マグノリアの花たち(1989年アメリカ)
Steel Magnolias
アメリカ南部の小さな田舎町の騒がしい一家をメインに、時に笑い合い、時に泣き、時に怒りながらも、
長年にわたって交友を深め、一家の糖尿病に苦しむ娘の結婚をキッカケに結束していく姿を描いたヒューマン・ドラマ。
監督は『グッバイガール』などで知られるハーバート・ロスで、本作も彼にピッタリな題材の映画だったのですが、
個人的にはそこまでの感動があったというわけではなく、どことなく惜しい映画だなぁという印象が残りましたね。
僕は自分の思想信条を理由にして映画を断罪してしまいたくないのですが...(とは言え、そうなってるけど)、
本作はどちらかと言えば、古き良きアメリカを賛美するニュアンスは多く含まれ、彼らの価値観が強く反映されている。
それは決して悪いことではないのだけれども、最近の風潮からいくと、こういう映画は好かれないかもしれない。
まぁ、だからどうしたって話しですけどね・・・アメリカに昔から住む方々には、フィットするところが多い作品でしょう。
それでも、やっぱりデビュー仕立てのジュリア・ロバーツは本作でしっかり目立っている。
と言うか、90年の『プリティ・ウーマン』で一気にスターダムを駆け上がったので、そんな感じしないけれども、
本作を観る限り、演技は上手いですね。まだまだ瑞々しさを放っているし、くっ付いたり離れたりしながらも、
深い親子関係を作り上げていくサリー・フィールドとのアンサンブルも素晴らしいし、感情表現もまだナチュラルな感じ。
劇場公開当時は、結婚相手に逃げられて美容室に雇ってもらったダリル・ハンナの方が
女優として有名だったと思うのですが、本作ではすっかりジュリア・ロバーツの方が光り輝いている感じですね。
映画の序盤から、トム・スケリット演じる一家の大黒柱の父親は家の庭の木に止まるカラスを追い払うために、
息子をけしかけて、突如として銃を庭でブッ放すなど無意味に騒がしい。一方で母親は娘の結婚式の準備で大忙し。
銃声がうるさいと近所のオバサンは家に押しかけてくるわ、結婚式のために注文していたグラスは割れてるわで、
この騒がしさは普通に考えると、ただただイライラさせられるものですが、彼らにとっては普通に日常の風景なのだろう。
そのせいか、時に感情がぶつかり合いながらも最後は仲直り。そんなことを繰り返しているのだろう。
これが彼らの生活のペースであり、本作はこの日常の空気感をメインにして、娘の糖尿病のエピソードにシフトする。
おそらく一型糖尿病を患っていると思われる娘の症状は、徐々に顕在化していき発作も起こすことがある。
主治医からは結婚しても「子供は設けない方がいい」とアドバイスされていたものの、若き夫婦は子宝に恵まれる。
しかし、主治医の忠告は糖尿病に苦しむ娘にとって、出産とはあまりに過酷な合併症をもたらすことを危惧してのこと。
幸せな日々は長くは続かず、やはり娘は発作を起こして意識を失い、病院に運ばれてしまいます。
ここからはありがちなストーリー展開ではあるのですが、僕はあまり過剰に演出しないあたりは感心させられました。
得てして、クドクドと最期を迎えるシーンや葬儀を描いてしまうのですが、これらは実にアッサリ終わらせてしまいます。
結果的にはこれは正解でした。映画はツラいことがありながらも、明るく生きる人々を描くことに回帰していくのです。
ハーバート・ロスはコメディ映画を数多く手掛けているディレクターですが、
本作のようなドラマ系統の作品も経験があって、そのバランス感覚は悪くない人。本作でも、上手くは撮っています。
ただ、一つだけ気になったのは、群像劇としては少々偏りがあるなぁということ。女優陣全員が主役級なんだけど、
それぞれの描き方が中途半端になってしまっていて、特にシャーリー・マクレーンなんかはもっとしっかり描いて欲しい。
どうやら、原作者のロバート・ハーリングの妹の死が本作のモデルらしいのですが、
これはロバート・ハーリング自身が妹の死という悲しみを受け入れることができず、そのエピソードを敢えて明るく描き、
その現実をゆっくりと受け止めることにつながったらしく、それもあって死生観よりも生きる人を中心に描いたのだろう。
だからこそ、銃声がうるさいだの、いちいち文句言うように絡んでくるシャーリー・マクレーンは大事に描くべきでした。
延々と繰り返される井戸端会議にしても、一つ一つに意味があったとは思うのですが、
映画の終盤にオリンピア・デュカキス演じる元町長の妻との罵り合いだけというのは、あまりに物足りないと思いました。
アメリカ南部の田舎町に生きる女性たちを描いた群像劇なのでしょうけど、美容室のドリー・パートンとかも
せっかく魅力的なキャラクターなのに、あまり前に出てこないし、前述したように映画の冒頭からダリル・ハンナが
中心に映されているのに、観終わってみると彼女もほぼほぼ脇役のような扱いだったし、この辺はなんだかチグハグ。
原作のアレンジが難しかったのかもしれませんが、群像劇って難しい面はあるので、
この手の映画が得意な人が撮っていれば、出来は違ったのかもしれません。ハーバート・ロスも頑張ってはいますが。
