ミッドナイト・ガイズ(2012年アメリカ)

Stand Up Guys

これは期待してたものと違ったなぁ〜。。。

我らが“兄貴”ことアル・パチーノと、名優クリストファー・ウォーケンが絡み、
更にベテラン俳優アラン・アーキンも共演しているクライム・コメディとなれば、
もっと明るく楽しい映画にあろうと、僕は勝手に期待していたのだけれども、これが一向にエンジンがかからない
映画の最後の最後まで中途半端な内容のまま終わってしまう映画で、正直言って拍子抜けだった。

これだけのキャスティングをしたのに、日本ではあまり話題にならずに
軽い扱いを受けていたというのには、相応の理由があるなぁと実感させられる内容ですね。

これは正直、監督に問題があると思う。
もっと映画の全体像を見ながら、エピソードを構成しなければいけないと思うのですが、
あまりそんな映画全体の“骨格”を感じさせない作りに陥ってしまっていて、何を狙っているのかよく分からない。

まぁ・・・アラン・アーキン演じるハーシュが肺気腫で命の危機に侵されながらも、
実は爺になっても変わらぬ絶倫ぶりで、娼館に乗り込んで、「美女2人とお願いしたい」と
本来接客を行わない経営者のウェンディに懇願して、ホントにその通りだったというのは面白い。
(ホントにそうだったら、肺気腫で死にそうな老人ではないとは思うが・・・)

ただ、そんなアラン・アーキンも登場時間僅かでアッサリ退場させるのは感心できない。
この辺はシナリオの問題という気もするけど、映画全体のバランスを考えていれば、
ハーシュというキャラクターはもっと大切にしていたはずで、主人公たちの若き日の武勇伝を物語るに、
引き立て役に徹してもらうという意味で、アラン・アーキンはもっと登場させた方が良かったと思う。

キツい言い方をすれば、これだけの“土台”を集めてこのシナリオならば、
もっと面白い映画の仕上がりにすることができるディレクターは、ハリウッドなら数多くいるはずだ。

監督のフィッシャー・スティーブンスは俳優業をメインとしているようですが、
一部の作品ではプロデューサーとして活躍していて、02年には『はじまりはキッスから』という
恋愛映画で監督デビューを果たしているわけで、全く経験が無いというわけではないようだ。
今回は、アル・パチーノにクリストファー・ウォーケンという豪華キャストを実現したのだから、この出来は勿体ない。

なんか、そう思って観ると、主演2人もあまり上手く生かされていないというか、
アル・パチーノは映画の序盤でウザいくらいアピールしてくれるが(笑)、それでも映画の後半はトーンダウン。
いつも“兄貴”っぷりを炸裂というか、強がっていても、時に弱さを見せてしまうなど、なんかいつもと違う(笑)。

そしてクリストファー・ウォーケンに至っては、なんだか顔色が悪い(笑)。
これは役作りというか、健康問題と抱えていることを匂わせているのでワザとなのかもしれないけど、
しっかり年老いているという前提は分かるとしても、もっと元気そうなメイクをしてあげた方が良かったと思う。

70年代だったら、ブイブイ言わせていたであろうアル・パチーノとクリストファー・ウォーケンが
二人肩を並べて、やれ高血圧の薬がどうのと、妙に生活感がある会話をしているというのは面白いけど、
これだけのビッグネームが肩を並べて、爺っぽい会話に終始してしまう姿を観るというのも、なんだかフクザツだ(笑)。

でも、僕にはこの映画の作り手がそういった姿に面白さを見い出そうとしているのか、
単純にこの物語に惹かれて映画を撮っただけなのか、自ら手掛ける狙いというのが、よく分からなかったのです。
個人的には、こうして作り手の狙いがよく分からない映画を観るというのが、一番ツラいんですよねぇ・・・。

