消されたヘッドライン(2009年アメリカ・イギリス合作)

State Of Play

どうでもいい話しですが...ラッセル・クロウ、随分と太ったな。。。

イギリス国営放送局であるBBCの人気TVシリーズだった『ステート・オブ・プレイ 〜陰謀の構図〜』を
『ラストキング・オブ・スコットランド』で高く評価されたドキュメンタリー出身のケビン・マクドナルドが撮った、
不倫スキャンダルの後ろに隠れた大きな陰謀に挑戦する新聞記者の姿を描いた社会派サスペンス。

映画の主人公カルはワシントンの市街地で発生した薬物中毒の黒人少年が殺害された事件と、
議会の場で民間会社の疑惑を追及する委員会の調査メンバーだった女性ソニアが地下鉄駅で事故死した件、
一見関係ないように思えた2件が、実は裏で巧妙に関係していて、ひじょうに大きな陰謀があると推察します。

ところが大学時代からの友人で、議員のスティーブンがソニアと不倫関係にあったことがスクープされ、
窮地に追いやられたことから、カルは事件の裏側を探って、何とかしてスティーブンの窮地を救おうとします。
カルは以前、スティーブンの妻と不倫関係だったことから、贖罪の気持ちで取材に奔走するのですが、
スティーブンからは逆に叱責され関係がギクシャクしてしまい、事件の真相も二転三転し混乱します。
そんな中、同僚の女性記者デラの協力を得て、徐々に真相に近づいたカルに命の危険が迫る姿を描きます。

僕が観る前に予想していた以上に、硬派な社会派映画というイメージで、
最近では珍しいぐらい、実直に撮った映画だと感じましたが、このケビン・マクドナルドという映像作家は
かなり力がありますね。まだ『ラストキング・オブ・スコットランド』は観ていないのですが、
さすがにドキュメンタリー出身なせいか、一つ一つのシーンが重点主義で撮られていて、好感を持てました。

欲を言えば、もう少し緊張感があっても良かったかな・・・とは思いますが、
映画の中盤にあるような、カルが駐車場で命からがら車にしがみ付いて逃げるシーンなど、
なかなか頑張ったシーン演出もあって、またシーン毎にメリハリが利いた部分もありました。
それを考えると、決して悪い仕事だったとは思えず、チョットだけアプローチが足りなかったのかもしれませんね。

この映画の良いところは、一つ一つしっかりと積み上げながら、
事件の核心に迫っていく姿を、映画の作り手がしっかりとドキュメントできている部分で、
これは新聞記者の本分をしっかり描けていると思いますね。これが作り手の大きな狙いだったのではないかな。

そういう意味では、映画のエンド・クレジットで記事が完成して、
記事が印刷され、新聞となって出荷されるまでを映したのも、しっかりと意味がありますね。

とにかくこの映画は、今やインターネットなどで記事を読むことが普通になってしまった時代にありながらも、
敢えて新聞というメディアにこだわって、自分の足で取材する新聞記者を描くことに目的があったのでしょうね。

まぁそれゆえ、映画は硬派な作りになり、取っ付きにくい部分はあるでしょうが、
主演のラッセル・クロウの役づくりが、とっても上手くって、敢えてトレンドに見せず、スマートにも見せない。
汚い車を運転して、お菓子をこぼしながら暴れ食いし、酒好き、女好きは上等って感じで、
住んでいるアパートも散らかっていて、お世辞にも“ダンディなイイ男”とは言えない感じだ。
(新聞記者は情報を引き出すために、情報提供者よりは良い身なりをしないという鉄則があるらしい)

まぁ役づくりの一環でしょうが、このラッセル・クロウの汚れっぷりにビックリですね(笑)。
前年に出演した『ワールド・オブ・ライズ』でも随分と肥えてたように見えていただけに、
ホントに役づくりのためなのか、ついつい心配になってしまうほどで、気になって仕方がありません(笑)。

個人的にはカルを演じたラッセル・クロウも、スティーブンを演じたベン・アフレックも、
スティーブンの妻を演じたロビン・ライト・ペンも、10年前だったら間違いなく演じなかったであろう、
年頃の役に挑戦しており、当たり前のことではありますが、時間の経過を痛感させられますね(苦笑)。

若い新聞記者にレイチェル・マクアダムスがキャストされており、
彼女もつい最近、ハリウッドで売れ始めたような印象があったのですが、
本作のような規模の大きな映画に出演して、これから活躍の場を更に広げていくのでしょうね。
15年前なら、ほぼ間違いなくロビン・ライト・ペンが演じていたような役どころで、一つの世代交代ですね。

これだけの豪華キャストを集めた作品ですし、もっと日本でも話題になっても良かったような気がするのですが、
残念なことに、あまり大きな話題になることなく、劇場公開が終了してしまったのが悔やまれますね。

脚本にトニー・ギルロイがクレジットされておりますが、
確かに映画の雰囲気をはじめ、各アクション・シーンの撮り方などは『ボーン・アイデンティティー』などの
“ジェイソン・ボーン”シリーズと似ているかもしれませんね。特にデラが訪れた病室で唐突に訪れる、
患者を襲撃するシーンの鋭さは、まるで“ジェイソン・ボーン”シリーズかと錯覚させられるほどだ。

まぁ脚本にクレジットされてはおりますが、
全面的に脚本の執筆を担当したというより、監督のケビン・マクドナルドも「意見を求めた」と
コメントしているだけに、ひょっとしたら限定的なエピソードを担当しただけなのかもしれませんがね。

映画のラストの展開は、ある意味で“お約束”って感じではありますが、
映画の前半から各エピソードを一つ一つ丁寧に描いていただけに、ラストの展開も無理が感じられません。
こういう映画の作り方には好感が持てますね。やはり観客を驚かすことありきの映画になってしまっては、
一つ一つのシーンで作り込むことができず、最後のドンデン返しで一気に映画が壊れてしまいますからねぇ。

もう少し映画としては、主人公のカルが事件の真相に近づくにつれ、
徐々に感情を抑え切れずに、冷静さを失っていくような過程があると、もっと面白くなったかもしれませんね。

おそらくラッセル・クロウのことですから、
かなり役づくり上のリサーチを重ねて臨んだことでしょうから、よりリアルに新聞記者の本分を
演じたんだろうとは思うのですが、あまりに最初から最後まで冷静過ぎて、事件に狂わされていくような
側面があった方が、カルがより人間らしく描かれて、映画はグッと良くなったような気がしますね。

何はともあれ、最近では珍しいぐらい硬派な社会派映画の力作です。
今後もケビン・マクドナルドの監督作品には注目していきたいですね。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ケビン・マクドナルド
製作 アンドリュー・ハウプトマン
    ティム・ビーヴァン
    エリック・フェルナー
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
    トニー・ギルロイ
    ビリー・レイ
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 ジャスティン・ライト
音楽 アレックス・ヘッフェス
出演 ラッセル・クロウ
    ベン・アフレック
    レイチェル・マクアダムス
    ヘレン・ミレン
    ジェイソン・ベイトマン
    ロビン・ライト・ペン
    ジェフ・ダニエルズ
    マリア・セイヤー
    ヴィオラ・デイヴィス