駅 STATION(1981年日本)

まぁ、これは如何にも高倉 健の映画ですよね(笑)。見事なまでに彼が支配する世界観。

それを倉本 聰が書いた脚本を下地とするものだから、当然のごとく映画の舞台は思いっ切り北海道。
この時代は北海道を舞台とした映画が多かったけど、本作は全編北海道を舞台にロケしているので、
ある意味で北海道の土地勘があった方が楽しめる。また、雄冬という“陸の孤島”を知っていて尚楽しめる。

三部構成の構造は面白いけど、どこかスッキリしないまま映画を進める。ここに魅力を感じないとツラいかな。
メキシコ・オリンピックの候補選手になっていた北海道警察の刑事である主人公が1968年の冬に遭遇した、
彼が慕っていた先輩刑事が目の前で殺害される事件、そして旭川で発生した殺人事件の捜査の過程でマークする、
増毛の食堂の娘を監視する1976年のエピソード、最後に札幌で籠城事件を解決しつつも故郷への想いを強め、
雄冬へ帰ろうとするも時化のため増毛からの船が出ず、年末に増毛で足止めされ、居酒屋で女性と出会うエピソード。

いずれも魅力あるエピソードではあるけど、どうしてもどこか煮え切らないスッキリとしない雰囲気で進んでいく。
これが倉本 聰の世界観なのかもしれないけど、これは色々と不便さのあった厳しい季節の北海道を知る人なら
楽しめるだろうけど、21世紀を迎え、色々と便利な時代になっている現代の感覚で観ると、どうしてもギャップはある。
しかしまぁ・・・これは仕方ないことでしょう。如何にも昭和な日本の雰囲気を楽しむことをオススメするしかありません。

前述したように、これは北海道の土地勘がある人なら、ここまでローカルな題材を生かした映画は少ないので、
ほぼほぼ間違いなく楽しめる作品だ。これはこれで倉本 聰のこだわりがあったのかもしれないけど、とても珍しい。

大滝 秀治演じる先輩刑事が検問の最中に殺害されるシーンでは豊平川の河川敷が映され、
正直、「どこまで物騒な世の中なんだよ」とツッコミの一つでも入れたくなるほど凶悪犯罪が横行する社会である(笑)。
確かに北海道は少々治安が悪いと言われていたこともあったけど、さすがにここまで酷くはないぞと言いたくなる(笑)。

まぁ、映画の世界なのでそれはいいのだけれども、札幌の地下鉄駅の看板やら市電やら、
増毛の駅前の食堂やら懐かしの上砂川支線やら、望郷の光景とも言えるくらい懐かしい北海道が映されている。
これは地元民にはたまらない構成と言ってよく、こんな所帯じみた描写を徹底するのは倉本 聰くらいなのかもしれない。
(そうそう、上砂川支線は廃線直前に子どもだったけど、父親と乗りに行ったんだっけ)

主人公の故郷である雄冬は、かつては“陸の孤島”でした。道路でつながっておらず、船でしか行くことができない、
漁師の集落であり、国道231号線(通称:日本海オロロンライン)が開通するまでは簡単には行けない地域でした。

つい先日も留萌から札幌に向けて国道231号線を走りましたが、海岸線の崖っぷちをずっと走りますから、
トンネル区間も長いですから着工から完成まで相当な困難があったと思います。雄冬のように小さな集落もありますが、
人口はそう多くないですし、集落の数もそこまで多くはないですから。増毛を過ぎると、浜益・厚田くらいですからね。
そう思うと、道路の果たす役割は大きいとは思いますけど、維持管理するのに莫大な資金を要するのでしょうしね。

国道の開通は劇的なことだっただろうとは思いますが、そんな過酷な土地に着目した映画は貴重だろう。
だからこそ、本作は土地勘がある人が楽しめると思うのですが、タイトルになっている駅はそこまで目立たないなぁ。

映画の冒頭で銭函駅、途中で留萌駅、増毛駅、乗り換えで砂川駅のホーム、上砂川駅と5つ出てきます。
今現在残っているのは銭函駅と砂川駅のみですが、一番目立って描かれるのは増毛駅の駅舎になるでしょう。
有人駅の時代ですが、個人的には駅舎を舞台にもっとドラマが展開されることを期待していたので少々期待ハズレ。

駅自体は出会いと別れの舞台となる場所ですから、そこで起こるドラマを描きたかったのだろうけど、
それよりも倍賞 美津子が演じる女性が経営する居酒屋でのシーンの方が、情感いっぱいで目立っていた。
そういう意味では、映画の最後に訪れる鳥丸 セツ子演じる女の子も深川で夜行に乗り継いで札幌に行くという、
主人公が札幌へ戻る際にたまたま一緒になるというエピソードも、あまりに唐突に描かれる感じで微妙な感じだった。

まぁ、自分の中では同じタイトルの竹内 まりやの楽曲が印象的で、映画とは無関係なんだけど、
ずっと僕の中ではあの曲が脳内をかけ巡っていたせいか(笑)、もっと駅で長く待っているとか、切ない別れがあるとか、
そういった人間模様が展開されるのかと期待していたけど、そこまでではなかったというのが少々期待ハズレでした。
(この竹内 まりやの曲は元々、中森 明菜が歌った曲だったけど・・・色々あって竹内 まりやがセルフカバーした)

