君がいた夏(1988年アメリカ)
Stealing Home
これは、まぁ・・・何とも言えない青春映画ですね。
子役時代から転身し、大人の女優としてのキャリアを歩み始めていたジョディ・フォスターが、
かつて初恋の女性として記憶の中に生きる従姉ケイティを演じ、なんとも微妙な立ち位置で彼女は好演だと思う。
それに映画の全編を彩るデビッド・フォスターが書き下ろした音楽の数々も80年代丸出しで、僕は大好きだ(笑)。
しかし、正直な感想を言わせてもらうと、映画の出来がそんな本作の良さに、全然ついてきてない感じだ。
監督はスティーブン・カンプマンとウィル・アルディスの共作ですが、映画としてもう一押しして欲しかったなぁ。
言ってしまえば、野球選手を目指しながらも夢破れかけていた中年のオッサンが、
初恋の相手である従姉が自殺したと聞いて、過去の出来事を回顧しながら実家に帰省する過程を描きます。
その中で亡くなった従姉ケイティのことを思い出し、自らがどう成長してきたかを振り返って、自堕落な生活に甘んじる
現状を反省して、再び野球選手として頑張ろうという気持ちに立ち返るという、言わば「再生」を描いた作品である。
主人公の親友役で映画監督としても活躍したハロルド・ライミスが出演しているのですが、
この親友の子役時代を演じたジョナサン・シルバーマンもハロルド・ライミスによく似ていて、ビックリさせられる。
中年のオッサンになった主人公が、ケイティのことを回想しながら故郷に帰って来て、この親友と再会してから、
カフェなどで思い出話しに花を咲かせて、2人で勝手に夜の野球場に侵入して、2人で野球をするシーンは良いですね。
結局、このシーンが本作のハイライトだったような気がするのですが、どうにも青春を描いた作品として、
ホロ苦い初恋を描いた映画にしても、どこか物足りないというか、パンチの弱い映画という印象が残ってしまう。
奔放なケイティを演じたジョディ・フォスターは話題性も抜群だっただろうし、
キャスティングは絶妙に良かったのですが、この内容であればもっとラストに響くものがあってもいいですよね。
ところが僕の中ではあまり響くものがなく、どこか表層的な感じで映画が終わってしまった。それがスゴく残念でした。
やっぱり主人公にとってケイティは大きな存在だったのだろうし、逆に触れたくない過去でもあったのだろうと思う。
その複雑な想いが、中年のオッサンになった主人公を演じたマーク・ハーモンの表情に表れていますが、
それが野球選手としての再起だけに帰結するラストで終わらせてしまったというのは、どうにも納得がいかない。
そもそも生活だって荒れていたわけですし、もっとリセットすべきものがたくさんあってはずで、それらは描かれない。
まぁ・・・確かに青春時代を回想することは年齢を重ねるごとに増えているとは感じる。
人によって、その青春時代って異なるとは思うけど、過去って常に美化され易いことだし、苦しかったことでも
過去になれば不思議と良い思い出に変わることがある。勿論、美化できない過去もあるだろうし、人それぞれでしょう。
そんな良い思い出である過去でもあり、ホロ苦く戻れるなら、違う道を選択してやり直したい過去もある。
そんな複雑な想いを抱いているのが、本作の主人公ビリーなのかもしれない。それは、後悔なのかもしれないが、
僕はこの後悔をすることこそが、人間らしさなのだろうと思う。結局、人生は一度きりであって、過去には戻れない。
だからこそ違う選択をしていたからと言って、そっちが正解だったとは限らない。だからこそ、正解にしなければらない。
いや、もっと言えば...人生に正解も不正解も無いのかもしれない。それだけ、自分の人生の責任を負えるのは
自分の両親や子どもやパートナーなどの家族でも、友人でも会社でもなく、紛れもない自分しかいないのだ。
だからこそ、慎重になるところもあるのですが、悔いの無い人生を歩むことほど、難しいことはないと思う。
僕も後悔しない人生が理想だけど、それは現実的に無理だと思っていて、後悔したって良いのです。
どうせ、何をやっても後悔って必ずするのだから。それは決して後ろ向きな感情だとは、僕は思わないです。
ああでもない、こうでもないと愚痴をこぼしながらも、人々にとって時間が過ぎて、次々と目の前のことが過去になる。
実際、本作の主人公のビリーもそうして毎日を過ごしてきたのだろう。もう、野球選手としてのピークを過ぎ、
自分の人生のターニング・ポイントを迎えていることを自覚しつつ、過去のことを色々と考え込んでしまう。
そんな時に、常に心の何処かにいて、良い思い出も良くない思い出もある、従姉のケイティの訃報が舞い込む。
それは、きっとビリーの人生の大きな転機を促す、原動力になることなのだろう。ビリーは少しずつケイティの思い出を
辿りながら、野球選手としての人生のフィナーレを飾るためにどうすべきなのか、そのヒントを見つけることになるのです。
こうして開き直れば、中年の身体に鞭打つように3ベースヒットを打ってランナーになって、
尚且つすぐに単独ホームスチールを試みるなんて、普通の野球ではあり得ないような離れ業をやってのける。
これらは皮肉なことではありますが、ケイティの訃報に触れなければ、こうはならなかったかもしれない。
だからこそ、ケイティとの夏の思い出が重要になってくるはずで、この回想シーンはそこそこ上手く撮れている。
ただ、映画全体で見てもそうなのですが、もっと映画にメリハリは欲しかった。どこか悪い意味で単調になってしまい、
個人的にはもっと魅力的な映画にできたのではないだろうか?と思えただけに、この辺はとても残念でしたね。
それと、僕はこの映画を観ながらにして、ずっと感じていたことなのですが...
