スター80(1983年アメリカ)

Star 80

1980年の夏、人気男性誌『プレイメイト』誌で人気を博した、
ヌード・モデルで映画女優だったドロシー・ストラットンが実生活の夫であるポールに射殺された。

ハリウッドを賑わす、そんなスキャンダラスな事件にスポットライトを当てた、
『レニー・ブルース』で立派に映画監督として認知された、巨匠ボブ・フォッシーの遺作。

結論から言いますと、僕はこんな映画でボブ・フォッシーのフィルモグラフィーが途切れてしまったことが、
とても残念でなりません。確かに衝撃的な内容ではありますが、映画の出来は芳しくありません。
物語の題材自体にも、どうしても映画化する価値があるとする、その重要性がイマイチ伝わってこないし、
映画の序盤から延々と続く、フラッシュ・バックの連続に嫌気が差してくる。

たいへん申し訳ない言い方ではありますが、ただの下世話な映画というだけで終わってしまっていますね。

実在の女優であるドロシー・ストラットンは、
カナダ出身の女性で17歳のときに、地元の若者ポールと付き合うようになり、
上昇志向の強いポールの強い薦めにあい、『プレイメイト』にスナップ写真を投稿されたことにより、
瞬く間にヌード・モデルとして成功を収めた彼女でしたが、すぐに“ヒモ”のような生活しかできない
ポールとの夫婦関係は行き詰まり、やがて彼女はオーディションを受け、合格した映画撮影現場で知り合った、
映画監督ピーター・ボグダノビッチと不倫関係になり、ポールと離婚することを決意するのです・・・。

ところが事件が発生してしまったのは、ドロシーがポールと離婚の話し合いをするために、
ポールの家を訪れた夏の日の昼下がり。猟銃で頭を撃ち抜かれ、ポールも自殺してしまいます。

少なくともドロシーは地元のバンクーバーのバーガーショップでアルバイトしていた頃は、
派手さは一切なく、どちらかと言えば物怖じし易いタイプだったみたいで、決して家庭も裕福ではない。
おそらくそんな彼女から見れば、彼女のためならとお金を惜しみなく使ってくれるポールという存在は、
ある種の憧れすら抱かせる存在だったのかもしれません。そんな過去があるからこそ、
ドロシーはポールとは簡単に別れられないし、冷淡にあしらうことがどうしてもできません。

そんなドロシーのポールに対する温情が、彼女にとって唯一の悲劇だったと言えますね。

あくまで結果論ではありますが、ドロシーがポールをまともに取り合わず、
一方的に離婚を通達できていれば、ひょっとしたら彼女の運命は変わっていたのかもしれません。

言ってしまえば、この映画はストーカーを描いた作品の先駆けだと思うんですよね。
ポールはドロシーの夫という立場ではありましたが、やってることは“ヒモ”同然であり、
ドロシーに対する愛情や執着、そして彼女に付きまとう姿は現代で言うストーカーそのものだ。

せっかくそんな先駆性を持った映画だったのに、
あまりに映画のスタイルが安っぽ過ぎるのは、とても残念ですね。ハッキリ言って、映画を壊しています。

前述したようにボブ・フォッシーの遺作になってしまったという観点からも残念ですが、
ポールを演じたエリック・ロバーツが狂気の大熱演を披露しただけに、ひじょうに勿体ないですね。
単発的に観れば、彼がドロシーを殺害してしまって、精神的に錯乱状態になってしまうシーンなんかは、
異様なまでの緊張感があって決して悪くはないと思うのですが、これら全て使い方を間違えているのです。

カットの割り方、音楽の使い方、シーンの並べ方、それら全てがあまりに無神経かつ無秩序。
そういった雑然とした状態にこそ、ボブ・フォッシーは映画の世界観を象徴させたかったのかもしれませんが、
映画の全体を見渡すと、どうしても雑な映画に感じられてしまい、出来が良いとはお世辞にも言えません。

ハッキリ言って、信じられないんですよねぇ。あまりに違い過ぎて。
あの『レニー・ブルース』を撮った同じディレクターがメガホンを取った作品とは到底思えません。

まぁ当時の『プレイメイト』のモデルたちの元締めと言っていい存在だったヒュー・ヘフナーの家での、
毎夜のパーティなんかの裏事情を知って観ると、興味深い内容かもしれませんね。
このパーティに出たくて仕方がないポールが、ドロシーに同伴する形で出席するのですが、
自分を抑え切れず、ヒュー・ヘフナーの言葉を引用して、彼にがめつく挨拶しに行き、
挙句、警戒心の強いヒュー・ヘフナーに一発で嫌われてしまうという展開も、当時の人間模様を象徴しています。

この映画を観て、ピーター・ボグダノビッチやヒュー・ヘフナーはどう思ったのだろうか?
いたずらに憶測を呼ぶ内容になっているし、当事者たちも複雑な思いでこの映画を観たのではないだろうか?

僕は映画監督としてのボブ・フォッシーは『レニー・ブルース』だけでも評価できると考えているのですが、
さすがに本作の出来は悔やまれてならない。どうしてこんなにゴシップのような映画に終始してしまったのだろう。

文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫であるマリエル・ヘミングウェイがドロシーを演じておりますが、
役柄上、必要だったとは言え、かなり大胆なヌード・シーンも辞さない熱演で大健闘と言えますが、
そんな主演俳優陣の熱演が虚しくなってくるほど、色々な意味で不運な映画だったと思う。

できることなら、もっと周辺事情を入念に描いて、重厚な映画にして欲しかったですね。

(上映時間103分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ボブ・フォッシー
製作 ウォルフガング・グラッテス
    ケネス・アット
原作 テレサ・カーペンター
脚本 ボブ・フォッシー
    アーネスト・トンプソン
撮影 スヴェン・ニクビスト
編集 アラン・ハイム
音楽 ラルフ・バーンズ
出演 マリエル・ヘミングウェイ
    エリック・ロバーツ
    クリフ・ロバートソン
    キャロル・ベイカー
    ロジャー・リース
    デビッド・クレノン
    キーネン・アイボリー・ウェイアンズ