そのせいか、僕はこの映画、2021年現在で2回目の鑑賞だったのですが、
僕はよく調べもせずにレンタルしていたため、すっかり1回観たことがある事実を忘れていて、
初めて観る気持ちで鑑賞したため、どこか既視感のある部分はあったにしろ、言い方を変えると、
それだけインパクトに欠ける内容の作品だったのでは・・・ということで、2回目の鑑賞で印象が良くはなりませんでした。

映画の終わり方は良いと思う。主人公2人の心理的な駆け引きもあった中で、
それでもやっぱり...とばかりに、人生の最後の賭けにでるところで、映画の幕が下りる。
映画の中身も中途半端なら、最後も中途半端かいと言われてしまいそうですが、僕はこのラストだけは良いと思った。

出所して、いつまでもヤンチャしたいアル・パチーノ演じるヴァレンタインに、
保釈保証人になって、ヴァレンタインを家に迎え入れるドクですが、ドクはどこか斜に構えて、
バイアグラを一気飲みするなどヴァレンタインのヤンチャを、いろいろな想いで見守ります。
ドクは健康問題もあってか、娼館での誘惑も断わり、酒もほとんど飲もうとはせず、タバコも吸いません。
そんな対照的なテンションの2人の一夜を描いたわけですから、もう少しハチャメチャやってもらいたかったですね。

この映画は、ある意味で予定調和的というか、セオリーに忠実にし過ぎましたね。
オリジナル脚本なのでしょうから、シナリオももう少しアレンジの余地があったのかもしれません。

結局、こういった難点をカバーできるほどフィッシャー・スティーブンスにも余裕は無かったと思います。
それゆえ、せっかくアル・パチーノとクリストファー・ウォーケンが集まっても、映画にマジックは起こりませんね。
もう少しハチャメチャをコミカルに描いた部分があれば、映画の印象は大きく変わっていたと思います。

どうでもいいけど、ヴァレンタインは一夜の間にステーキを何回食べるんだろう?(笑)
ドクの行きつけのダイナーのステーキが気に入り、朝方にもう1回行って、2枚注文するのがスゴい。
たぶん映画の設定としても、70歳近い爺さんの物語ということでしょうから、そう考えると、この食欲はスゴ過ぎる。

やはり朝からステーキをたいらげるぐらいでなければ、70歳を過ぎてもギラギラと生きられないですね。
正しく、これは「腹が減っては戦ができぬ」ですね。このダイナーでのシーンは、最も印象に残りますね。

その代わりと言ってはナンですが、人助けをするエピソードや教会で贖罪を乞うのは凡庸でした。
どうせ爺さんのヤンチャな一夜を描くのですから、ハーシュがスゴ腕ドライバーで猛スピードで
パトカーの追跡をかわすとか、それくらいのパワフルさで映画全編、押し切って欲しかったなぁ。
パワーがあれば、きっと映画にメリハリが生まれて、映画のスピード感も全く違っていただろうと思います。

そう、この映画、上映時間が短い割りに少々中ダルみしているというか、必要以上に長く感じました。

これこそ、作り手が何とかしなければならかった部分であり、
せっかくの豪華キャストに応える中身にして欲しかったなぁ。だって、クリストファー・ウォーケンも劇中言ってるけど、
「どうせ先は長く生きない」ということが分かる年齢なだけに、こういう共演機会は重要であったはずだ。

決してフィッシャー・スティーブンスも手を抜いたわけではなく、一生懸命やった結果だと思うけど、
主演俳優の魅力に依存して、どことなく中身が磨かれなかったのは勿体ない。もう一度、作り直して欲しい。

(上映時間94分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG−12]

監督 フィッシャー・スティーブンス
製作 シドニー・キンメル
   トム・ローゼンバーグ
   ゲイリー・ルチェッシ
   ジム・タウバー
脚本 ノア・ヘイドル
撮影 マイケル・グレイディ
編集 マーク・リヴォルシー
音楽 ライル・ワークマン
出演 アル・パチーノ
   クリストファー・ウォーケン
   アラン・アーキン
   ジュリアナ・マルグリース
   アディソン・ティムリン
   マーク・マーゴリス
   クレイグ・シェーファー
   ルーシー・パンチ