作り手のストーリーテリングというか、物語の語り方ですね。映画の冒頭からケイティが自殺した、
というところから始まっているのですが、中年になったビリーは孤独に実家へ長い時間をかけて帰省するのだから、
この帰省の理由は観客には早い段階でタネ明かしせずに、最後にポロッと描いた方が本作の場合は映えたでしょう。
思わず、「最後にビリーの帰省理由を明確にする」アプローチだったらどうなってかな?と邪推してしまいますね。
もう一つ言えば、ビリーの家族にとっての転機は父の死だったのだろうと思うのですが、
この父との交流をもっとしっかりと描いて欲しかった。もともとビリーが野球に打ち込むことを応援していたし、
名スカウトがビリーのプレーを見て名刺を渡したことを聞いて、喜ぶくらいビリーの成長を喜んでいたわけですし、
ビリーにとっても、きっと大きな存在であったはずで、もっと存在感を強く描いた方が良かったのではないかと思う。
ちなみに前述したようにジョディ・フォスターはなかなかの存在感で良いのですが、
彼女の出演は回想シーンのみでそこまで長くないので、ずっと出ずっぱりみたいな期待をしない方がいいですね。
本作で秀逸なのは、やはりデビッド・フォスターが書いた音楽でしょうね。
80年代はデビッド・フォスターが活躍していた時期であって、85年の『セント・エルモス・ファイヤー』などの仕事が
超有名で数多くのミュージシャンとも仕事してましたので、正しく80年代はデビッド・フォスターの時代でした。
その後はミュージック・シーンも変わったことで、第一線のミュージシャンという感じではなくなりましたけど、
それでも本作の余韻を残しつつも、メロディアスで如何にもデビッド・フォスターらしい旋律が印象に残りますね。
どうやら本作のサントラもかつては人気があったようですね。ジャンル的にもデビッド・フォスターの音楽が見事にマッチ。
これでいて、もっと映画の出来が良ければ、この頃を代表する青春映画になっていたことでしょう。
それには映画のパンチ力が弱く、どうにも細かな部分でももっと上手く出来たであろうことが、散見されます。
80年代は“ブラット・パック”と呼ばれた世代の俳優が出演した青春映画が流行ったので、もっと適任がいただろう。
それから、結構な謎なのはケイティの遺言がいくらあったからとは言え、
ケイティの遺灰をビリーに任せるとして、ケイティの両親が遺灰を彼に渡すという展開が信じ難いですね(苦笑)。
まぁ、遺書の内容は絶対的なものではありますけど、普通ならビリーとケイティの両親で話し合うでしょう。
ただ、それでもケイティの父親がアッサリと遺灰を渡しに来るのだから、ケイティの家族の問題も示唆されている。
普通に愛されて育ったのであれば、あんな簡単なことではないだろう。渡されたビリーだって、悩まされるわけで。
実際にビリーは一方的に遺灰を渡されるわけですが、現実問題として考えると...これは困りますよねぇ(笑)。
映画としては71年にロバート・マリガンが撮った『おもいでの夏』の変化球のような作品だと思う。
しかし、映画としてのインパクト・充実度では本作はどうしても劣って見えてしまうというのが本音ですね。
どうでもいい話しかもしれませんが...同級生の親友がプロムに誘うと言っている女の子と
積極的に迫られて、イイ関係になっちゃったなんて、とてつもなくヤバい状況だと思うのですが、それを許しちゃう
親友のアップルビーがなんとも切ないと思っちゃう。これはアップルビーの視点で描いても良かったかもしれませんね。
(上映時間98分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 スティーブン・カンプマン
ウィル・アルディス
製作 トム・マウント
ハンク・ムーンジーン
脚本 スティーブン・カンプマン
ウィル・アルディス
撮影 ボビー・バーン
音楽 デビッド・フォスター
出演 マーク・ハーモン
ジョディ・フォスター
ハロルド・ライミス
ブレア・ブラウン
ウィリアム・マクナマラ
ジョナサン・シルバーマン
リチャード・ジェンキンス
クリスティーン・ジョーンズ
ヘレン・ハント