スティング(1973年アメリカ)

Sting

個人的にはアカデミー作品賞は、少し過大評価にも思えるのですが・・・
今となってはマフィアの金を“誤って”盗んでしまった詐欺師が、仲間を殺されたことに
復讐を誓って、シカゴNo.1の詐欺師と組んで、マフィアのボスを騙そうとする姿を描いた古典的名作。

69年の『明日に向って撃て!』で名コンビとなった、
ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが再び組んだわけですが、
彼らをつないだのが、『明日に向って撃て!』の監督ジョージ・ロイ・ヒルだというのも、また妙。

タイトルが“騙し”となっているだけに、入念に準備を重ねた壮大な詐欺を
はたらくまでを華麗に描いているのですが、やっぱりこれはジョージ・ロイ・ヒルの映画だ(笑)。
どこか楽天的で、良くも悪くも映画に緊張感がない。これが本作への賛否の分かれ道。
勿論、面白くないわけではないんだけど、どこか映画に風格が伴わず、悪い意味で映画が軽い。

『明日に向って撃て!』と同様に、クライマックスにこだわった部分も大きかったと思いますが、
劇場公開当時は驚かされたラストのドンデン返しだったのでしょうが、今となっては古典的なラストだ。

73年のハリウッドと言えば、アメリカン・ニューシネマ隆盛期だったはずですが、
『明日に向って撃て!』では遅すぎた青春を、逃避行するアウトローに投影して、鮮烈なまでの
ラストシーンで強烈なインパクトを残したせいか、アメリカン・ニューシネマの象徴的作品の一つとして、
ジョージ・ロイ・ヒルの手腕も併せて評価されたものの、本作はまるでそういったものとは対極する雰囲気だ。

マフィアのボスであるロネガンを演じたロバート・ショーもどこか迫力がない。
これもジョージ・ロイ・ヒルの個性なのかもしれませんが、どうしてこんなに中途半端なキャラにしてしまったんだろう。

マフィアのボスとしてのプライドを匂わす発言はありますが、
ホントに恐ろしい存在としては描かれず、どこか同情を誘うようで可哀想にも見えてしまう。
これは本作の特徴で良さと言う人がいるかもしれませんが、僕はこういう甘さには賛成できない。
やはり映画の中の悪党は、もっと徹底して描いて欲しい。確かに一筋縄に悪党とは言い切れない悪党を
敢えて描いた映画というのもあるけれども、本作のロネガンがそうである必要はないでしょう。

ちなみに映画の中でロネガンが足をひきずっていて、足が弱いという設定なのですが、
これはロバート・ショー自身が、私生活でハンドボールに興じていた際に負傷したことキッカケだったようで、
当初のシナリオには無かった、ロネガンは足が不自由であるかのように描かれていますね。

とまぁ、いろいろと愚痴もあるのですが...
それでも本作は、十分に及第点を超えた映画で、広く多くの方々が楽しめる、
痛快さを兼ね備えたエンターテイメントと言うに相応しい、レヴェルの高い映画ではあると思います。

ポール・ニューマン演じるシカゴNo.1の詐欺師が、ロネガンを騙す筋書きを描きますが、
少々、映画がトントン拍子に行き過ぎることに違和感がないわけでもないですが、
そこはジョージ・ロイ・ヒルが“何食わぬ演出”で、一方的に押し切ってしまうあたりが力強くて良い。

2時間を超える内容の映画ではあるのですが、映画のテンポが良いせいか、
この上映時間がちっとも長く感じず、中ダルみは一切していない。実に良いヴォリューム感で、そこはお手本のようだ。

欲を言えば、映画のクライマックスにあたるロネガンを大きく騙す、
最後のバクチはもっとしっかりと描いて欲しかったなぁ。全てがあまりに筋書き通りに行き過ぎていて、
逆に不自然な感じがするというウガった見方をしちゃうし(笑)、細かな部分で計算違いはありながらも、
最終的には上手くやるという感じで描いた方が、彼らの攻防も多少はスリリングになったと思う。