どこか爽やかに感動させるタイプの映画かと思いますが、女性たちのやり取りも笑わせられるというほどでもない。
本作はいわゆる女性映画なのですが、映画の仕上がりはともかくとして、
こういう暖かい交流を描いたドラマというのは良いなぁと、あらためて思います。だからこそ、もう少し泣けるのかと
期待していた面はあるのですが...それにしても、みんなで手を取り合って前向きに生きていこうとする姿が良い。
だからこそジュリア・ロバーツ演じる娘の闘病を、あまりしつこく演出にサラッと“流す”感じで描いたのかもしれません。
本作の本質はサリー・フィールド演じる母親の強さにあるのでしょうね。
普通に考えたら、彼女の立場からしたら、長年、娘が一型糖尿病に苦しむ姿を見ていて心配をし続けていた。
そんな中で彼女は結婚し、娘の幸せのためと思っていたが、もし彼女が出産となれば、それが何を意味するかは
彼女が最もよく分かっていたはずでした。しかし、娘が出産を希望し、彼女は娘の母親として心配しつつも止めません。
結局、娘の主治医の忠告が現実となってしまうわけですが、これは母としてはこの上なく、無念なことだったでしょう。
だからこそ、現実を受け入れられないという想いと、その後に深い悲しみが襲ってきているはず。
しかし、それでも残された人は生き続けなければならない。そんな苦しみや悲しみも、お互いに手を取り合って、
言わば“助け合いの精神”で乗り越えようと、彼女たちは支えようとします。そんな姿が本作の本質なのだろうと思う。
近親者の喪失というのは、ただただ悲しいものとしてしか描かれないのですが、
本作は悲しい現実を受け入れて、できるだけ早くに前向きな気持ちを持ってやっていくかを描いているわけですね。
これは人として、とても強いことですね。なかなか、こうはできないですよ。周囲も気を遣っちゃいますしね。
個人主義が浸透した現代社会に於いては、共助と言っても、彼女たちのように深く“入り込める”人間関係ではなく、
「何かあったら言ってね」という感じですからね。なかなか能動的に行動する仲のいいご近所さんは居ませんよね。
自分もそう感じちゃうのですが、周囲から積極的にやってしまうと“おせっかい”だと感じちゃうところがありますからね。
強いて言えば、ディラン・マクダーモット演じる娘の夫は、もっと“良い人”として描いて欲しかったなぁ。
結婚する前の姿を観ていると、とてもじゃないけど“良い人”には見えないし、「コイツ大丈夫か?」という感じ。
それも若さゆえ、と言えばそれまでですが...どこか人間的魅力に溢れるという感じではないのが気になりましたね。
劇中、母子間での腎臓移植についてもサラッと描かれていますけど、
実際に糖尿病の患者さんで高頻度で透析を受けている方もいると思いますが、腎臓がかなり弱ってしまいます。
劇中描かれる腎臓移植は成功しますが、それでもジュリア・ロバーツ演じる娘は妊娠・出産・子育てを経て、
ドンドンと腎臓をはじめとする内臓はダメージを受けて、知らず知らずのうちに彼女の体を蝕んでいってしまいます。
糖尿病は多くの患者がいるのが現実です。生活習慣病とされてはいますけど、
本作でジュリア・ロバーツが演じた娘もそうですけど、一型糖尿病の方々も多くいて治療を続けています。
医療は日進月歩で進展しているとは言え、特にすい臓や肝臓に関わる疾病は厄介なのか、完治療法がありません。
劇的な治療方法が発見される時代を待ちたいところですが、同時に健康管理の重要性を認識させられます。
かつては、身を粉にして働くことが日本人の美徳と言わんばかりの時代もありましたけど、
自分の健康管理上の限界点をしっかりと見極めて、セルフ・コントロールすることは現代社会では必要なことです。
それはメンタルヘルスも同様で雇用者責任の範疇にも含まれますが、自助含めて個人管理も重要だと思いますね。
それは身近な人を悲しませないことは勿論のこと、健康あってこそ社会人として活躍できるわけですから。
そんなことを考え込んじゃいましたが、どんなにツラいことがあっても明るく前向きに生きていこうと、
老いても尚、元気なマダムたちを見ていると、これはこれで元気をもらえるタイプの映画なのかもしれませんね・・・。
(上映時間116分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 ハーバート・ロス
製作 レイ・スターク
原作 ロバート・ハーリング
脚本 ロバート・ハーリング
撮影 ジョン・A・アロンゾ
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 サリー・フィールド
ジュリア・ロバーツ
シャーリー・マクレーン
ダリル・ハンナ
ドリー・パートン
オリンピア・デュカキス
トム・スケリット
ディラン・マクダーモット
サム・シェパード
ジャニン・ターナー
ケビン・J・オコナー
1989年度アカデミー助演女優賞(ジュリア・ロバーツ) ノミネート
1989年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ジュリア・ロバーツ) 受賞