでいけば凄い。

今や熟年離婚が普通にある時代ですからね。
それまで耐えてきた妻が定年退職後に夫を見切るというのがセオリーみたいなのですが、
夫は夫で不満があれば、年甲斐もなくブチまけて口論になるというのも、普通にあるみたいですからねぇ。

そう考えれば、実は本作も熟年離婚をテーマにしていた映画だったのかもしれません(笑)。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−15+]

監督 ジョン・カラン
製作 ホリー・ウィーアズマ
    ジョーダン・シュア
    デビッド・ミムラン
脚本 アンガス・マクラクラン
撮影 マリス・アルベルチ
編集 アレクサンドル・デ・フランチェスキ
出演 ロバート・デ・ニーロ
    エドワード・ノートン
    ミラ・ジョボビッチ
    フランセス・コンロイ
    エンヴェア・ジョカイ
    ペッパー・ビンクリー