そう、この映画のクライマックスの攻防はあまりにアッサリと描かれ、アッサリと終わってしまうだけに、
映画としてはどこか勿体ないというか、明確な盛り上がりがないまま映画が終了してしまう。

名曲『The Entertainer』(ジ・エンターティナー)のメロディに象徴されるように、
映画は華麗にスマートに進み、過剰な緊張を避けて描かれたように見えますが、
ロバート・レッドフォード演じるフッカーだって、盟友のルーサーを殺されたことに怒りを覚えて、
復讐を誓ったわけで、一方でロネガンはマフィアのボスとしての面子を守りたいわけで、
しかも確実に“勝てる”と踏んだギャンブルで、勝負をかけに来るわけですから、もっとスリリングに描いて欲しい。

この辺は良くも悪くもジョージ・ロイ・ヒルのアプローチで、
彼に厳しくロネガンへの詐欺シーンを描けと言っても、おそらくできなかったでしょうね。

但し、フッカーらの悪事に気付いて踏み潰しに来るチャールズ・ダーニング演じる
暴力的な刑事の存在はいい。観客にとって、チョットしたストレスになるぐらいの存在感で丁度良い。
そして何より、映画のクライマックスでロネガンらに“合流”してきて、物語をかき乱すのが実に良い。
そういう意味で、映画はこの刑事を騙すことがメインと思って観ると、これはこれで面白い側面があります。
(正しく、これこそが「一粒で二度美味しい」映画だ!)

でも、冒頭でも申し上げたように...
これがアカデミー作品賞に相応しい実力のある映画かと聞かれる、それは正直言って疑問だ。
明確に根拠を示すことなどできないが、オスカー作品と言えるほどの風格は、この映画からは感じられない。
1930年代を舞台にした作品なせいか、特に斬新な描き方、アプローチが観られる映画ではなく、
むしろセピア調でどこかクラシック調。でも、思い切って白黒フィルムで撮った、同年の『ペーパー・ムーン』の方が、
ひょっとした映画の企画としては斬新だったのかもしれません。73年当時、既にカラー映画が主流でしたから。

それにしても、ロネガンを騙すために、わざわざ下町のビルの地下室を借りて、
私設賭博場を作り上げて、大勢のエキストラを雇って、みんな一丸としてロネガンを騙すというのが凄い。
思わず、「あれだけ作り込まれたら・・・そりゃあ、騙されるわ」と言いたくもなるでしょう。

そういった用意周到さと、大掛かりさを、ラストシーンで後片付けする仲間たちを映すことで、
ジョージ・ロイ・ヒルもさり気なく描いている。普段はあまり気を利く演出をする印象はないジョージ・ロイ・ヒルですが、
本作ではこういうチョットしたところで差がつく演出をしているのは事実で、この点はポイント高いですね。

こういう部分は、本作が広く愛される理由でもあるのかもしれない。

(上映時間129分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョージ・ロイ・ヒル
製作 トニー・ビル
   マイケル・S・フィリップス
   ジュリア・フィリップス
脚本 デビッド・S・ウォード
撮影 ロバート・サーティス
美術 ヘンリー・バムステッド
編集 ウィリアム・レイノルズ
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 ポール・ニューマン
   ロバート・レッドフォード
   ロバート・ショー
   チャールズ・ダーニング
   アイリーン・ブレナン
   レイ・ウォルストン
   サリー・カークランド

1973年度アカデミー作品賞 受賞
1973年度アカデミー主演男優賞(ロバート・レッドフォード) ノミネート
1973年度アカデミー監督賞(ジョージ・ロイ・ヒル) 受賞
1973年度アカデミーオリジナル脚本賞(デビッド・S・ウォード) 受賞
1973年度アカデミー撮影賞(ロバート・サーティス) ノミネート
1973年度アカデミーミュージカル映画音楽賞(マービン・ハムリッシュ) 受賞
1973年度アカデミー美術監督・装置賞 受賞
1973年度アカデミー衣裳デザイン賞 受賞
1973年度アカデミー音響賞 受賞
1973年度アカデミー編集賞(ウィリアム・レイノルズ) ノミネート