ステイ(2005年アメリカ)

Stay

この映画、2回観て、ようやっと意味が分かりましたよ(苦笑)。
まぁ・・・分かったつもりでいて、まだ間違ってるかもしれないけど。。。

『チョコレート』、『ネバーランド』と立て続けに傑作を発表していたマーク・フォースターが挑戦した、
時間や存在の概念までもネジ曲がった世界観を描いたスリリングなSFミステリーなのですが、
これがまた複雑な映画で、かなり解釈に苦労させられた、僕の中では“いわく”付きの一本だ。

正直言って、映画の出来の印象は初見時と大きく変わりません。
申し訳ない言い方ですが、僕は本作からそう大きな感銘を受けなかったし、
目を見張るような凄い演出は無かったように思うし、既視感を利用した映像表現も少々クドい。

あまり単純比較はできないけど、『チョコレート』や『ネバーランド』ほどの出来ではないと思う。

しかしながら、本作の賢さは認めざるをえない。
そりゃあ、まぁ・・・かなり混乱させられる映画ですから、初見時の印象は良くなかったけど、
2回目に観て、何となく映画で描かれていることが分かり始めてから、印象はそこそこ良くなりましたね。

言ってしまえば、この映画も哲学のテーマに帰結してしまうと思います。
「何が現実なのか疑え!」とはよく言ったもので、もっと言ってしまえば実在論の話しになる。

タイミングをズラして何度も同じシーンを映したり、歪んだ映像を挿入したり、
大胆な省略を用いてシーン転換させたり、観客には強く非現実を意識させる映像作りで一貫性がある。
セットや美術関係は、やたら無機質なイメージで統一されているんだけれども、
セピア調の色使いが上手いもんだから、街のライトが上手く映像に温かさを与えることに成功している。
だから無機質で突き放したような冷たい映画というよりも、どこかエモーショナルな感じがしますねぇ。

そういえば、ライラを演じたナオミ・ワッツって、ホントに良い女優さんですねぇ。
正直言って、凄い美人女優とまでは言わないけど、カメラにフレームインすると光り輝く感じです。
役どころは、どことなく中途半端な感じがすることは否めないのですが、
この映画は彼女がキャスティングされたことで、視覚的に“華”が加わって、大きく救われていると思います。

僕が思うに、この映画の軸は何本かあって、それらを如何に読み取るかがカギ。
一つは、ヘンリーという青年が常に抱き続ける両親や恋人への贖罪の気持ちで、
これが如何にして発生し、どれだけヘンリーにとって大きなものであるかを映画は描き続けます。
しかし、実に切ないのは、本質的にこの贖罪の気持ちからは解放されないところなんですけどね。

それから、精神科医サムが自殺を示唆する青年ヘンリーを受け持ち、
彼の身辺を調査する過程で、次第に自分の身の回りの世界が歪められていく混乱した体験。

大きく分ければ、映画はこの2本の軸で構成されており、
この2本の軸を、トンデモない交通事故に遭遇してしまったサムのショックというシチュエーションが束ねている。

細かく言ってしまえば、もっと何本も小さな軸があります。
それらが複雑に絡み合って、最終的には束ねられていくというアプローチなんですよね。
まぁなかなか1回だけの鑑賞では分かりにくいでしょうね。複数回観たら、ようやっと理解できる感じです。
おそらくこの脚本を書き上げるには、そうとうに苦労したでしょうねぇ。編集にも苦労したでしょう。
これだけ複雑な軸の絡み合いを、映像として具現化させたということ自体は、価値のある仕事だと思う。

でも、僕はあくまで映画というメディアの枠組みの中で、あまり感心しなかったなぁ。
もっと違うアプローチでも訴求することはできただろうし、シンプルな映画にもできたと思う。
マーク・フォースターは確かな手腕があるディレクターですからね、こんなことをしなくとも出来ると思うんですよ。

申し訳ないけど、このままでは独りよがりで不親切な映画になってしまうんですよね。
それではさすがにダメなんです。これでは、ただの“夢オチ”の映画と一緒にされてしまいます。

勿論、“夢オチ”の可能性は残した映画ですが、
本来的にはもっと深遠なるテーマを持った映画であり、哲学的なメッセージで訴求する内容です。
だから本作みたいな映画が、ただの“夢オチ”の映画扱いされてしまっては、勿体ないと思うんですよね。
ところが、このままではただの“夢オチ”の映画と同等に扱われてしまっても、おかしくありません。

えてして、夢とは現実世界とはかけ離れた破綻した世界で、
そういった感覚を映像として具現化させた功績は認められるべきものですが、
映画の構成としてはもっとシンプルで良かったと思うんですよね。無理にミステリー調にしようとしたおかげで、
映画を観終わって「なんだ、“夢オチ”か」と言われてしまう可能性があります。
これでは勿体ないんですよね。観る者に深い感銘を与える映画には、なり得ていないのです。

せっかく、いい土台を持った映画なのですから、もっとシンプルにすべきだったと思うのです。

本作のラストシーンにしても、カラクリを明かすことに必死になっている感じで、
上手く作り込むことができていませんね。これでは『ネバーランド』のラストには遠く及びません。

うーーーん、マーク・フォースターの次の監督作品に期待したいですね。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マーク・フォースター
製作 エリック・コペロフ
    トム・ラサリー
    アーノン・ミルチャン
脚本 デビッド・ベニオフ
撮影 ロベルト・シェイファー
編集 マット・チェシー
音楽 アッシュ&スペンサー
    トム・スコット
出演 ユアン・マクレガー
    ナオミ・ワッツ
    ライアン・ゴズリング
    ケイト・バートン
    ボブ・ホスキンス
    ジャニーン・ガロファロ
    B・D・ウォン