確かに当時の日本映画としては、出来ることをやった作品と言える内容であって、
大規模な地方ロケを敢行するなど力の入った企画です。内容的にも日本映画の良さを伝えるものではある。
ただ、どうしても倉本 聰が迫ろうとするテーマが、なんとも万人にウケる感じではないので注意が必要かもしれない。

主人公にとって、運命的な出会いであった3人の女性。1人目の別れた妻とのエピソードは、
あまり深く描かれず、ただ別れて遠く離れた地で暮らす妻子がいるというシチュエーションが醸し出す味わいを
楽しむという、男性的な視点からのダンディズムとも感じられ、いしだ あゆみ演じる妻の想いをもっと描いて欲しい。
妻側に問題があったようなニュアンスで描かれますが、主人公に問題がないのかもよく分からないまま進んでいく。

2人目の鳥丸 セツ子演じる食堂の女の子も、不良の宇崎 竜童に軽く扱われて妊娠して堕胎までするなど、
悲劇的な女性として描かれるのが印象的ですが、そんな女の子が妹として兄を慕っているというところに執着して、
前述したように何故か待ち合わせ場所として上砂川駅へ向かうわけですが、ここでも残酷な状況が描かれる。

でもさ...言っても彼女の兄は連続婦女暴行犯であり、しかも殺人まで犯す凶悪犯である。
如何に妹に優しい兄であったとしても、そんな姿が社会的に容認されるわけがなく、そんな過酷な運命に見舞われ、
振り回される女性を印象的と言われても、コンプライアンスにうるさくなった現代的な感覚では受け入れられないだろう。

最後の運命の女性である、居酒屋の女主人にしても似ていて、彼女も結局は指名手配犯を匿うという役目。
警察官という職務に就く主人公が密接に関わる女性に、そんな真実があったという因縁を描きたかったのだろうけど、
これを情感いっぱいに描いて、ドラマ性をもって描けるというのも、今だったら簡単に出来ることではないでしょうね。

まぁ、だからこそ、本作で使われる曲は竹内 まりやの曲ではなくって、
当時のレコ大に紅白歌合戦の映像が使われますが、八代 亜紀の『舟歌』なわけです。見事な昭和感ですよ(笑)。

そうそう、この映画を観て思い出したのは、12月30日はレコ大を観て、大晦日は紅白歌合戦という流れの年末。
そりゃ、今もやってますけどね...ただ、テレビがオールド・メディアと呼ばれるようになってYoutubeなどが台頭し、
スマホを日常的に使う現代社会では、この年末の風物詩というのもかなり弱くなってきたというのが実情なので、
こういう年末があったなぁというのが、どことなく懐かしくも感じる。もう、こういう時代は戻ってこないだろうなぁ・・・。

この映画で描かれる北海道は随分と銃犯罪が横行していますけど、昭和は確かに結構な事件もありましたからね。
僕も幼い頃はテレビのワイドショーでも、犯罪者の自宅を再現とか、犯行の様子をカメラで撮っているとかもあって、
平然と凄惨な犯行現場の映像とかもお茶の間に届けてましたけらね。今の時代なら、考えられないことですよね。

高倉 健は好きだし、本作が彼の代表作の一つでもあることは間違いないのだけれども、
個人的にはそこまで高く評価されるべき作品だったかと聞かれると、それは微妙な感じだ。もっと訴求して欲しい。
この三部構成も、倉本 聰のこだわりがあってこそなのだろうが、特に前述したように別れた妻の描き方は感心しない。

というわけで、当時は高く評価された名画ではありますけど、賛否は大きく分かれるのではないかと思います。

ちなみに降旗 康男と高倉 健の名コンビぶりを決定づける作品になりましたが、
それまでは任侠映画が多かったところ、本作では一転して警察官を主人公にする作品となっているのも興味深い。
それでも、どこか影の部分をもったキャラクターであり、高倉 健が得意とするような哀愁も漂っていてシブい。

そんな彼が居酒屋の女主人に好かれて、年末の寒い日に「留萌まで遊びに行こう」と言われ出掛ける。
当時も増毛の人々にすれば、遊びに行くと言えば、留萌だったのかもしれない。映画館でイチャイチャして鑑賞し、
喫茶店で美味しそうにカレーを食べて、“休憩”しに部屋を借りる。今の留萌は過疎に悩む、閑散とした地方都市です。

よくある話しではありますが、こういう姿を見ると時の流れの残酷さを感じる部分もありますね。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 降旗 康男
製作 田中 壽一
脚本 倉本 聰
撮影 木村 大作
美術 樋口 幸男
編集 小川 信夫
音楽 宇崎 竜童
出演 高倉 健
   倍賞 千恵子
   いしだ あゆみ
   鳥丸 せつ子
   古手川 祐子
   根津 甚八
   名古屋 章
   大滝 秀治
   八木 昌子
   宇崎 竜童
   池部 良
   潮 哲也
   寺田 農
   永島 敏行
   田中 邦衛
   小松 政夫
   小林 稔侍
   室田 日出男
   阿藤 海
   塩沢 とき