スタンド・バイ・ミー(1986年アメリカ)

Stand By Me

正直、自分の少年時代には本作で描かれたような“冒険”は無かった。

よくある話しですが...少年時代のヤンチャさを武勇伝のような感じで話したり、
実際よりはかなり“盛って”少年時代の出来事を話すということは、多くの人にあることだと思う。

僕には“盛って”話したって、ここまで壮大な冒険物語になることなんてありませんし、
幼い頃からの付き合いがあるという幼馴染もいないからか、本作で描かれたような思い出はない。
ただ、こういう懐かしいという感情はとても良いもので、映画を観てそんな気持ちにさせられるという、
良い影響力を持つことはできる分だけ、映画化にはもってこいの題材であるという見方はできるのかもしれません。

本作は人気作家スティーブン・キングが、少年たちの間でのホラー的な出来事をモチーフに、
そんな少年たちの“冒険”を描くという、懐かしい青春のひと時を描いた80年代を代表する青春映画だ。

正直言って、僕は本作、そこまで好きな映画ではありません。これは最初に記しておこう。

大人への階段を上る過程で、こういう時代が大人になってから思い出される感覚は
少々、センチメンタルなものでも素晴らしいものだと思うけど、本作は冒頭とエンディングでのみ登場してくる、
スティーブン・キング自身がモデルなのかもしれない作家の存在が、どうしても中途半端に見えてしまう。
この映画で訴求する要素があるとすれば、この作家に体現させることしかできないはずなのに。

一見すると、良い映画だ。でも、僕にはどうしても中途半端な映画に見えてならない。
大人になった作家を登場させる理由は、敢えてストーリーテラーを立てる必要がある物語だからだ。
別にストーリーテリングに小細工する必要がないならば、大人になって振り返らせる必要はない。

そこで、大人になって語らせる必然性を、子供ができた自分の立ち位置と、
仲間だった子供たちのその後を語るだけに持たせるというのなら、回顧録にすることに意味はないと思う。

スティーブン・キングの原作はホラー小説家で知られた作家な割りに、
自伝的な少年時代を描いた原作なだけに、ファンにとっては新鮮だろうし、確かにこれは小説として読めば、
面白いストーリーなのではないかと思えます。一見すると大した“冒険”ではないが、壮大な“冒険”を描いている。

スティーブン・キング自身を重ね合わせるようなキャラクターとして、
リチャード・ドレイファスに大人になった作家を演じさせているのですが、もっと彼に存在意義を与えて欲しかった。

ベン・E・キングの名曲 Stand By Me(スタンド・バイ・ミー)に重ねて描かれる映画ですが、
映画としては、この曲にかなり救われている。ハッキリ言って、この曲が採用されなかったら、
ここまで愛され続けていないかもしれません。それだけ作り手に、この曲の魅力を見抜く力があって、
映画を音楽に合わせるようにフィットさせることができたということでもありますが、どこかそれでは物足りない。

そう、良くも悪くもロブ・ライナーの監督作品という感じなんですよね。
ロブ・ライナーは数多くの秀作を撮ってきているし、それなりに力のある映像作家だとは思うんだけど、
彼の監督作の中で、決定打ある傑作と感じる作品に僕が出会えていない理由は、こういうところなのかもしれない。
やはりもう少し、全体像を捉えて映画を撮って欲しいですね。そうであれば、リチャード・ドレイファス演じる作家は
こんな中途半端な扱いで終わるはずがなく、キチッとした回顧録として成立していたはずなんですがねぇ。

映画はリチャード・ドレイファス演じる作家が、
チェンバースという弁護士が刺殺されたという新聞記事を読み、少年時代を回顧する小説を執筆するという
映画ですが、あくまで映画の中ではこれが実際の回顧録なのか、空想の世界なのかはハッキリと描いていない。
(まぁ・・・たぶん、自伝的な内容という設定なのでしょうけどね)

やはり本作でのリバー・フェニックスはインパクトがある。
ウィル・ウィートン、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコンネル、他の3人の子役たちも、
それなりに大人になってからもショービズの世界に残りましたが、その中でもリバー・フェニックスのインパクトは
ピカイチで、今尚、ハリウッドでもカリスマのような存在として、語り継がれる理由がよく分かります。

有名な話しではありますが、リバー・フェニックスは本作への出演をキッカケにして、
映画俳優として確固たる地位を築き始めていた矢先だった93年に、当時、ジョニー・デップが経営していた、
ナイトクラブで薬物のオーバードーズで倒れ、病院搬送後に死亡が確認されるという、最期を迎えてしまいます。

一説では、本作出演時点でマリファナを吸っていたという話しもありますが、
そういったスキャンダルはさておき、本作でのリバー・フェニックスは何度観ても一目置かれるだけあります。
やはり目が違いますね。本作が評価されて、一気に仕事が増えた理由がよく分かる芝居です。

スティーブン・キングらしく、少年たちの“冒険”が死体を探しに行くというのがホラーで、
どこか敢えて恐怖体験をしに行くように見えますが、いざ死体を目の前にするとトラウマになるかの如く、
ショックを受けてしまうというのが、少年たちがそれまで無縁だった死を強く意識する瞬間を描いている。

この辺はスティーブン・キングが描きたかったことそのものかどうかは分からないが、
子供から大人になるまでの過程の中で、誰しも経験する死を身近に感じるの重要性を的確に表現していますね。

個人的にはそこまで感情を強く揺さぶられるほどの力は感じなかったせいか、
いくらベン・E・キングの曲が良くても、映画の印象を良くするまではカバーできませんでしたが、
リバー・フェニックスという強烈なカリスマをプッシュして、映画俳優として出世させるためには、
必要な映画だったのでしょうが、僕の中ではもっと大人になってからの描写にもこだわって欲しかったというのが本音。

そういう意味で、スティーブン・キング自身、本作の出来に納得しているのかが知りたいですね。
スティーブン・キングは自身の小説が映画化されると、映画の中身を凄く気にしているようで、
有名な話しとして、キューブリックが80年に撮った『シャイニング』には満足していないとのことです。
であれば、いくら短編とは言え、本作の中身も気にしているはずで、彼の本音を知りたいですね。

と言うのも、本作、いつもスティーブン・キングの原作には
ホラー小説ではない場合でも、必ず“チョットだけ不思議な出来事”が描かれるのですが、
本作にそれが無かったことが、僕の中で違和感を感じるところで、これはスティーブン・キングの感想が気になる。

というわけで、時代を象徴する映画ではありますが、僕はそこまで秀でた作品ではないと思います。

(上映時間88分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ロブ・ライナー
製作 アンドリュー・シェインマン
   ブルース・A・エバンス
   レイノルド・ギデオン
原作 スティーブン・キング
脚本 レイノルド・ギデオン
   ブルース・A・エバンス
撮影 トーマス・デル・ルース
音楽 ジャック・ニッチェ
出演 リバー・フェニックス
   ウィル・ウィートン
   コリー・フェルドマン
   ジェリー・オコンネル
   リチャード・ドレイファス
   キーファー・サザーランド
   ジョン・キューザック
   ケイシー・シマーシュコ
   ゲイリー・ライリー

1986年度アカデミー脚色賞(レイノルド・ギデオン、ブルース・A・エバンス) ノミネート
1986年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
1986年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(ロブ・ライナー) ノミネート
1986年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(レイノルド・ギデオン、ブルース・A・エバンス) ノミネート